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林業の主産物は木材よりキノコ?

田中淳夫森林ジャーナリスト
キノコの栽培は農業、それとも林業?(写真:イメージマート)

 先月から連休を超えて連日山に通ってタケノコを掘ってきた。それを茹でて保存し続ける。おかげで冷蔵庫はタケノコだらけである。もう限界。5月も半ばを過ぎて、ようやく終盤なのだが……。山菜も摘むが、こちらはもう旬を過ぎたか。

 ふと気づいた。タケノコは林産物であることに。いや山菜も、キノコもみんな林産物。山で採れるからと思えば一応納得するのだが、今や山菜は温室で栽培するものも多い。さらにシイタケ、エノキダケ、ブナシメジにマイタケ、エリンギ……キノコ類もほとんどが室内の菌床栽培だ。

 それでも林業の産物なのである。とすると、私も林業をしていたことになるか。

 これはシャレで言っているのではない。ちょうど2020年の林業産出額は4831億円だったというニュースが流れていた。林業の産出額と聞けば、誰でも木材生産によって得られた金額を想像するが……実は木材による算出額は半分ぐらいなのである。残りは「特用林産物」が稼ぎだした金額なのだ。

忘れられがちな特用林産物

 この「特用林産物」とは何か。薪や木炭、あるいは漆や竹材なども含むが、圧倒的に多いのは栽培キノコだ。そこに山菜、タケノコも加わる。栽培しているのだから農業のように思いがちだが、実は林産物扱い。そして、それが林業産出額の4割以上を占めていた。

農林水産省大臣官房統計部の林業産出額推移(全国)。
農林水産省大臣官房統計部の林業産出額推移(全国)。

 農林水産統計によると、2020年度の木材生産は2464.3億円。一方で栽培キノコ類が2259.6億円だが、そこに薪炭なども加えたら、比率で約49%になる。木材と非木材の産出額は、ほとんど拮抗しているのだ。(薪を木材に加えるか、非木材にカウントするかは置いておく。)

 グラフを見たらわかるとおり、30年前は圧倒的に木材の産出額が多かったのが、木材価格がどんどん下落し全体の産出額も半減した。一方で栽培キノコ類は安定しており、気づけば木材と並んでいたというわけだ。

 もはや林業は、木材を生産する産業と言えなくなっているのではないか。

 なお森林を使ったビジネスという点では、もっと幅広く林業を考えてもよいのかもしれない。たとえばキャンプ場経営や森林ガイド、いや森林から湧き出る水の販売なども林業に含めたらどうなるか。林業統計に表れないそれらの利益も、非木材産出額に加えたら、木材産出額と逆転するかもしれない。

林業補助金はほとんど木材生産へ

 非木材産出額に目を向けることは、単に林業の見方を変えるだけではない。

 林業には多額の補助金が注ぎ込まれている。山に木の苗を植えるのも、草を刈るのも、間伐するのも、伐採した木材を搬出するための林道・作業道を入れるのも、高額の林業機械を購入するのも、みんな補助金がついてくる。経費の7割は補助金で賄えるほどだ。そのほか製材業などに出すケースもある。つまり、支出のほとんどは木材生産に偏っているのだ。

 ちなみに例年の林野庁予算は補正予算分も含めたら、だいたい4000億円程度。さらに再来年から国民一人当たり1000円を森林環境税として徴収することが決まっている(総額約600億円)が、その使い道は自治体に任せているとはいえ、多くが森づくりと木材利用関連である。これも加えると、すでに産出額に近い。

 ところが栽培キノコ関連に支出される補助金は極めて少ない。都道府県分もあるのでわかりにくいが、新規参入者に施設費などが多少出るぐらいだろうか。それも地域振興費などに潜り込ませている。

 これまで林業は、5000億円程度の産出額のために5000億円近い補助金が出ていると批判されていた。しかし正確には、2400億円程度の木材生産のために、その2倍近い補助金を出していると見た方が実態に近いのではないか。完全に赤字である。

 その点、栽培キノコや山菜、タケノコなどは補助金が少なくても2300億円近く稼いでいるのだから黒字だろう。言い換えると、栽培キノコこそが林業の稼ぎ頭であり、林業の王道なのではないか。

 森づくりや木材生産に関する補助金を全廃したら、林業は国家財政に寄与する計算になる。それこそが林業の成長産業化かもしれない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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