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いつまで続く?ウッドショックから見えてきた「断絶」

田中淳夫森林ジャーナリスト
ウッドショックを口にしているのは建築業界だ。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

「ウッドショック」という言葉が、今も世間に広がっている。世界的な木材価格の高騰のことだ。マスコミも、前月比何%上がった、予定どおり仕入れられずに住宅建築が延期になった、どこそこの林業地は増産している、国有林を扱う森林管理局でも木材生産の入札を前倒しで実施した……とかまびすしい。

すでにアメリカで暴落?

 とはいえ、世界は動いている。タイトルに「いつまで続く?」と記したが、発生源のアメリカで木材価格が大暴落しているのだ。前年比6倍以上に高まっていた価格が、6月に前月の半値以下に落ちた。

 理由は、あまりにも高くなりすぎて、消費者が住宅購入やリフォームなどを控えるようになったうえ、コロナ禍の収束が見え始め、旅行など従来の消費にお金を回すようになったからだという。ようするにバブルが弾けたのだ。

 とはいえ、ヨーロッパや中国の住宅建築は堅調だ。実は日本国内でも、5月の木造住宅の着工戸数は前年同月比15.5%増だった。建築需要が伸びているから木材不足なのも当たり前か。アメリカだって、暴落したとはいえまだ前年の2倍の価格である。一方で、世界中で木材が増産され始めたから、もうすぐ市場でだぶつくという予測も。

 さまざまな情報が錯綜している。今秋には価格は下がる。いや年を越すまで高値を保ちそう。いや今後数年間は高値安定が続く……。

ショックを受けたのはどこか

 値段の上がり下がりについて予言めいたことを唱えても、たいてい外れるのが世の習いだが、私は、ウッドショックをどこか「よそごと」に感じてしまう。

 なぜなら、「ショック」を唱えているのは、主に製材や建材メーカー、そして住宅を中心とした建築業界だからだ。価格高騰に悲鳴を上げている(あるいは喜んでいる)のも、こうした川下側。林業など森林地域の視点に立つと、どこか遠い世界の出来事である。

 だがウッドショックが起きたからこそ、見えてきた点もある。

 一般に、木を使う建築と木材を生産する林業は密接に関わっている、と思いがちだ。だが日本の林業界と建築業界は、驚くほどつながっていない。

 だいたい建材の多くは欧米からの輸入物だし、製材や集成材の工場でも輸入木材を原料とするところは少なくない。鉄骨、コンクリート、合成樹脂など非木質建材も数多い。国産材は数ある建材の一部にすぎない。だから国産材の世界を知らない。

 そして林業関係者は、伐り出した木材の行き先や使い道に関心を払わない。木材市場か、せいぜい製材所まで。その後どのように丸太が加工され、どこの何に使われるか知らないし、海外の木材事情に興味も持たない。おそらくアメリカで価格が暴落したことを知っている林業関係者は少ないだろう。

 輸入建材を扱う業者と国内の林業関係者の間に交流は少なく、ビジネス慣行も違っている。まったく別の業界とさえ言える。

情報が伝わらず他人事

 そもそもアメリカで木材価格の高騰が始まったのは昨夏からだが、建材や原木を扱う商社は、当然ながらそのことに気づいていた。しかし、その情報は日本の林業現場に伝わることはなかった(伝えてもスルーされた?)。

 そして輸入建材が入荷しなくなったことで国産材に引き合いが増えて価格も上がってきたのは今年3月頃。そのときになって初めて気づいた林業家がほとんどだろう。それでも関心は薄かった。自分自身の収入に跳ね返ることはなかったからだ。

山から市場まで丸太が運ばれるまで、さまざまな段階がある。(筆者撮影)
山から市場まで丸太が運ばれるまで、さまざまな段階がある。(筆者撮影)

 それでも出荷先や行政から木材を増産してくれという声が高まってきた。だが国産材の増産は、容易ではない。

 日本では山主(森林所有者)と伐採事業者とは別であることが多い。そのため業者と山主が契約しないと伐れない。国有林なら入札も必要だ。現場の機材や人員の確保、行政への伐採届の提出なども行わねばならないし、補助金が出ないと仕事をする気のない事業体も多い。流通も複雑で、通常は準備だけで3か月以上かかるとされる。

 つまり増産に動き出したのはつい最近なのだ。ちなみに伐採搬出された原木を製材して乾燥などを経て、建材になるのはさらに先だ。

 しかし、工務店などにこのような山の事情を知っている人は少ないだろう。自分が建てる家の木材がどこから来ているのかさえ興味を持っていないからだ。木材が足りないんだから、さっさと伐って出せと思うだけだ。

仲の悪い林業と木材産業の間

 なぜ、両者の間にこれほど断絶があるのか。

 木材を生産する側は、自分の伐り出した木を高く買ってほしい。使う側は、安く買って高く売りたい。また安定供給してほしい。こうした対立関係があり、どうしても疑心暗鬼になりがちなのだ。さらに山主と伐採事業者との間にも不信感がある。どうしても業者は安く契約することに腐心するからだろう。

 伐採事業者と製材業者が協議会を設立する場に私が呼ばれたことがある。その際に挨拶に立った理事は初っぱな「私たちは、なぜこんなに仲が悪いのでしょう」と話しだして、私の目が点になったことがある。仲が悪いからこそ、改善のために協議会をつくるという趣旨なのだが、その後、上手く機能したとは聞かない。

 今後の木材の値動きや供給量がどうなるか、まだわからない。しばらくは不安定さを増しそうだ。建築業界も、輸入建材が足りないから国産材にシフトしかけているが、本音のところは国産材は使いたくないと嫌う声をよく耳にする。

 仕入れの問題だけではない。たとえば国産材の過半を占めるスギ材は、強度の点で横架材(梁や土台)に向かない。ヒノキも米マツよりは弱いし、生産量も少ない。だいたい建築では集成材に需要が移っているから、無垢材はあまり好まれない。無垢だと反りや割れが出やすくクレームが多くなるからだ。そうでなくても樹種が変わると、製材や乾燥の方法も調整し直さなければいけないし、建築も設計段階から寸法などの変更を迫られる。

国産材増産で暴落の可能性?

 増産した国産材がようやく市場に出てきたころには、もしかしたら海外の建材生産が通常にもどり、輸入量や価格が安定しているかもしれない。そうなれば“仕方なしに”国産材にシフトしかけていた建築業界は、すぐ輸入建材にもどるだろう。国産材に買い手がつかなくなり、暴落する可能性がある。

 日本にとってのウッドショックは、木材価格の暴落を意味することになりかねない。

外材と国産材には、製材や乾燥工程に違いがある。(筆者撮影)
外材と国産材には、製材や乾燥工程に違いがある。(筆者撮影)

 行政は、高値のうちに増産しろと掛け声を上げる。たしかに製材・建築業界の視点で見れば建材の安定供給は重要だが、市場に木材を大量に出せば価格が下がるのだから、高値を林業家自ら崩すようなものだ。しかも無理して増産(伐採)したら、山を傷めることになりかねない。夏から秋は台風など気象の不安定な日が多く、山の作業は災害に結びつきやすい。それに伐採跡地の再造林も急がねばならないが、とても手が回らない。

 川下(建築業界)の要望に応えて大急ぎで増産した結果、価格は暴落、荒れた山だけが残る……なんてことになったら林業界にとっても打撃は大きいだろう。

断絶を埋め経営感覚を持て

 では、どうすればよいのだろうか。

 やはり両者の断絶を埋める努力が必要だ。工務店は木材の故郷である山に足を運ぶべきだし、林業家は製材工場や建築現場を訪れて、どんな木材が求められているのか知るべきだろう。何より日常的に情報交換する場があってほしい。当然、お互いが持っている情報を隠さず提供する覚悟が必要だ。さもないと信頼は醸成されない。そしてウィンウィンの関係を築き、計画的な木材の生産と消費を行う。

 ただし、基本はやはり自分で多くの情報を集めて判断するしかない。

 欧米や中国の木材需給の状況。コンテナなど流通事情。コロナ・ワクチンの摂取状況や、地球的な環境問題も関わってくる。

 行政の思いつき政策や、どこぞの森林ジャーナリストの予想なんぞに左右されず、林業家自らが、自身の山の状態と世界の動向から、先を読む。そのうえで増産するか、あえて踏みとどまり将来に向けて資源を温存するか。

 ようするに経営感覚を持たねばならない。残念ながら森林組合の理事なども、今や林業をしていない素人が多く、林業経営のイロハを知らない。補助金を取るのが仕事と思い込んでいる人も見受けられる。

 ウッドショックを改革のチャンスと捉えて、川上・川下が連携するシステムを構築して将来に備えてほしい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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