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5年後が危険!伐採跡地が崩壊するとき

田中淳夫森林ジャーナリスト
豪雨によって斜面が大規模に崩壊した山(筆者撮影)

 熱海で起きた土石流の原因を探る動きが活発になっている。一定の結論が出るまでには数か月かかるだろうが、崩落現場の近くに太陽光発電のため切り開かれた尾根があったり、大規模な盛り土があったりしたことがクローズアップされている。

 今後同じような山崩れと土石流が発生しやすい場所を見つけるには、何を確認したらよいだろうか。

 まずは、森林の有無だ。日本中の山間部では、急速に裸地が増えている。メガソーラーを建設するために森を数十ヘクタール(ときに数百ヘクタール)も切り開く工事が頻発しているし、バイオマス発電の燃料調達や、風力発電の風車建設のため森の木を伐る例も増えた。

 何より林業が、これまでの間伐を中心とした施業から皆伐へとシフトし、大規模伐採を推進しているのだ。しかも皆伐した後に再造林しているのは3~4割にすぎない。いったい全国でどれだけ伐採跡地が広がっているのか。

 統計の数字をすり合わせると、未立木地は約180万ヘクタールになる。

消えた200万ヘクタールの森。統計の陰にカラクリあり

 ただ森に覆われていない山は、どこも危険だ、というほど単純でもない。山が崩れるには、雨量はもちろん地形や地質、地下水などが複雑に関わっているのだ。

 ちょうど今、盛り土は崩れやすいという意見が飛び交っているが、これも簡単には言い切れない。たとえば林道を作る際は、斜面上部を削って、その土を下部に盛り土し道の平面をつくるわけだが、この場合、崩れやすいのは山肌を削ってできた法面だ。ちゃんと突き固め排水も工夫した盛り土は、むしろ崩れにくい。(ちゃんと、という点に注意。手抜き工事はどこでも危ない。)

 また森林に覆われていると、樹の枝葉が降雨を受け止めるから土壌が流出しにくいと言う意見もあるが、そうでもない。樹木に降った雨は、粒径を大きくして地面を直撃するから土を抉りやすい。むしろ草が地面を覆っている方が土壌を守ってくれる

 ただ森林では、樹木や草の根が土壌内に網の目のように伸びて、土を緊縛している。それが斜面の崩壊を食い止める力はあるだろう。また一部の根は土壌の下の基岩層の隙間にも伸びて、表層をつなぎ止める役目も果たすだろう。

 そうした樹木を伐採してしまえば、崩壊しやすくなるのは当たり前。だから、やはり森林が伐採された山は要注意だ。

 だが、業者などは、伐採して何年も経つ(その間にも豪雨はあった)が山は崩れていないと主張する。あるいは、跡地に植林したから大丈夫と言いがちだ。

 これが大きな間違いなのだ。実は、伐採した直後の山は、崩れにくい。なぜなら地上の樹木はなくなっても、地下の根系はまだ生きて土壌を緊縛しているから。

本当に危険なのは、根が腐る5、6年先だ。

 樹木の根は、徐々に腐って緊縛力を失う。そして根の部分が空洞となり水を吸い込むトンネルとなる。水は、土壌と基岩層の接地面へと流れ込んで、表層崩壊を起こしやすくする。また岩盤の中へと徐々に染み込んでいけば、深層崩壊を引き起こすきっかけになる可能性だってある。

 仮に伐採直後に再造林したとしても、その苗の根が十分に伸びるまで20年はかかるだろう。だから伐採してから5年から20年の間がもっとも崩壊しやすいのだ。

 これまで崩れなかったという言葉に安心しない方がよい。とくに近年は「経験したことのない大雨」が頻発している。

 災害は忘れた頃にやってくる。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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