マダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」が、じわじわ増えている。今年は、過去最多と言われた昨年6月上旬時点の40人を6人上回っていてる。しかも、これまでは西日本中心だったのが、東日本へと広がりつつあるのだ。昨年は、愛知県や静岡県でも初確認された。

 この感染症は発熱や嘔吐、出血などの症状があるが、重症化すると命に関わる病である。

 夏はマダニの“シーズン”だけに、各自治体などでは、マダニ感染症に注意を促している。そこでは草むらにできるだけ入らない、肌を露出しない、脱いだ上着やタオルを草の上に置かない……などと予防を呼びかけている。

 マダニから感染する病気は、ほかにもツツガ虫病、ダニ媒介性脳炎、ライム病、日本紅斑熱など数多い。それだけに予防は大切だが、なぜ最近になってマダニ感染症が増えているのか、十分に語られていない気がする。

 そもそもSFTSは、2011年に中国で初めて報告されたウイルス性出血熱の一種で、国内では13年に山口県で初確認された。比較的新しい感染症だ。

 とはいえ、ウイルスが最近になって新たに発生したわけではなく、おそらくダニには大昔からいたはずだ。それが人間に感染しだしたから“発見”されたのだろう。

マダニが街に広がりだしたわけ

 では、なぜ人への感染が増え始めたかと言えば、何も山に入る人が増えたからではないだろう。キャンプブームとは言われるが、マダニ感染症の罹患者には、近頃山に入っていないという人も多いからである。

 むしろ考えられるのは、マダニが里に下りてきた可能性である。

 その運び手は、町に出没する野生動物である。イノシシシカはもちろん、アライグマタヌキ、イタチ……など多くの野生動物が山奥から人里に下りてきている。そして彼らからSFTSウイルスの抗体が見つかっているのだ。

 これらの野生動物は近年、爆発的に生息数が増えており、山から人里へと生息域を広げている。それも、奥山から農山村の里山だけではなく、相当規模の都市部へも姿を現しているのだ。

 野生動物は、身体につけたマダニを町で落としていく。マダニは町の草むらに居つき、やがて町にも多いネズミやノラネコなどに感染し、さらに放し飼いされる飼いネコにも広がっていく……という可能性が考えられる。

 飼いネコのほか飼いイヌにも感染例はある。そしてイヌやネコから人間にもうつる。彼らがマダニ、そしてウイルスを広範囲に拡散させている恐れが強いのだ。

 さらにマダニは運ばれただけでなく、すでに街に定着したという声もある。温暖化や住宅の高気密化で冬でも生き延びられ、さらにペットなどの存在によって一度人間社会に入ったマダニが、そのまま居つきだしたらしい。いわばマダニは、人間の住まい空間へテリトリーを広げたわけである。

ネコにひっかかれたら感染?

 厄介なのは、マダニに直接かまれるだけでなく、ウイルスに感染したペットと接触してもうつることがあることだ。飼いネコにひっかかれて傷をつくったら感染したケースのほか、海外では人から人への感染例もある。

 実は私も、数年前にマダニにやられて大騒ぎになった。

 腹部にとりついた虫を発見したが、おそらく私の身体で2日間はついていたようだ。気づいてから注意深く引き剥がして、その死骸を保管して病院に走った。死骸はやはりマダニだった。

 だが、それからが大変。大学病院に移され、血液検査から始まって、最後は手術でかまれた部分を肉ごと切除された。何の症状もなかっただけに大げさだと感じたのだが、その肉からマダニの口器の一部が発見されたそうである。このまま皮膚内に残っていたら化膿するだけでなく、マダニの体液を逆流させてしまうおそれもあったという。

 幸い感染するような病原菌はいなかった模様で事なきを得たのだが。

 ともあれ、自分が山や草むらに入らなければ感染しないわけではない。とくにペットを飼われている家庭は、ご用心。ネコを放し飼いすると、そんな危険もあることを知っておいてほしい。