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ビートたけしが情熱を燃やす、今一番”らしい”場所、ネットマガジン『お笑いKGB』の現在

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
『お笑いKGB』編集長・ビートたけしと副編集長・アル北郷

ビートたけしが”今一番夢中になっている事”が、自身が責任編集を務めるネットマガジン『お笑いKGB』だ。スタートから約半年が経ち、毒舌、下ネタが飛び交う過激な内容、マニアックなネタ満載でユーザーからは「ビートたけしのオールナイトニッポン」を思い出す」という声が多く届いているという。サービスインの時に、ビートたけしの側近であり『お笑いKGB』副編集長でもあるアル北郷にインタビュー(「ネットマガジン創刊の裏側」)したが、その後、たけし編集長の戦略と思惑に変化はあったのだろうか。再びアル北郷にインタビューした。

たけし発案で、ネット会員とBBQ大会

『お笑いKGB』大BBQ大会
『お笑いKGB』大BBQ大会

――ビートたけし責任編集『お笑いKGB』がサービスインして約半年経ちますが、コンテンツを見ているとたけしさんのこのネットマガジンにかける情熱は相当ですね。スタートしてすぐ、6月末にたけしさん発案で読者サービスのバーベキュー大会をやりました。あれは読者は嬉しいですよね。

北郷 そうですね、元々は殿(たけし)が高尾山に行きたいと言いまして。なんでここにきて山に登りたいのかがよくわからなかったのですが、そこから話が二転三転して、だったらBBQにしようと。本人は「50人くらい呼べるだろう」って言っていましたが、セキュリティ的にも無理があって、最終的に17人でやることになりました。当日はドタキャンもなくて、全国から全員来ていただけました。お客さんへのお土産のグッズも殿が自分で選んで、家から持ってきてくれました。殿は2時間くらいよく喋って、ファンを盛り上げてくれて、僕も横で聞いていて、本当にファンを大切にする人だなと改めて思いました。

――豪華な食材が並んでいましたが、あれはたけしさんのポケットマネーから…。

北郷 食材の一部は知り合いの方がスポンサードしてくれました。殿には「お客さんに交通費は出しているのか」と言われましたが、「飲食代は無料なので交通費はさすがに…」って言ったら真面目な顔で「それはだめだよ」って言われました。「申し訳ないですけど殿のポケットマネーでお願いします」と言いましたが、やるなら徹底的にサービスしろという考えなんです。

――感激して泣いているファンの人もいました。

北郷 そうでしたね。殿もファンとの交流がよっぽど楽しかったのか、BBQ大会の後、何かの取材の時「これからは生の時代だ」って言っていました。「テレビに出られなくなっても、俺にはファンがいるんだ」って。みんな知っているよって話ですが(笑)。本人は改めて感じたんでしょうね、ファンの前でしゃべっているのが一番楽しいと言っていました。BBQ大会が終わってすぐに、次は何しようかと話し合いました。来年になってしまうと思いますが、また交流の場を設けようと思っています。

「殿はまだ飽きてないです(笑)。逆に『KGB』の話ばかりで、会員数もTVの視聴率と同じように気にしています」

――『お笑いKGB』がスタートしてからも、たけしさんからアイディア、企画がとめどなく出てきているそうですが。

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北郷 そうなんですよ、殿はゴルフもそうなんですが、やる時はとことんやるのですが、飽きてしまう殿も見ているので、『KGB』も飽きられたら怖いなと思っていました。でも全然飽きなくて(笑)。会うたびに“KGBノート”を持っているんです。殿は、映画ノートとお笑いノートと”KGBノート”をいつも持っていて、”KGBノート”にネタを箇条書きしています。僕は週に2~3回殿に会う時間があり、会うたびにまずはノートを出してきて「写真撮っていいぞ」って。メモが追いつかないので録音&写真です。下ネタ川柳、新しいアイディア、それとライヴが近づいてきているのでライヴでやりたいこと…。僕も、全部真に受けていると体が持たないので(笑)、失礼ながらこっちの判断で、これはやらなくていいだろうってスルーすることもあります。でも本人は記憶力がよくて覚えているので、次の週に「北郷、あれどうなった」って聞かれるとまずいので(笑)、3回ぐらい精査してこれはやらないとダメだ、これは今保留にしていても大丈夫だと、自分の中で仕分けしています。何か思いついたら電話もかかってきます。

――副編集長として現場を仕切っている北郷さんから見て、ネット上の反応はいかがですか?

北郷 僕もエゴサーチするのが好きなので、よくチェックしていますが、今のところまだネガティブな事は書かれていないです。このネットマガジンの会員は、年齢層が高いと思います。40歳よりも上かもう少し下か、だからマナーがいいのではないかと。クレームが来た事もないですし。こういう企画やってくださいとか、リクエストはあります。ヒントをいただいています。

――たけしさんは会員数を気にしているのですか?

北郷 ものすごく気にしています(笑)、テレビの視聴率を気にするように。「どうだ(会員数)増えたか」とよく聞かれます。スタートして半年経って、本人の中では「俺がやっているんだからもう1万人くらいはいるんだろう」って思っているようで(苦笑)。まだまだ『KGB』の存在、殿がネットマガジンをやっているのを知らない方がたくさんいて、業界の中の人にも「え、やってるの?」って言われますから、一般の方にはまだまだ浸透していないと思います。殿も「ダメだなもっと会員増やそう」と、ライヴもこうしようああしようと、すごく気にしています。

――バズを起こせと。

北郷 殿と話をしていたのが、『KGB』ライヴのチケットを手に入れる条件として、SNSをやっていない人は必ず始めてもらって、ライヴの1か月前になったら、「こういうのをやるらしい」とか「ワクワクする」というのを一斉に呟いてもらうと(笑)。それでライヴが終わったら答えは一つ、感想は一つだと。「たけしさんカッコよかった」「KGB最高」「こんな豪華でいいのか」と呟いてもらって、一斉にやれば少しは違うだろって。とにかく書き込み、口コミが一番早いだろと(笑)。

――あながちやり方としては間違いではないですよね(笑)

北郷 はい、でもそれを強制的にやらせるというのが殿っぽいというか、そこも楽しんじゃうみたいな(笑)。

「ビートたけしのオールナイトニッポン」と繋がっている感じがするという声が多い、一番”ビートたけしらしい”場所

――コンテンツが充実してきて、読むのも大変なほどのボリュームですが、これから新しいコンテンツはまだまだ増えていくと。

『お笑いKGB』トップページ
『お笑いKGB』トップページ

北郷 殿からアイディアはどんどん出てきていますし、嬉しいことにコラムを書きたいという人がたくさんいて。「私とたけし」というシリーズがあって、最終的には例えば「ホテルマンとたけし」とか、一般の人でもいいかなと。今ブログで素敵な文章書く人がいっぱいいるじゃないですか。電車の中で読む人が多いから、インタビューの文字数もう少し絞って、コラムも必ず2000字以内にしてサクっと読めるものにしてもいいかなと思っています。ただコンテンツは増えていくと思います。殿のアイディアで、まだ実現できていないものがいっぱいあるんですよ。あとはアプリも作らないといけないです。そうしないと若い人は入ってこないですし、僕らスタッフのスキルをもっと上げていかなければいけません。半年経って色々と見えてきて、手を加えなければいけませんが、内容は殿が関わっている番組で、唯一下ネタが炸裂しているというのがウリで、そこは変わりませんが(笑)。

――一番たけしさんらしい“場所”ということですよね。

北郷 昔、殿がやっていた「オールナイトニッポン」と繋がっている感じがするという声が読者からも多いです。一般の方からの下ネタ川柳を選んで、殿が赤(修正)を入れていますが、ああいう姿を見ていると、昔の「オールナイトニッポン」の感じが蘇って嬉しいですという声を聞いて、そう言われると嬉しいですし、さらに若い人が参加してくれればもっと嬉しいです。殿も「KGBの会員になったらたけしに会えるぞ」と、もっとアピールしろと言っています(笑)。

11月22日初の『KGBライヴ』は、お客さんも打ち上げに招待!?

――11月22日の『KGBライヴ』はたけしさんも力が入りますね。

北郷 ただそこもファンを呼んでライヴをやるだけではなく、終演後は打ち上げがもちろんありますので、ファンの中から抽選で何人か選んで、好きなだけ飲んで食べてもらって、帰りのタクシー代まで出すという。殿はチケットを買ってもらった以上は、とことんサービスしないと気が済まないみたいです。ライヴも最初本人は「2000円でやれよ」って、「いや殿さすがに2000円は無理ですよ、赤字ですよ」と、泣く泣く3500円でやりますが(笑)、でも3500円って安いですよね?普通に若手のお笑いライヴでも3500~5000円取るじゃないですか。だからギリギリでやっています。殿もお金儲けと思われるのは嫌じゃないですか、もちろん殿のギャラはないですよ。本人はもっと大きいところでやってもいいと言っていますが、さすがにスタッフの数も限られているので、今回の世田谷区民会館で約1200人なんですが、それが限界ですね。

――それでも結構な数ですよね。

北郷 普通1000人超える公演だと、割と大きな制作会社を入れますが、素人集団がやりますから。舞台監督も警備会社も僕の知り合いに格安でお願いして。その予算を他に回せますし、殿にははっきり言っています、「舞台も凝ったことはできません、パイプイスとスクリーン出すだけです」と。殿は「それでいいじゃないか、それはそれで楽しんじゃえばいいじゃないか。別に俺はミカン箱の上でもいいんだ」と言ってくれていますが、そういうわけにもいかないじゃないですか(笑)。1時間半ミカン箱の上に立たせて、しゃべらせるわけには…(笑)。本人はそういうことに文句は言わないんです。「殿、当日はのり弁ですよ」と言っても「いいじゃないか」って。でもいざのり弁が目の前に出てきたらきっと「弁当がせこいな」って言いますけどね(笑)。舞台監督は元芸人だし、芸人みんなで作る感じも殿好きですから。たけしさんの…って言った瞬間、みんなノーギャラでもやらせてくださいってなります。そこがたけしさんのコンテンツの強いところで、まず断られることがないですし、スケジュールが入っていても、ずらしますっていうくらいのやる気がある連中ばかりです。でも殿には見透かされていて「ギャラは安いけど打ち上げでたけしと飲めるとか言ってんだろ」と言われます(笑)。正直、たまに言います(笑)、殺し文句としてそれは使っています(笑)

――たけしさん自身も楽しんでいて、結果的にたけしさんが北郷さんはじめ、みなさんを楽しませているということになっていますよね。

北郷 そうです。打合わせをしていても、楽しくて仕方ないですし、殿と二人きりで膝と膝がぶつかるくらいの距離で話ができるなんて、夢みたいですよ。しゃべっていて殿ってこんな匂いなんだなって改めて思ったり…(笑)。中学校の頃の自分に教えてあげたいといつも思います。自分はR-1で勝ったりとかそういう実績が何もないのに、殿の横でしゃべっていたらそれが仕事になっていて、ギャラをいただいているわけですから、めい一杯頑張らなければいけないじゃないですか。

「編集会議はTV番組の打合せの合間と、トイレへの往復の時間」

――『お笑いKGB』は、いい意味でたけしさんの今一番お気に入りのおもちゃになっている感じですね。

北郷 そうだと思います。企画会議は殿のスケジュールもらっているわけではなく、テレビ番組の収録の合間にやらせてもらえるのが大きいです。収録って絶対待ち時間があって、でも殿はせっかちなので、そこで寝て過ごすタイプではなく「何かないか」という人なので、そこで打合せができるのが、殿にとってもいいのだと思います。ただあまりにも『KGB』のミーティングをやりすぎて、番組の打合せが疎かになって、テレビ局の人がこっちを睨んでいるという事も度々あります(笑)。それと殿はああいう人なので、かしこまった打合せよりも、雑談の中からどんどんアイディアが出てきますので、だから番組の打合せをしていたらそこから話がそれて、気がつくと『KGB』のネタになっているという事が多いです。それをなぜか関係ないテレビ局の人が聞いて笑っているという(笑)。雑談というか「殿、今月はこうしましょう」ってかしこまるよりも「この間あれですもんね」という話から広がって、そこから「これKGBでできるな」と決まるスピード感が大きいですね。楽屋からトイレまで話をしながら行くとそこでネタ決まったりします。僕はトイレにも付き人のようにタオルを持ってついて行きますので、二人で話ができるチャンスですし、じゃあこうしようって話が決まる事が多いです。当たり前ですけどちゃんと顔を出して、色々報告しないと殿も僕に飽きてしまうと思うんです。半年に一回顔出して、何か企画下さいって言われたって……と思うじゃないですか。それとあまりにもこちらがネタをくれくれという顔をしているとダメだと思います。そこは空気を読んで接しないといけません。殿はただでさえ色々な案件を抱えています。本人には言えませんが、下ネタ川柳を作って、その後、映画の打合せに行ったりすると、隣でものすごくまじめな難しい話をしていて。一体この人の頭の中はどうなっているんだろうって感心しています。でも40年近くそうやってきたので、習慣になってできるのだと思いました。ここまで関わっていると、殿のモノの作り方少しずつわかってくるので、すごく面白いです。僕はすぐにさぼってしまうタイプで、でも殿に週3回会うと色々報告しなければいけないので、そこでケツを叩かれている感じがします。今日は『KGB』のこと何も報告ないなと思って帰ろうとすると、殿が「何かないかKGB」って言ってくるんです。今だったら会う度に「ライヴどうなってる?」って必ず聞かれます。僕がケツを叩かれている感じです。今いい環境でやらせていただいているのは間違いないです。それと基本的には殿発案のコーナーが中心なんですが、僕発案のコーナーもあって、そこに関しては何も言ってこないです。好きにやっていいよって、任せてくれています。

ビートたけしと弟子の素敵な関係

『お笑いKGB』大BBQ大会での編集長と副編集長
『お笑いKGB』大BBQ大会での編集長と副編集長

――お話を聞いていると、たけしさんはたけしさんで自分の部下たちを気持ちよく働かせているし、部下の北郷さんたちも“塩梅”が分かっていて、健全な組織、会社という感じがします。

北郷 そうなんです。当たり前ですけど僕も含めてみなさん殿に憧れて、好きで入った集団じゃないですか。殿と20年間一緒にいる中で「芸は教えられないけど間は教えられる」って言ってくださって。間というのは、例えば飲んでいる時、ここまではしゃいでいいとかあるじゃないですか。簡単に言えば殿より先に裸になるのはダメとか(笑)、そういう順番とか、くだらない事でも“空気”ってあるじゃないですか。僕はこの世界入って20年経って、かなりの時間殿の横にいさせてもらっているので、その空気と間が少しはわかっているつもりです。それが他では通用するのかわからないですが、殿の好みの空気と間が少しわかっていると思うので、打合せをしていても変なことにはならないですし、変な空気にもならないです。あと殿の事に関してのチェック機能は、事務所も含めていくつもありますし、先輩方もいますから、僕が何かで先走ると「北郷あれはダメだよ」と言ってくれます。

――本当にいい空気感というかいい距離感の会社という感じです。

北郷 そうなんですよね、僕今「素敵な上司はこれだ」という本書けますよ(笑)。「上司と部下の素敵な関係」というテーマでセミナーもできますよ。僕はテレビの構成作家もやっていて、企画会議って煮つまったりしますが、『KGB』の事に関してはずっと笑っているだけで、本当に楽しくて、それがサイトにも出ていると思います。

――会員は先着順で1000人にブラックカードを配っていましたが、それはもう終わって今はレッドなんですね。

北郷 ブラック、レッド、ブルーってやっていくうちに、殿も面白がって、飲み屋で「ブラックカード持ってます」という人に会ったみたいで、そうしたら「ブラックカードは貴重なのか」と言うので「一応ブラックカードは1000枚限定なので貴重です。ライヴのチケットも優先的に手に入りますし、グッズも割引にしようという話も出ています」と言ったら「じゃあニセブラックカード作るぞ」って(笑)。何の目的でわざわざこっちサイドがややこしくしているんですかって(笑)。「もう1000枚ブラックカード作って、でも最終的にブラックの上のチタンを作る」って(笑)。で、「お前らが持ってるのは最上級じゃない」って、なんでそんなにファンを裏切っていくんだと(笑)。でも殿に会員番号1番のブラックカードを渡したら、すごく喜んで財布に入れていました(笑)。

――『KGBライヴ』が本当に楽しみです。

北郷 今まで単独ライヴを3回やっていますので、それこそ殿に機嫌よくやってもらう空気はわかっているつもりです。構成を考えて見せても、飽きちゃうので台本も箇条書きで大丈夫なんです。やっぱり生の殿に会えるということは、一番強いコンテンツですよね。「北郷、540円払えば俺と生で会えることどんどん謳え」って言っていますから(笑)。ある意味、殿の単独ライヴよりもさらに濃いファンが来るわけで、どういう空気になるのか楽しみです。

――『KGB』のライヴもありますが、そのあとすぐに北郷さんの単独ライヴが12月7日に浅草東洋館であります。『KGB』ライヴの準備と重なって大変じゃないですか?たけしさんの反応はいかがですか?

北郷 はい、やらせていただきます。殿には「どうせまた俺の悪口言う気だろ」ってけん制されています。一応「殿、前説の枠が空いていますがいかがですか?」とお誘いしたところ「出るわけねーだろ」って怒られました(笑)。でも優しい方なので、ちょっと期待しています(笑)。 

『ビートたけし責任編集 お笑いKGB』

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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