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ウッドショック崩壊? 木材価格は暴落するか

田中淳夫森林ジャーナリスト
輸入木材の在庫はかつてないほど膨らんだ(写真:アフロ)

 昨年から続くウッドショック。ようするに木材需要に供給が追いつかず、価格が高騰し続けている状況のことだ。

 これまで幾度かウッドショックの状況と原因などに関した記事を記してきた。元は昨年のアメリカでコロナ禍の景気対策の一環として行われた住宅減税によって住宅建築が過熱したこと、そして今年に入ってからはロシアのウクライナ侵攻によるロシア材などの輸入規制などが始まったことが原因だった。

 日本でも一時期は木材価格が2倍から3倍に達していた。いや、木材そのものが手に入らなくなり、建築がストップする状況もあった。今でも価格は高止まりしているように見えるのだが……。

 ちょっと意外な展開になっている。東京港の6月末輸入木製品在庫が19万2483立方メートルと年初来の最高に達しているのだ。

 木材の総在庫量は、ウッドショックが始まる前をはるかに超えている。今年2月のボトムと比べると、2.5倍も積み増したことになる。

 なぜ?と思うが、内訳を見ると、そもそもロシア材の輸入がほとんどストップしていない。アメリカやカナダ、そしてヨーロッパからもどんどん木材が入荷している。高値は続いているが、品薄ではないのだ。

 ロシア材に関しては、輸出量の半分以上が中国であり、欧米が輸入をストップしてもあまり響いていない。日本は、合板用単版は減っているが、ほかの木材の輸入は全然減っていない。極東からは問題なく出荷されている。また中国や韓国経由でロシア材が日本に届くケースもあるようだ。

 どうやら今後も高値が続き木材が入って来ないことを警戒して、業者は仕入れを強めているかららしい。

 国産材も今頃になって増産傾向が強まっている。昨年のウッドショックの発端時には動きが鈍かったものの、高値ならと、遅ればせながら伐採量を増やし始めたためだ。これでは在庫が増えるのは当たり前か。

 にもかかわらず木材価格が高止まりしているのは……売り惜しみがあったのか? それともタイムラグや地域差の問題か。

 いや、日本各地の木材市場の値動きを見ると、随分下がっている。もうウッドショック前と同じ水準ではないのか。高止まりは製品価格だけ?

 このあたりの値動きの理由は複雑怪奇なので早計には決めつけられないが、気になるのは、日本の住宅着工件数が木造を中心にじりじりと下がり気味であること。ここ数か月は前月よりマイナスが続いている。

 ある意味当たり前かもしれない。価格が高騰したのは、今や木材だけではないのだ。ありとあらゆる建材や建具、設備が上がり、人件費も人手不足から上昇している。つまり住宅を建築しようと思えば高くならざるを得ないわけである。

 だが高騰したら、住宅を建てることを躊躇してしまう、いや諦める人が出る。そうなれば木材需要も縮むだろう。

 アメリカは住宅減税を継続していて、価格高騰分を吸収しているから、いまだに根強く需要が伸びている。またリフォーム市場やガーデン市場も右肩上がりが続いている。だが、日本は建築件数がじり貧だから木材需要も縮んでいるのだ。

 そこに春までの木材不足に引きずられて、木材生産も輸入も増やしたのだから、在庫が積み上がったわけである。

 それが何を意味するか。在庫がだぶついているのだから、木材価格は下落する可能性は高い。ウッドショック前の価格まで落ちるか。もしかして以前の価格を割り込んで下落するかもしれない。

 ただ建材すべてが値上がりしている中で木材だけが安くなっても住宅需要は簡単に回復しないだろう。あるいは木材の流通業界が踏ん張って、(多少の値下がりはあるにしろ)高値を維持し続けるか。

 消費者は安くなるならよいことじゃないか、と思いがちだが、もともと以前の価格は、コスト割れ価格だった。だから、その価格にもどる(あるいは割り込む)ことになったら、林業家は絶望するしかない。しかも高値が続くと思って増産したのに、元が取れないとなると心が折れる。再造林はおろか森林整備も投げ出し、山は荒れ果てたままになるんじゃないか……そんな悪夢を想像してしまう。

 ウッドショックの崩壊が招くのは、林業破れて山河なし、かもしれない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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