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OKAMOTO'S 『NO MORE MUSIC』の今だからこそ、新しい音楽を作り続ける

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

OKAMOTO'S7枚目のアルバム『NO MORE MUSIC』が好調だ。一作ごとに変化を求め、それを進化に変えてきた4人。60~70年代のロックの影響を大きく受け、そのルーツに対する愛情やリスペクトの気持ちを、誰にも何にも縛られない自由な発想と共に作品に映し出してきた。全員がスタープレイヤーであり、強烈な個性を纏うその音楽は、熱狂的なオーディンエンスを生みだしていった。ニューアルバム『NO MORE MUSIC』は、流れの速い音楽シーンの中で自分達が信じる音楽を、信じ合える4人とこれからも出し続けていくという、バンドとしての決意表明でもある。26歳のリアルな姿と音を詰め込んだ傑作を作り上げた4人に、インタビューした。

「こんなに音楽があふれている時代に、まだ音楽を作る意味はあるのか。自問自答した日々。出た答えは純粋に「音楽を作るしかない」(ショウ)

――まずは『NO MORE MUSIC』という意味深なアルバムのタイトルの事から教えて下さい。歌詞からは今の音楽シーンや、自分たちがやっている音楽への葛藤とか、色々な事を感じますが。

オカモトショウ(Vox)
オカモトショウ(Vox)

ショウ たまたまデモ曲に付けていた仮タイトルがこれで、まさかそれがアルバムタイトルになるとは思っていなくて。これまでアルバムを6枚リリースして、世間から常に求められているわけでもないのに曲を書いて、またアルバムを出そうとしている、そんなやや卑屈になった時期がありまして。でも書いてしまう、音楽が好きだしという気持ちが混ざったような微妙な心境というか。このアルバムには10曲収録されていますが、80曲近く書いたうちの10曲なので、日の目を見ずに消えていく曲達がたくさんあり、そう思うと、なんだか虚しくなってしまって。街中でイヤフォン、ヘッドフォンで音楽を聴きながら歩いている人はたくさんいるのに、でもCDは売れないという現状で。違法ダウンロードなんかもまだまかり通っていて、でも新譜はどんどん出てきて、みんな今何が欲しくて、何を聴いているのかな、とふと思いました。こんなに音楽が溢れている時代に、まだ音楽を作る意味はあるのかと。でもそういう思いになれたからこそ、純粋に「音楽を作るしかない」と思えた部分もある。「NO MORE MUSIC」という言葉は、意味としては強いですし、面白いと思っていて、そのメッセージに対してメンバーそれぞれが共感していき、結果、アルバムタイトルになりました

「まだちゃんと聴けていない音楽がたくさんあるのに、次から次へと新譜が出て、一旦全ての新譜のリリースをストップしてくれないかなと思った事もある」(レイジ)

オカモトレイジ(Drs)
オカモトレイジ(Drs)

レイジ 俺は歌詞自体そのままで受け取ったし、個人的にも聴きたいアーティストの作品が次から次へと発売されて、まだきちんと聴けていない作品がたくさんある中で、また次から次へと新譜が発表されていく中で、一旦新譜のリリースをストップしてくれないかなと思ったことがあって。音楽がすごく好きだから、なくなって欲しい、聴きたくないという事ではなくて、全体的に新譜の発売のペースを一度落として、今手元にあるものをゆっくり味わって聴きたいなと思いました。音楽との距離が近くなりすぎている気もして、ショウが言っていたのは作り手側の「NO MORE MUSIC」で、俺は聴き手側の「NO MORE MUSIC」で、そこがバンドの中でリンクしたので、アルバムタイトルにすればいいんじゃないかと提案しました。

「”NO MORE MUSIC”の上で、新しい音楽を求めて作品を制作するという、バンドとしての決意表明」(コウキ)

――なるほど、作り手として、また聴き手として、ひとつのバンドの中で同じキーワードにぶつかり、深くお互いが理解してまた音楽を紡いでいくというのがいいですね。

レイジ あとよくも悪くも、音楽は残りすぎる。いまだにビートルズの作品が売れていたり、そういう意味でも「NO MORE MUSIC」なのかなって。今また若い人の間で、ブルーハーツが人気だったり、もう新しい音楽はこれ以上はいいんですかと思ってみたり。

オカモトコウキ(Gtr)
オカモトコウキ(Gtr)

コウキ 僕も詞の内容にすごく共感を覚えたというか、同じ事を思ったこともありました。ただ「NO MORE MUSIC」というタイトル自体が逆説的というか。「NO MORE MUSIC」なんだけど、それをタイトルにした音楽を出すわけで、同時にミュージシャンなので作品を出していかなければいけなくて、「NO MORE MUSIC」の上で、どういう音楽を表現するのかという、ある種の決意というか。「NO MORE MUSIC」の状況でアルバムを出す理由は何だろうと、それでもまだ新しい音楽があると思って頑張って制作するという、ある種の意思表明の様なことにもなると思っていて。完全にネガティブなことではなく、ポジティブな決意として「NO MORE MUSIC」という意味もはらんでいると思ったので、すごくいいと思いました。タイトルとしてキャッチーですよね。

「”NO MORE MUSIC”という言葉を提示して、「どうしたの?何かあった?」と汲み取ってもらえたらいい方だと思う」(ハマ)

ハマ・オカモト(B)
ハマ・オカモト(B)

ハマ 今の話をふまえて、ヒリヒリしていていいなと思いました。中身がわからないということはなかったのですが、きっと悲観的に捉える意味合いもあるし、どうしちゃったんだろう?という推測もきっとあるだろうし、ただ同時に「NO MORE MUSIC」って言われて「何かあった?え、どうしちゃったんだろう!?」と汲み取ってもらえたらいい方だと思っていて。きっと何も思わない人の方が多いのが現状で、言葉は入ってきますが、「NO MORE MUSIC」と聞いて、日本語に変換してその意味を少しでも考えようと思う人がどれくらいいるのかと正直思っています。音楽以外にも、あらゆるモノが目の前を流れていって、あふれている、そういう世の中で問う事ができる、最上の表現が「NO MORE MUSIC」というか。単語自体は簡単で、意味というか文章になったときの違和感はあまりないと思うので、いいなと思いました。

――アルバムを聴くとすごく楽しそうに音楽をやっているのが伝わってきて、前作の『OPERA』というアルバムがコンセプトアルバムだったので、逆に自由度を感じるというか。さらにそれぞれが自由な気持ちで一枚作って、音楽をすごく必要としているんだなと思いました。

ハマ それを言ってほしかった、嬉しいです(笑)。

「今までは歌にしなかった”ありきたりすぎる”事を、今回は歌にした。その方が”強い”事がわかった」(ショウ)

――歌詞は内省的というか、比較的自分の近くの風景を描いている曲が多いですね。

ショウ そうですね、これまではありきたりすぎて、歌にしなかったことを歌にしていきたいという思いです。前作の『OPERA』を作った時に、共感できる事を歌うことの強さというものを感じて。デビューした頃は、自分から遠くにあるものを歌う事で、逆にそこに近づける喜びという感覚が強かったのですが、でもそうではなく、身の周りの事を歌っているほうが強いなと。『OPERA』では物語を推し進めなければいけなかったのですが、今回は自由に自然体で、自分のホームタウン、俺はニューヨークで生まれたからニューヨークのこともそうですし、世田谷区のこともたくさん書いて、それがいい感じで伝わったらいいなというか。だから内省的といえば内省的ですし、ノスタルジーのようなものにも最近すごく興味があって。メンバーとは中学校から一緒なので、結構遡らないとノスタルジックな気持ちにならなくて。最近そこに触れる機会があって、その感動があったので歌にしてみたいという気持ちはありました。

「4人は究極のリスナーという感覚がある。だから同じベクトルで表現できるという結束力の強さが、大前提としてある」(レイジ)

――4人で音を出して、ああでもない、こうでもないってやっている時間がやっぱり今でも一番楽しいですか?

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ショウ そうですね。それをストレートに言えない、曲がった性格の4人ですけど(笑)。例えばバンドが解散しても構わない、俺はただ音楽をやりたいんだということじゃないと最近思います。バンドがあって、この4人で音楽を作っているからこそ楽しいというか。音楽以上にバンドが大事です。

レイジ 個人的に4人は究極のリスナーだなという感覚があって、そもそも音楽を聴くことがとにかく好きで、4人でやっているのが嬉しいというのは言葉にするとそうなるとは思いますが、それ以前の問題で結束力が強いのだと思う。同じベクトルで表現するのがたまたま同級生で、たまたまこの4人だったということもあると思います。面倒くさいタイプの音楽好きです(笑)。

コウキ 本当だよね。いまだに3人が一番音楽の話ができる相手です。積み上げてきたものもありますし。

――色々なアーティストとコラボをしていて、フェスに数多く出演していますが、そういう時に他のアーティストと音楽の話をする機会があってあまりないんですか?

ハマ もちろんありますけど、音楽の話で盛り上がることがあまりないです。

ショウ たぶん俺たちがいるフィールドが、音楽好きがストレートに評価されるフィールではないのかもしれない。

ハマ あとさっきレイジが言ったような、リスナー兼ミュージシャンは意外といないのかもしれません。楽器を演奏したり、バンドをやることに対しての熱量はみんなあると思いますが、それと同じくらい音楽をどう捉えているのかということが大切だと思っていて。少し偉そうに聞こえるかもしれないですが、そこはないけどバンドに関してはすごい自信と熱量持っている人はたくさんいる。そういう人たちからすると、僕らは本当に面倒くさい連中だと思います。

「今までで一番時代を意識して作った。でも擦り寄るのではなく、今こそ自分達の持ち味、ファンキーさが武器になると思った」(ショウ)

――前作の『OPERA』のようなコンセプトアルバムを作った後の一枚は、どんなテーマ、キーワードでいこうと思ったのでしょうか?

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ショウ 今回はファンキーやアダルト感、大人っぽさが最初にキーワードとして出てきました。

コウキ バンドとして第三期に突入する感じもあって。

ショウ 日本の音楽シーンも、2~3年前の、ポップなものの方が売れるし、そういう音楽が受け入れられやすいシーンからどんどん変わってきていて、同世代のバンドで洋楽っぽいカッコいい音楽をやるバンドも出てきて、その流れを見つつ、自分たちが何をやればいいのかを意識しました。なので、今までで一番時代を意識して作った感じはあります。でもただ時代に擦り寄っていったわけではなく、ファンキーさは元々自分たちの土壌にあったものですし、評価されてきた音楽性でもあって、でもそれを強く推し出す事は温存してきたという感覚が強くて、だから今回はその武器を、今こそ出してやるという意識もありました。

「「Cold Summer」はこれだけ英語を使ってNGが出なかったのは初めて。今まではやたらと英語は…って言われていたので」(ハマ)

――そんな“強い”アルバムの中で、どれも大切な作品だと思いますが、特に気に入っている作品を、お一人ずつ教えていただいてもいいですか?

レイジ 俺は「Cold Summer」。ヒップホップの作り方でAメロを作っていって、そこからバンドサウンドになるという流れが、今まで他でも聴いた事がないくらいスムーズにできたので。ヒップホップとロックが混ざると、どうしてもヘビーになってしまうというか、ラウドロックに向かいがちで、そういう曲はよくあるけど、この曲のようなUKロックと西海岸ヒップホップが融合した感じは、音楽的に斬新だなと思って満足しています。

――「Cold Summer」は全編英詞ですが、ショウさんは英詞と日本詞はいつも同じテンションで書いているのですか?

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ショウ ある意味同じテンションで書いていますが、5歳までアメリカにいたので、まだ小さかったという事もあり、人に気を遣い始める前に身についた英語なので、素直な気持ちが出やすいのかもしれません。この曲も「BROTHER」も。

コウキ 英語がこんなに出てきたのは初めてだよね。

ショウ 頑張って出してみた。

ハマ これだけ英詞を使って、NGが出なかったの初めてですね。やたら英語は英語はと言われてきたので

ショウ 各所から、英語の曲は受け入れられにくいと危惧されてきて。もちろんそれもわかりますが、俺はこの感じで普通に英語で歌ったら、普通すぎてつまらないでしょと思っていた節があって。60年代のロックが好きで、英語で歌ったらそのまますぎるので、日本語詞で歌う方が面白くない?と思っていたら、実はその部分が誰にも伝わってなくて。じゃあ英語でやろうと。逆輸入の輸入を逆輸入、という事をしたかったけど、真意が全然伝わらなかった。

ハマ やっていることがあまりに伝わらないというか。

レイジ 客観的に見ていて、自分の感情と直結している英詞は、日本であまり見かけないけど、ショウが書く英詞はナチュラルでかっこいい。

ショウ 嬉しいです

「「Star Light」は、これからの新しいバンドのスタイル、可能性が見えてくる」(ハマ)

――言葉のリズムと音がはまっていますよね、言葉が発するリズムみたいなのが、すごくありますよね

ショウ どんどん言って欲しいです、褒められてのびるタイプなので(笑)。

コウキ 僕は自作の「WENDY」です。この曲は堂島孝平さんにプロデュースをお願いして、元々山下達郎さんの楽曲の様な雰囲気をイメージしていたので、ポップに振り切っていいのかなと思って、堂島さんにお願いをしたら最高の仕上がりになりました。

――「NO MORE MUSIC」からのこの曲の流れがすごくよかったです。

『NO MORE MUSIC』(8月2日発売)
『NO MORE MUSIC』(8月2日発売)

コウキ アナログレコードで考えると、B面の1曲目が「NO MORE MUSIC」になっていて、「WENDY」に続く感じですね。

レイジ レコードでいうとA面はほぼショウの曲で、B面はコウキの曲ということになります。

ハマ あと、思い入れというか苦労したという意味では「Star Light」は最初、自分で持ってきたフレーズが全然はまらなくて、サビは現場で1から練り直しました。なおかつ今まで作ってきた中で、一番気に入っています。あと、二人(ショウとコウキ)が交互に歌っている曲が最後に入ったという事も含めて、ここからの新しいバンドのスタイルというか、可能性も見えますし、すごく思い入れが強い曲です。

レイジ 本当は「SAVE ME」で大合唱して終わる感じでもよかったんですけど、自分たちでクスっとしてしまって、それで終わるには照れてしまう部分もあるので、結果ラストは「Star Light」になりました。

ショウ アルバムの収録曲候補が粗方出そろって、最後の最後にハマ君が「久々に共作してみたら」と提案してくれて、コウキ君と一緒に詞も曲も作った内の1曲が「SAVE ME」で。アルバム全体にもっとエキサイティングさが必要かなと思って。

コウキ 時代とのマッチングも含めて、パワーのある曲を作る事ができたと思います。

ハマ ライヴでも映えそうな曲だと思っています。

「(リリース後は)曲が成長するというか育つ感覚。オーディエンスの力が影響する」(コウキ)

――ニューアルバムに収録している曲は、ライヴで演奏して完成するという考え方ですか?それともアルバムが完成した後は自分達の手を離れ、もう聴き手のものという考え方ですか?

ショウ 後者の方が強いです。

レイジ ライヴで完成するとはあまり思っていないですね。再現できない部分もあるし、ライヴはその日に来てくれた人だけのものとして、別枠で成立させたいと思っています。

ハマ どちらとも言えると思います。1曲1曲数時間向き合った全力の結果のパッケージと、その曲を一生こねくり回せるライヴ、という感じなので、個人的にはこの一瞬の大健闘はこれでいいけど、思いついた事をライヴだとすぐ試せるので、それはそれで魅力があると思っていて。瞬間芸と伝統芸というか、ずっとやっていくものとの差のようなものが個人的にはあるので、どちらも楽しいです。

コウキ 完成という言葉が少し違う表現なのかもしれません。曲が成長していく感じもあるので。最初に作った時は、こんなにライヴでやるつもりではなかった曲も、今や何年もセットリストから外れない曲になっていたりするので。曲が成長するというか、育つ感覚が一番近いです。たぶんそれが別に完成とも思わないし、かといってライヴでやっていない曲が成長しないということでもないですし、それぞれ違う育ち方をします。でもいずれにしてもお客さんによって左右されるということはあって、曲を成長させるのもオーディエンスだと思っています。

ハマ 僕ら的にはせっかく作ったし、やってみるかと、あまり考えずにライヴでやったものが、すごくリアクションが良くて、ずっとやることになる曲もあったりするので。その曲に愛情がないわけではなく、作り手が思っている以上にお客さんに愛してもらえる曲になったりするので、そこが面白いですし、ライヴをやらないとわからないところだと思います。

OKAMOTO'Sオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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