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『宇宙兄弟』小山宙哉×カサリンチュ、漫画と音楽の素敵な関係を語る。”単行本テーマソング”ができるまで

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
カサリンチュ (左)タツヒロ(右)コウスケ
『宇宙兄弟』主人公・南波六太。夢を諦めないその姿にカサリンチュも感動した
『宇宙兄弟』主人公・南波六太。夢を諦めないその姿にカサリンチュも感動した

累計発行部数1600万部を超える“人気漫画『宇宙兄弟』の単行本27巻のテーマソング”が完成した。この前代未聞の取り組みは、同書を読み「これまでにないぐらい感動した」という、奄美大島在住の二人組ユニット・カサリンチュのタツヒロが書いたブログから始まった。その熱い想いが綴られたブログを読んだ作者の小山宙哉が返事を書き、そこから「あと一歩」という曲が生まれていった。

『宇宙兄弟』とカサリンチュの関係は、2013年にアニメ『宇宙兄弟』のエンディングテーマ「New World」を、カサリンチュが手がけたことからスタートしている。働きながら音楽活動を続けていたカサリンチュが、仕事を辞め音楽ひと筋でチャレンジをするという決意を込めた曲が「New World」で、『宇宙兄弟』の内容とリンクして、大きな感動を呼んだ。漫画と音楽、『宇宙兄弟』、小山宙哉とカサリンチュのステキな関係をさらに探るべく2組にインタビュー。「あと一歩」の制作秘話から、超人気漫画家の素顔、頭の中までがわかる濃い話が飛び出した――。

「ラジオから流れてきたカサリンチュの曲を聴いて、印象に残った」(小山)

小山宙哉
小山宙哉

――小山さんは最初ラジオでカサリンチュの歌を聴いていいなと思ったとお聞きしました。

小山 仕事をしながらたまにラジオを聴くのですが、そこでたまたまカサリンチュさんの「やめられない とまれない」を聴いて、いい曲だなあと思ってアーティスト名と共に印象に残りました。その時にコウスケさんのことを「コロスケ」さんと聞き間違えて(笑)、スタッフ共々「カサリンチュというのはコロスケという人がいる二人組」で記憶していました。その後、テレビアニメの『宇宙兄弟』のエンディングテーマをカサリンチュさんにやっていただけるという話を聞いて、「僕もスタッフもみんな好きなんですよ」という話をあとになってお二人にしました。

――カサリンチュの二人も『宇宙兄弟』が好きで、そのテレビアニメのエンディングテーマに「New World」が選ばれて…。

コースケ とにかく嬉しかったですね。

――カサリンチュの音楽はリズムは、体の奥底から出てきているようなリズムで、それと『宇宙兄弟』の熱い世界観とがすごく合っていると思いますが、小山さんは実際に二人と会う前、音楽を聴いた時は、波長が合いそうだなという予感はありましたか?

小山 会えると思っていなかったです(笑)。うちのスタッフにカサリンチュと同じ奄美出身の男性がいて、カサリンチュに初めて会った時に、そのスタッフに近い雰囲気を感じました。なんというか、僕が今まで会った人たちの中では圧倒的に温和で、大きい感じがして、やっぱり根っこには自然が好きなんだろうなあという感じがしまして、本当に気さくに話をすることができました。

タツヒロ 最初はもうとにかく緊張しました。

コウスケ 小山先生に最初にお会いしたのは、小山先生のファンクラブを設立するイベントに呼んでいただいた時で、「本当に会えるんだ」とドキドキしました。しかも楽屋が一緒で、もうどうしていいかわからなかったことを覚えています。逆にすごく気を遣っていただいて、昔から知っている近所のお兄ちゃんのような感じがしました(笑)。

小山 今までお会いした何人かのミュージシャンの方の中では、二人が一番年が近かったこともあって、すぐに親近感を持てました。

――小山さんはどんな音楽を聴いて育ってきたのですか?

小山 ユニコーン、THE BLUE HEARTS、THE HIGH-LOWS、テレビアニメ『宇宙兄弟』のエンディングテーマをやっていただいたザ・フラワーカンパニーズ、真心ブラザーズとか日本のロックが好きです。

――仕事する時は音楽が欠かせない感じですか?

小山 そうですね、スタッフと一緒にやっている時はBGMとして流していますが、一人で集中して絵を描くときは、イヤホンをしてガンガン聴いています。

2015年小山宙哉のファンクラブ設立イベントに、カサリンチュがサプライズで登場し、「New World」を歌うと集まったファンは号泣。『宇宙兄弟』チームと意気投合したカサリンチュは、イベントの打ち上げの席で「また曲を書かせて下さい」と熱い想いを伝えた。そして冒頭のタツヒロのブログの話に繋がる。小山はそのブログへの返事の中で「カサリンチュさん、そろそろあの約束どうですか?」と二人に呼びかけ、「あと一歩」の企画がスタートした。

「タツヒロは普段は思ったことをあまり口にしないタイプなので、あのブログは特別な想いがあるのだと思った」(カサリンチュ・コウスケ)

――漫画『宇宙兄弟』27巻を読んだタツヒロさんが、その熱い想いをブログに書いて、それをファンが読んで、小山さんまで伝わってという流れだと伺っていますが、タツヒロさんは日ごろから感動したものはしっかり言葉にして伝えなければ、という想いが強いほうですか?

カサリンチュ・タツヒロとコウスケ
カサリンチュ・タツヒロとコウスケ

タツヒロ いえ、自分が感動したり、いいなと思ったものがあっても、あまり書いたり発信したりしない方です。押しつけとは思っていませんが、人ぞれぞれ好みもありますし、自分がいいと思ったものは自分だけがいいと思っていれば、それでいいと思っているタイプですし、カサリンチュのタツヒロとしてやっているブログですので、具体的な話はしないようにしていました。でも『宇宙兄弟』27巻だけは感じ方が違ったので、ブログに書きたい!と思いました。27巻だけではなく、それまでの『宇宙兄弟』への想いがありますので、それが溢れ出た感じです…。何より、27巻の主人公・せりかさんが置かれた環境と、カサリンチュが置かれている環境が被っている気がして、僕らはまだまだ目指しているところへの途中ですが、せりかさんは夢を叶えることができたので、次は僕達だと自分達に重ねて行く想いというのが、今までないものでしたので敢えて書かせていただきました。

コウスケ タツヒロは思っていることを言わないタイプなんですが、そんなタツヒロがそこまで書きたいと思うのは、あのブログはやっぱり特別なものだなと思いました。

『宇宙兄弟』27巻から
『宇宙兄弟』27巻から

2015年11月に発売された漫画『宇宙兄弟』27巻の主人公は「せりかさん」。せりかさんは六太と同期の宇宙飛行士で、幼少時代に父親を難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くしている。子供だったせりかさんはALSを治せる病気にするために、宇宙での無重力空間で研究をするために医師になり、宇宙飛行士を目指す。

しかしISS(国際宇宙ステーション)に滞在し研究している時に、せりかさんのことを妬み恨んでいる人物により、根も葉もない誹謗中傷をSNSに書き込まれてしまう。

そこから世間はせりかさんバッシングがスタート。宇宙にいるせりかさんは研究中止を命じられてしまう。しかし、せりかさんは戦う。自分の夢は宇宙に来ることだけではなく、ALSを治せる病気にするために宇宙飛行士になった、だからこそ自分を信じて研究を貫くんだと――。

「『宇宙兄弟』が好きすぎ&自分達のことを重ねている「あと一歩」は最初は”濃く”なりすぎていた」(カサリンチュ・タツヒロ)

――そんな想いから生まれた「あと一歩」は、溢れる想いを歌にしたわけですが、制作はスムーズにいったのでしょうか?逆に想いが熱すぎて、力が入りすぎて時間がかかってしまったりはしなかったんですか?

タツヒロ すんなり出てきたのですが、『宇宙兄弟』が好きすぎて、やっぱり最初は出汁が出すぎて濃かったので、それを知らない人にもちゃんと伝わるように、美味しいと思ってもらえるように味を整えていった感じです。

――小山さんはその濃い段階の曲は聴かれたのでしょうか?

小山 聴きました。一ファンとしては「こっちも名曲!」と思ったのですが、作り手側にしかない想いのようなものがあると思いましたので、何も言わず完成するのを楽しみに待っていました。

――カサリンチュのこれまでの作曲とはちょっと温度感が違うというか、代表曲のひとつになりそうな作品だと思います。

タツヒロ そうですね、自分達に重ね合わせている部分がありますので、これからも大切に歌っていきたいです。

小山宙哉が漫画家を目指したきっかけとは?

――「宇宙兄弟」という作品が描く人間の熱い想いに、ファンは惹かれていると思うのですが、それを生み出す小山さんの原点といいますか、自分も漫画家になろうと思った、影響を受けた作品はありますか?

小山 マンガにハマっていたというわけではないのですが、たまに買って読んでいた『SLAM DUNK』のファンで、唯一単行本を全部揃えました。その後も好きな漫画は色々出てきましたが「これは買わなければいけない」という想いに駆られたのは、『SLUM DUNK』が初めてです。それまではギャグ漫画しか読んでいなくて、「漫画って笑わせるだけじゃなく、泣けるんだ」と思ったのも初めてで、漫画の世界を広げてくれました。高校時代に4コマ漫画を描いて友達に見せたらウケて、その時すごく気持ちがよくて、それからだと思います本格的に漫画家を目指したのは。でもそのために特別努力をしたわけでもなく、単純に笑ってもらう、喜んでもらえると嬉しいなという感覚だけが根付いていたというか…。単純に、ギャグを言って笑ってもらえるだけでも嬉しいですし、漫画の場合はじっくり考えて練ったものを見せることができ、より完璧なものを提供できるので、そういうのが自分自身に合っていたのかもしれません。

――それで出版社に持ち込んだんですか?

小山 そうです講談社と小学館に。投稿でもよかったのですが、持ち込んで編集の人がどんな反応をするのかを見たかったんです。『SLAM DUNK』を描いた井上雄彦さんが当時講談社『週刊モーニング』で『バガボンド』を書いていて、その担当編集者が僕の担当にもなり、夢だった井上さんに会うことができました。

奄美大島で生活しながら音楽活動を続けることにこだわるカサリンチュ

――カサンリンチュは上京して音楽活動をやっていて、でも奄美大島に戻って、働きながら音楽活動を続けるという、珍しいスタイルで音楽活動を続けていました。

タツヒロ 最初に上京したのは、音楽の世界を見たいなと思い、でもプレイヤーとしては無理かなと思い、PA目指して音響専門学校に通うためでした。でも都会になじめなく、住むこと自体がなんだかしんどくなって、それで島に帰ったんです。島で2人で音楽をやっている時はただ楽しくて、自己満足でやっていただけなんです。

――メジャーデビューしてからしばらくは、仕事が休みの時だけしか活動ができなかったんですよね?

タツヒロ 仕事もしながら音楽もやりたいという想いがあったので、そのスタイルをレコード会社にも理解してもらって、活動を続けていました。とにかく歌うことが好きで、極論を言うと、誰も聴いてくれる人がいなくても島で2人で歌っているのかもしれませんが、でもやっぱりライヴに足を運んでくれるお客さんがいることは幸せですし、それは何物にも代えられないことです。

――そして2013年には兼業ミュージシャンをやめ、音楽一本でやっていくと決意した二人からすると、小山さんが描く『宇宙兄弟』の世界はもう…。

タツヒロ 堪らないですよね…。

――「あと一歩」の詞は『宇宙兄弟』27巻の中のセリフとリンクしている部分もありますが、その中の主人公のせりかさんに向けて、そして彼女を作り出した小山さんに向けて歌っている部分もあるのでしょうか?

タツヒロ もちろん小山先生に喜んでいただけるのに越したことはないのですが、どちらかというと自分達に向けて歌っています。自分達がまだまだ道の途中で、それを歌に込めていて、そこに『宇宙兄弟』のフレーズが入ってきている感じです。

「『宇宙兄弟』もいつか終わらせなければいけない。終わる方向に持って行くように意識している」(小山)

――『宇宙兄弟』は今28巻まで出ていますが、熱狂的なファンがいて、ずっと読まれ続けているイメージがあるので、まだ28巻という感じがします。

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小山 最近進むのが遅くなっている部分もあります。意外とまだ28巻なんです。でも終わりに向かっているので…

タツヒロ えっ終わるんですか!?

小山 いつかは終わりにしなければいけないですし、でも気持ちとしては早く終わらせたいです。長くなると余計なエピソードを書いてしまうので。漫画家の癖なのかもしれませんが、発想がどんどん転換していくので、枝分かれしていって、キャラクターも増えて来るし、広げすぎると畳むのが大変になってくるんです。漫画によっては新しいキャラクターがどんどん増えて続いていくものもあって、それはそれで楽しいのですが、『宇宙兄弟』は終わる方向に持って行くように意識しています。

――衝撃発言ですけど大丈夫ですか?いつかは終わるということは誰もが理解していると思いますが、でも実際に“終わる”という言葉が作家から出て来ると、ファンの方達はショックを受けそうです。

タツヒロ ジーンと来ます。

「インプットばかりに一生懸命になっても作品は生まれない。描くことによって気付くことがの方が多い」(小山)

――『宇宙兄弟』の中に出て来る数々のあの熱い言葉、名言は、どこからくるものなのでしょうか?小山さんの人間性に加えて、これまでに読んできた本、観てきた映画、聴いてきた音楽が、やはり何かしらの影響を与えているのでしょうか?

小山 もちろん触れてきたものの中から好きなものの感じが出ていると思います。ただ色々なものからのインプットって、僕は人よりしていない方だと思います。音楽はよく聴くし映画も観ますが、それほど情報を取り込む努力はしていない気がします。インプットは良いことではありますが、だからといって漫画や小説を読みまくったり映画を観たり取り込むことばかり一生懸命やっていても作品は生まれません。描くのが一番の練習になるというか、描いていくことによって気付くことの方が多いです。描きながら、あの経験をここに活かせるんだいうことがわかってきます。他作品の色々なものを入れれば入れるほど「これはあそこで見たから描けないな」とか、逆に表現方法を狭める可能性もある気が個人的にはしています。

――小山さんの人間性と知識、担当編集者の知恵やアイディア、色々な人の情報と想いとが『宇宙兄弟』を作り上げているんですね。

小山 僕は知識の部分はあまりなく、宇宙に関しても軽く勉強した程度で、実はそんなに詳しくはないですし、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の方とか本物の宇宙好きの方が協力してくれ、成り立っています。僕がこういうシーンを描きたいのですが、こういう流れは自然かどうかみたいなことを、ネーム(漫画の設計図)の時点で確認してもらう感じです。

「最初はALSという難しいテーマを描くことに悩んだが、『宇宙兄弟』を通じてALSという病気のことが広く伝わっていったと思う」(小山)

――宇宙についてもそうですが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難しいテーマを取り上げています。

小山 実在の病気を描くと、現実ではまだ治らない難病を漫画内で“治る”という風に描くことは嘘になるし誤解も与えかねないので、最初は実在の病気にするか、架空の病気にするかで迷いました。宇宙での医学実験で新薬の開発をしているという事実に基づいて、ALSなら将来的にワクチンができる可能性があるということで描いていますが、願望として、フィクションとして、まずは漫画の世界の中だけでもと思って描くことにしました。

――デリケートすぎる問題で、触れるのが怖い分野ではありますよね。

小山 そうですよね。よく知りもしないのに、こんなの描いていいのかなと思ったこともありました。結果的にALSという病気のことがある程度『宇宙兄弟』を通じて広く伝わったと思いますし、そこは評価していただいています。

――いかに多くの人にALSというものに興味を、関心を持ってもらうかという部分では、大きな啓蒙活動になっていますよね。

小山 そういう意味では、宇宙飛行士の仕事の一環になっているといいますか、宇宙に行く役割がちゃんと見えて来るということに繋がっています。

タツヒロ 僕も『宇宙兄弟』でALSのことを知り、興味を持ちました。

――勇気があるというか、でも決して中途半端な描き方ではなく、実際のALSの患者さんからも評価を得ています。あらゆる人にわかりやすく啓蒙しているのが伝わってきます。

小山 描くからにはある程度伝わるようにしたいと思いましたが、まだまだ本当の部分というのは『宇宙兄弟』だけでは伝えきれないと思います。僕自身、ALSの方と生活をしたことはありませんが、ずっと一緒にいたらもっとつらい状況とか大変なことが見えてくると思いますし、逆にALSの方はこういうことを考えているんだとか、はっとさせられることとかもっと描けると思います。でもそうすると、テーマがそっちに寄りすぎてしまうので、宇宙漫画としてはバランス的には今くらいがちょうどいいのではと思っています。

――確かに医療漫画ではないです。今後描きたいテーマというのは小山さんの頭の中ではいくつも存在しているんですか?

小山 今描いているものとは違う方向のもの、違うものを描きたいのかもと、なんとなく思っている程度ですね。例えば今は現実に起こってもおかしくないレベルのことを描いていますが、もっとSFっぽい設定とかファンタジーものを描いてみたら面白いかもしれないないとか。

「音楽は、音が聴こえてこないから漫画のテーマとしては一番難しいジャンル」(小山)

――小山さんが好きな音楽をテーマにしたものはどうですか?

小山 『BECK』を読んで面白かったので、音楽モノもいいなと思いましたが、ギターとか楽器を描くのが大変そうで…(笑)。音楽モノって音が聴こえて来ない分、漫画のテーマとしては一番難しいと思っています。あと音楽って個人の好き嫌いがすごくハッキリするものですよね。マンガとか映画だと「これいいよ」って人に勧めたら、大体いい反応が返ってきたりしますが、音楽を人に勧めた時は、合う合わないが結構ハッキリしますよね。だから漫画の中でこの曲が凄いっていうシーンを描いたとき、読者はそれぞれ脳内で好みの音楽で想像するでしょうが、それが映像とか何らかの方法で音源を聴けるときが来たとしたらほとんどの人が「思ってたのよりイマイチだな」とか「好みじゃない」と感じると思うんです。だから音楽モノって難しいジャンルですよね。もし僕が音楽漫画を描くとしたら、例えばカサリンチュさんだと働いている時代からの部分、ドラマの部分を中心に描きそうな気がします。

――逆にそこが一番読みたいかもしれません。

小山 そうかもしれませんね。ユニコーンさんとか描いたら面白そうですよね。メンバーが5人いて、それぞれのドラマがあって、一回解散してもう一回やるというところにもドラマがありますし。

「CDショップで試聴して、イイ音楽に出会えた時の感動は忘れられない」(小山)

――音楽も、アーティストが発するメッセージや、その熱い部分にファンは熱狂すると思います。小山さんに音楽のドラマの部分をクローズアップした作品を是非描いて欲しいです。音楽業界活性化のためにも是非!(笑)

小山 僕はCDも買っていますし、ダウンロードもしていますよ(笑)。好きなミュージシャンのCDはアマゾンで買って、今は時間がなくてなかなか行けないのですが、昔はCDショップに行って、試聴して買っていました。その時の、いい音楽に出会った時の感動って今でも覚えています。

「森山良子さんに言っていただいた言葉を胸に、地道に音楽を続けていきたい」(カサリンチュ・タツヒロ)

「小山先生と出会って「あと一歩」という曲が生まれ、ワクワクしている。ワクワクをたくさん感じていきたい」(カサリンチュ・コウスケ)

――カサリンチュのお二人は今の音楽マーケットをどういう風に捉えていますか?

タツヒロ もしカサリンチュが、あのCDがむちゃくちゃ売れていた時代にデビューしていたらどうなっていたんだろうとか、妄想することもあります(笑)。今こういう時代ですが、CDが売れている人はちゃんと売れていて、そういう現実もあるのであまり時代のせいにはしたくありませんが、たまにはしたくなる時もありますが…(笑)。森山良子さんにお会いした時に「もう今の時代は一攫千金なんてないんだから、地道に頑張りなさい」と言っていただいて、それがすごく印象に残っていまして、地道にやるしかないと本当に思います。

コウスケ 時代のせいにしていきたいと思います(笑)、強がりですが(笑)。とにかくいい音楽は残ると思っていますし、変な自信も持っています。自分達が一番夢中になれることが音楽で、今回『宇宙兄弟』、小山先生と出会って「あと一歩」という曲が生まれ、それに夢中になっている自分達がいますので、時代のせいにしつつも、ワクワクしています。

――「あと一歩」はニューアルバム『カサリズム3』(5月18日発売)の中でも、ポイントになる一曲ですよね。

タツヒロ はい、本当に大切な曲です。

5月18日に鹿児島・種子島宇宙センターでフリーライヴを行った
5月18日に鹿児島・種子島宇宙センターでフリーライヴを行った

――アルバムリリース日に“宇宙に一番近い場所”種子島でライヴをやるんですね。

タツヒロ 本当にたくさんの方の協力していただいて実現できることになりました。宇宙に一番近い場所からISS(国際宇宙ステーション)に向かって歌います!

”とびきりの熱さと優しさ”が『宇宙兄弟』とカサリンチュの共通点

カサリンチュの約2年半ぶり、3枚目のオリジナルアルバム『カサリズム3』は、2人のこれまでの活動が凝縮されたといっていいほど、進化から深化した二人の音楽を堪能できる。ハッピーなビートを刻む曲から、熱い想いが胸に迫ってくるバラードまで、これまで以上に優しさと温もりも感じさせてくれる。そして、より“伝えたい”という想いが伝わってくる。その中でもやはり「あと一歩」は“奇跡”の一曲といっていい。『宇宙兄弟』、その作者・小山宙哉との出会い、『宇宙兄弟』27巻との出会い、その主人公「伊藤せりか」の生き様と自分達が辿っている人生が重なり、思わずしたためた文章、熱い想いが結実したのが『宇宙兄弟』27巻公式イメージソング「あと一歩」――。今までにはない、単行本のイメージソングという珍しい形であることが、よりこの曲が持つ意味の大きさを表している。熱狂的ファンを持つことでも有名な『宇宙兄弟』、その懐に飛び込んでいき評価されたのも、やはり『宇宙兄弟』とカサリンチュの“優しさと熱さ”という共通項があるからだろう。“あと一歩”という状況ほど近くて遠い、簡単でもあり難しくもあるものはない。この曲が『宇宙兄弟』の面白さ、世界観をさらに多くの人に広めるきっかけになると共に、カサリンチュのこれからのミュージシャン人生としての決意を、改めて感じさせてくれる大切な一曲となる。

約2年半ぶりのオリジナル3rdアルバム『カサリズム3』(5月18日)
約2年半ぶりのオリジナル3rdアルバム『カサリズム3』(5月18日)

<Profile>

◆カサリンチュ 鹿児島県奄美大島笠利町在住のタツヒロ(Vo,G)、コウスケ(ヒューマンビートボックス、Vo,G)のユニット。ヒューマンビートボックスをリズムの主体にして、アコギ+メロディアスな楽曲を歌う。ソウルミュージック、ファンク、ロック、J-POPをミクスチャーさせ、生活の中で感じていることを、時にはストレートに、時には変な角度から歌詞を紡ぐ。そのテーマは「住んでる部屋」「耕運機」から「虫」までバラエティ豊か。タツヒロはサトウキビ工場の農務部(2013年6月末退社)、コウスケは昼は弁当屋、夜は居酒屋で働くという奄美大島で仕事をしながら音楽活動を続けてきた。2010年7月28日、ミニアルバム『感謝』でメジャーデビュー。2012年9月5日1stアルバム「カサリズム」リリース。2013年11月13日 アニメ『宇宙兄弟』のエンディングテーマ「NewWorld」をリリース。2013年12月4日2ndアルバム『カサリズム2』をリリース。2016年2月28日ミニアルバム『たいせつなひと』リリース。6月4日から『カサリンチュ 全国ライブツアー2016「カサリズム3」」がスタートするほか、様々なフェスにも出演する。8月20日には同郷の元ちとせ、中孝介らと共に「奄美音楽祭2016」(東京・かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール)を行う。カサリンチュオフィシャルサイト

◆小山宙哉 こやま・ちゅうや。1978年9月30日生まれ、京都府出身。 てんびん座。【影響を受けた漫画家】浦沢直樹・井上雄彦・松本大洋・小林まこと、【好きなミュージシャン】ユニコーン・真心ブラザーズ、【好きな映画】『アポロ13』

<主な作品>『ジジジイ』『ハルジャン』『宇宙兄弟』『劇団JET's』

小山宙哉オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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