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意外?気候変動は世界の花粉症を減らすかも

田中淳夫森林ジャーナリスト
ウェザーにュース社の花粉飛散量を自動計測するロボットの展示。(写真:つのだよしお/アフロ)

 テレビの天気予報に「花粉予報」が流れる季節となった。今年は全般に多くなりそうだというが……。

 地球温暖化、つまり気候変動が強まり、今後世界的に花粉症が増えるという研究結果が発表されている。

飛散花粉は40%増?

 学術誌「Nature Communications」によると、アメリカで飛散する花粉の量は、気候変動により2100年には40%まで増えるおそれがあるというのである。しかも飛散は最大で40日早く始まり、19日長く続く。言い換えると、花粉の飛散期間は年間60日前後増えるという。

 この研究は、アメリカ・ミシガン大学の大気科学者アリソン・スタイナー氏らによるものだ。

 私は先にこのような記事を書いた。

地球温暖化で花粉量は1.2倍に。世界中で花粉症はなくならない

 こちらは、学術誌「PANAS」に発表されたユタ大学のウィリアム・アンデレッグ生物学准教授らの論文による。気候変動によって花粉飛散の時期は長期化し、花粉の数や濃度も増えているという結果を指摘している。

 これは未来の話だけではない。過去の研究によれば、北米では30年前よりも花粉飛散がすでに平均20日早く始まり、8日長くなった。それによって空気中に放出される花粉の量は、20%増えたという。

 それぞれ調査期間や条件が微妙に違うので、単純に花粉量が20%増から40%増になる、というわけではないが、地球の気温が上がれば植物の生育がよくなり、花粉飛散量も増えるのは間違いなさそうだ。

イチゴの花粉症まで登場 

アメリカだけではない。日本でもよく似た研究が行われていた。国立病院機構福岡病院のアレルギー科の岸川禮子医師が、1986年から国内20カ所以上で研究者たちと協力して、空中を舞う花粉の採取を続けてきた研究がある。1平方センチ当たり24時間で採取される花粉数を調べる調査だが、近年になって花粉は増えているという。

 そして7~8月の気象条件と翌年のスギ・ヒノキ科の花粉捕集数はよく相関していて、気候変動との結びつきを指摘している。ようするに夏が暑くなれば、翌年の花粉数は増えるのだ。植物の生長がよくなるのと同時に、花粉飛散時期の延長も影響するのだろう。調べていない植物の花粉も増えている可能性は高い。

 アレルギー反応を引き起こす花粉の種類は、樹木ならスギやヒノキのほかにシラカバ、ハンノキ、オオバヤシャブシ、ケヤキ、コナラ、クヌギ、クリ、イチョウ、アカマツ、ネズなど。さらに草本のブタクサ、ヨモギ、ススキ、カナムグラ、カモガヤ……。実に多様な花粉症の原因植物が日本国内で確認されている。

 最近ではイネ花粉でも起きることがわかった。さらにイチゴやトマトとかピーマン、バラ、そしてサクラ……というように野菜や園芸花木の花粉に悩まされる人も出てきた。さらに輸入された外来牧草もある。これらは牧場だけでなく、法面緑化などにも使用されるので、都市部にも増えている。

気候変動で花粉を減らす植物も

 このように気候変動は、花粉の飛散を増やして花粉症患者も増やしそうな勢いだ。しかし、実は別の見方もあるのだ。もしかしたら、一部の花粉症は減るかもしれないという。なぜなら、温暖化よって増える植物がある一方で、減るかもしれない植物もあるからだ。それが花粉症を引き起こす種類だったら……。

 たとえば干ばつや高気温で森林や草原が減る恐れがある。そうなれば花粉飛散量も減るだろう。また植物の生理も種ごとに違う。カバノキなど一部の木は、二酸化炭素濃度が高まると生育に適さなくなる。同じく気温が上がると成長できなくなる草木もある。あるいはライバルとなる草木が繁ることで、花粉症を引き起こす草木が追いやられて分布域も減少する場合も考えられる。

 冒頭の研究では、アレルギーを引き起こす15の植物を対象に、気温や降水量などの要素に応じて花粉の飛散を予測してみたところ、さまざまな草木の分布の変化が進むことで、花粉症を引き起こすブタクサの生育が圧迫される可能性を示した。このモデルでは、米国東部で最大80%減少すると予測された。これはブタクサ花粉症の人にとっては朗報だろう。

 もっとも基本的に植物は、気温や二酸化炭素濃度の上昇によって生育がよくなるものだ。4~6度の気温上昇が、花粉の量を2倍まで増やす可能性があると予測された。今は問題になっていない植物が、増えることで新たな花粉症のアレルゲンになる可能性だって有り得るだろう。日本でも、気候変動がスギの生育にどんな影響が出るのか、まだわかっていない。

 その結果、アレルギーによる健康リスクも高まりつつある。

 現時点で何らかのアレルギーを持っている人は、成人の10~30%、小児の最大40%とされるが、世界保健機関(WHO)は、2025年までに1つ以上のアレルギー疾患(花粉症以外も含む)を持つ人が世界の人々の半数に達すると推定している。

 ちなみに日本の花粉症の有病率は、1998年の19・6%が2008年に29・8%、19年は42・5%まで急増している。もはや2人に1人が花粉症になっているのだ。どうやら日本人は世界に先駆けているようだ。

 今後、スギやヒノキ以外の花粉症が頻発するかもしれない。気候変動の影響は、風水害だけではないのである。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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