Acid Black Cherryのカバー集が好調 ロックスターは”名曲伝道師”

Acid Black Cherry、ボーカル・yasu

Acid Black Cherryのライフワークのひとつ、”名曲を次の世代に唄い継ぐ”がコンセプトの『Recreation』シリーズ

Acid Black Cherry(ABC)が1月25日にリリースした、日本の音楽史を彩る名曲をカバーしたアルバム『Recreation 4』が好調だ。ABCは、Janne Da Arcのボーカリスト・yasuが、ソロプロジェクトとして2007年に始動させ、以来シングル19作、オリジナルアルバム4作をリリース。年々ファンを増やし続け、ライヴの動員も伸びていて、女性はもちろん、男性ファン、家族連れ、とにかくありとあらゆる層が駆け付け、チケットが入手困難なアーティストのひとつだ。

2015年7月から8月にかけて名古屋、幕張、大阪の3都市で行ったフリーライヴ「ABC Dream CUP 2015 LOVE」では、なんと10万人を動員。フリーライヴとしての国内最多動員数を記録するなど、注目を集め続けている。ではなぜそこまでABCが人気なのか。そのハイトーンで艶やかでセクシーさを感じさせてくれる歌声と、ライヴでのMCは下ネタが炸裂し、面白くかつ気取っていない、“エロさと切なさと力強さ”を持ち合わせているところに惹かれる人が多いというのは、これまで色々なところで書かれているし、確かにそうだと思う。そう、圧倒的な憧れの中にも親近感を感じる、ロックスターなのだ。そこが独創的であり、特異的であり、稀代のロックスターである所以でもある。そしてロックスターのもうひとつの顔が、“名曲伝道師”だ。

“名曲を次の世代に唄い継ぐ” がコンセプトのカバーアルバム『Recreation』シリーズを、これまでに3作リリースし、今回が第4弾だ。ロックスターは、次代のリスナーに、日本の音楽史に残る名曲、先人たちが骨身を削り作り出したメロディと言葉を、きちんと伝えなければいけないという“使命感”を感じて、歌い続けているとしか思えないほど、限りないリスペクトを持って、その魅力を伝えている。

『Recreation4』でも、ボーカリストyasuの血となり、肉となっている直接影響を受けた名曲達、その音楽のバックボーンの一角をなす、気になっている、気なっていった1980年代~2010年代の名曲達が12曲収録されている。

yasuが作りだすオリジナルの作品は、とにかくその音楽性の幅が広く、ロック、ヘビィメタル、ジャズ、ポップスから歌謡まで――でもそのど真ん中を貫くのは、圧倒的なポピュラリティ、歌謡曲のテイストを湛える旋律だ。そこには彼がこれまでカバーしてきた、日本の名曲のDNAが確実に存在しているし、だからこそビジュアル系のファンだけではなく、幅広いリスナーに支持されているのだ。

AKB48、Mr.Children、松任谷由実、絢香、BOOWY他の名曲をカバーした『Recreation4』

話を戻そう。『Recreation4』は決して懐古主義に走る事なく、絢香の「三日月」(‘06年)AKB48「フライングゲット」(‘11年)など最近の作品も取り上げている。yasuがボーカリストとして歌いたい曲、メロディメーカーとして、時代を超越する普遍的なメロディであると感じた曲を、奇をてらうことなく“素直”に披露してくれているように感じる。

日本のR&Bシーンの頂点に君臨する、久保田利伸の名曲「流星のサドル」(‘86年)を、「改めてハイレベルな楽曲やなと思いました」(yasu・以下同)とロックシンガーが歌うと、とてつもなく新鮮な仕上がりになっている。yasuがまるでTHE ALFEEのメンバーだったと思ってしまう錯覚に陥る「星空のディスタンス」(‘84年)では、原曲に忠実なボーカルを聴かせてくれ、驚かされる。きっとyasuと同じ志で、カバー集『VOCALIST』を出し続けたであろう徳永英明の「輝きながら…」(‘87年)を歌っている事も、このアルバムのトピックのひとつだ。「インディーズの時、ライヴハウスでライヴしてた頃、アンケートに、“徳永さんの声に似てる”って、書かれてたことがあってん」と語っているように、二人の声質には、抜群の肌触りという共通点がある。「“ちょっと新しい時代の曲も唄ってみようか”ってことになって唄ってみました」という絢香「三日月」はバンドサウンドと美しいファルセットが印象的だ。

『Recreation4』(1月25日発売/CD+DVD盤)
『Recreation4』(1月25日発売/CD+DVD盤)

「僕がバンドを始めるきっかけを作ってくれたバンド。BOOWYといえば「NO. NEW YORK」なんですが、今回は「CLOUDY HEART」(‘85年)を歌ってみました」。そして「当時聴いたとき、まず歌詞が刺さった」というTHE BLUE HEARTSの「青空」(‘88年)、この2曲、2アーティストはyasuが10代の頃に刺激を受け、バンドへの興味を持つきっかけになった、ダイレクトに影響を受けているものだ。ABCのサウンドを支えるバンド陣と、“初期衝動”を楽しんで歌っているかのようだ。今回の作品のジャケット写真は、夕暮れ時の河川敷でギターケースを持ったyasuが、同じくギターケースを背負った少年とすれ違い、あの頃を思い出しているかのような、どこかノスタルジックな雰囲気のもので、あの風景はこの曲達に繋がっている。ちなみにジャケット写真が撮影された場所は、yasuの故郷・大阪府枚方市の、yasuが子供の頃よく遊んでいた河川敷だ。

数あるユーミン作品の中から、アルバム『DA・DI・DA』(‘85年)に収録されていた、麗美に提供した名曲「青春のリグレット」を採り上げているのも面白い。「だんだんとキーが高くなり、ご本人よりも半音高くなってしまいました(笑)」とyasu流に仕上げた。サザンオールスターズ・桑田佳祐が、高田みずえに提供した「私はピアノ」(‘80年)は、サザンのアルバムに収録されているものでは原由子が歌っているが「僕が5歳の頃の曲なんやけど、テレビの歌番組で高田みづえさんが歌っているのを聴いて、記憶に残ってたのもあって、自分から唄いたいって言って唄った曲。大好きな曲です」と言うように、練り上げられたアレンジに乗せ、愛おしむように情感豊かに歌い上げている。「ユーミンさんの選曲と同じで、敢えて王道を外そうということで」尾崎豊の「Forget-me-not」(‘85年)を選んだ。この曲は槇原敬之や清水翔太もカバーしており、ファンの間でも人気の曲で、アレンジはもちろん原曲とはガラッと違うが、真っすぐに歌を届けようという想いが溢れている一曲だ。

『Recreation』(CD ONLY盤)
『Recreation』(CD ONLY盤)

「なるほど、こうきたか」と思わせてくれたのがAKB48の大ヒット曲「フライングゲット」。「もう1曲くらいABCバンドで見せられる曲があってもいいなと思って」という通り、メタルサウンドを基調にしたアレンジが轟き、しかしyasuの歌と相まって、どこか哀愁感漂う仕上がりになっているから不思議だ。意外性という意味ではプリンセスプリンセスの「M」(‘89年)にも驚かされた。アカペラというスタイルで、ボーカリストとしての力を見せつけているともいえる1曲だ。セカンド、サード、トップ、ベースの4声を重ねて作り上げ、今回の作品の中では一番苦労したようだ。しかし「360度yasuな1曲です(笑)」という言葉通り、yasuの最強の武器、声を幾重にも重ねる事で、優しく、強く、深く、せつなく、そして迫力も感じさせてくれる出色のデキだ。ラストのMr.Childrenのスタンダードナンバー「Tomorrow never knows」(‘94年)も、ビールの宣伝文句ではないが“キレがあるのにコクがある”仕上がりになっている。誰もが知っている国民的ヒット曲を、最後に高らかに歌い上げ、“名曲伝道師”としての使命を果たすと同時に、“もっと聴きたい”と思わせてくれ、また“次”を期待させてくれる、そんな空気を醸し出している。

自分の血となり肉となっている名曲を歌う事で、アーティストとしてさらに”深化”していくと共に、その名曲はさらに、また誰かの血となり肉となる

この『Recreation4』はこれだけでは終わらない。というか、音楽の素晴らしさ、名曲の良さを伝えたいというyasuの溢れる想いはとどまるところをしらず、【CD+DVD盤】に『The Live Show“Recreation”』という、テレビの音楽番組風のショートプログラムを収録した。「恋におちて」「GLAMOROUS SKY」「青空」をスタジオライヴで聴かせてくれ、さらに自身が大きな影響を受けた小室哲哉とのスペシャルトークも必見だ。この二人、意外にも初対談で、時代を切り拓いてきた二人の音楽家の話にひきつけられる。

自分の血となり肉となった名曲を“使命感”を持って歌い継ぐことで、それがまた新たな刺激になり、アーティストとして“深化”を続けていく一方で、これを聴いた誰かの、また血となり肉となり名曲はさらに歌い継がれていく。そういう意味でも人々に美しく深い情感を感じさせるAcid Black Cherry、ボーカリストyasuは、稀代のロックスターであり、“名曲伝道師”なのだ。

『Recreation4』スペシャルサイト