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CO2削減の切り札?再エネの拡大は可能なのか

田中淳夫森林ジャーナリスト
木材を燃やすバイオマス発電の拡大は必至ではあるが……。 (筆者撮影)

 菅首相が世界に公約した2030年までに二酸化炭素46%削減(2013年比)。

 これに合わせて、経済産業省は新しい「エネルギー基本計画」案をまとめた。それによると再生可能エネルギーを主力電源化する方針で、総発電量に占める電源構成で、2030年度に再エネの目標値を36~38%としている。現行の計画では22~24%だったのだから、大幅な拡大だ。

 問題は、そのうち5%はバイオマス、なかでも木質バイオマス発電を見込んでいる点だ。バイオマスには、一部にはメタン発酵や製紙工場の黒液も含むが、今後増やすには木質バイオマス、つまり木材や植物油脂などを燃焼させて発電する方式が多くなるだろう。

 そこで、ちょっと具体的な数字を調べてみた。

 2020年のバイオマス発電導入量は、451万kW。このうち木質系が184万kw。バイオマス発電所は、2020年9月時点で計446基(木質以外の発電も含む)稼働している。

 2030年にバイオマス発電の目標値は、602~728万kwだが、木質系は335~461万kw。木質系に絞ると、現在の1.8~2.5倍にしなくてはならない。これだけの規模にするには発電所がいくつ必要だろうか。単純に比例させると1000を超えるかもしれない。これは可能な数字だろうか。

輸入バイオマスはもう限界

 ここで考えなくてはならないのは、燃料である木質物をどこから調達するか、である。

 一般に5000kw級の発電所の場合で年間6万トン、約10万立方メートルの木材を燃やす。これがどれだけの量かというと、日本の年間木材生産量は、現在大雑把に見積もって約3000万立方メートル。これを10万立方メートルで割ると300。つまり300の木質バイオマス発電所分の木材ということになる。

 つまり生産されている木材を全部燃やしても、今ある446基分を稼働できない計算になる。

 しかも近年は1万kw級以上が増えている。また石炭との混焼による5万kW、11万kW級といった大型バイオマス発電所も登場した。

 どう考えても国内で燃料の調達は不可能だ。

 結局、多くは輸入バイオマスを燃料に頼っている。具体的には、輸入木質ペレット・木質チップ、ヤシ殻(PKS)パーム油などだ。現在でも稼働容量の6割強は輸入燃料だが、新規計画では9割がた輸入に頼ることになっている。

 実際にヤシ殻の輸入は、2019年の245万トンから2020年に338万トンへ4割近く増加した。木質ペレットも、161万トンから203万トンへと大きく増やした。

 これ以上、輸入量を増やせるかどうかはわからない。どこの国も再エネ比率を上げようと躍起になっていて、争奪戦を繰り広げているからだ。今でも世界全体で供給された再エネのうち約7割がバイオマスである。

 しかもヤシ殻は東南アジア、木質ペレットはカナダなど北米が多いが、これだけの遠距離輸送は、化石燃料を使った船やトラックが使われている。本来の目的である二酸化炭素の排出削減には逆行してしまっている。

 ヤシ殻およびパーム油を生産するアブラヤシ農園は熱帯雨林を切り開いてつくられたものであることが指摘されて、ストップがかかり始めている。

 木質ペレットの主要生産国であるカナダやベトナムも、輸出用の木質ペレット生産のために伐採が拡大していることが問題になってきた。もともとは製材屑からつくられていたが、今や丸太を丸ごと砕いて生産されているのだ。

 実質的に達成不可能な目標を掲げても仕方ないうえに、無理に達成しようとしたら森林を破壊してしまう。それで二酸化炭素削減になると思っているのだろうか。

森を皆伐して太陽光発電やバイオマス発電を行うのは欺瞞だ(筆者撮影)
森を皆伐して太陽光発電やバイオマス発電を行うのは欺瞞だ(筆者撮影)

 よく言われるカーボンニュートラルもまやかしだ。燃やした木材と同じ量の樹木が再び育つことによって、炭素の排出・吸収がプラスマイナスゼロになるという理屈だが、育つには数十年かかることには目を背けている。2030年時点では、確実に二酸化炭素の排出量の方がプラスだろう。

 そもそも日本では、伐採跡地で再造林している割合が3割程度という有り様なのだから、話にならない。また伐採時の重機の排気のほか、地面の攪乱によって土壌内に溜められていた有機物の炭素も逃げ出す分もある。皆伐した山は災害を引き起こしやすくなるなどの弊害も頭に置いておくべきだろう。

FIT賦課金が高額に

 ここでは電源構成の5%分を占める(予定の)バイオマス発電を取り上げたが、太陽光は15%、風力は6%が目標値である。いずれもエネルギー密度が低いので、それなりの発電量を見込むには大面積のパネル設置・大規模風車が必要だ。それらの建設予定地を確保するには、山林部分がもっとも容易とされるだろう。いずれも森林伐採を伴うのは間違いない。

 これらの再生可能エネルギーの普及にはFIT(固定価格買取制度)による高額買取が欠かせない。そのための資金は、電力料金に上乗せされる賦課金だ。正確には再生可能エネルギー発電促進賦課金という。これがどれだけになるか。

 21年度の賦課金単価は、1kWh当たり3.36円と決定した。負担額の目安として1ヶ月の電力使用量が260kWhの需要家モデルでは、年額1万476円、月額873円の増額となっている。現在の再エネ比21%程度でこの金額なのだから、今後、どんどん膨らんでいくのは容易に想像できる。

 再エネ拡大の足を引っ張りたいのではない。気候変動を抑えるために必要ならば、増やすことも大切だろう。多少の問題には目をつぶりたい気持ちもある……しかしバイオマスや太陽光、風力のエネルギーを増やそうとしている目的は、脱炭素なのだ。それを忘れて「手段」である各発電方法を「目的」にすり替えては、逆効果ではないか。目先の数字で公約を果たそうとせず、真面目に二酸化炭素を削減してもらいたい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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