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アベノマスク納入業者の扱う木質ペレットから読み解く怪しげなバイオマス発電

田中淳夫森林ジャーナリスト
バイオマス発電所で燃やしている燃料の出所はどこか?(写真はイメージです)(写真:アフロ)

 アベノマスクの納入業者の最後の1社として、いきなり登場したユースビオ株式会社。

 政府がなぜか頑なに公表してこなかったので、何かと疑惑が噂されているが、週刊朝日に掲載されていた社長インタビューで、私が引っかかったのは、もともとベトナムから木質ペレットを輸入する仕事をしていたという説明だ。

 インタビューによる社長の受け答えは、記事を読む限りわりと真っ当なのだが、私は、扱われる木質ペレット自体に怪しさを感じている。

近年急増する木質ペレットによる発電

 ここでいう木質ペレットとは、木材の粉を固めて小粒の棒状に仕上げたもので燃料として使用する。ペレットストーブなどでも使われるが、最近は大規模なバイオマス発電所の燃料として大量に海外から輸入され始めた。

 木材のような再生可能な燃料による発電は、二酸化炭素の排出がゼロになるという理屈で、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)で電気料金を高く買い取るように設定されているのだが、そこには怪しげな闇がある。とくにベトナム製は何かと疑惑を抱えているのだ。そして発電業者も、それを利用して違法に儲けているフシがある。

 もともとバイオマス発電によるFIT価格は、奇妙な点がいくつもある。その一つが、燃料を出所によって区分していることだ。「未利用材」「一般木質バイオマス」「リサイクル木材」「その他廃棄物」と細かな分類がされている。

 たとえば森林内に残されている未利用材を使う場合は、買取価格を1キロワット32円に設定しているが、一般木質バイオマス(製材屑など)は24円、リサイクル木材(建築資材廃棄物など)は13円……(すべて税別)と価格差をつけている。これは日本独特の制度なのだが、同じ木質燃料でも、この区分のどれに該当するかによって価格が大きく変わるのだ。

認証偽装の恐れの強いベトナム製ペレット

 そして木質ペレットは、一般木質バイオマスに属することになっているが、納入する業者がそれが適法に出されたものであり、かつ分別管理されている木材を使用して製造したことを証明する必要がある。ベトナムからの輸入の場合は、国際的なFSC認証を付けている。しかし、それが偽装の可能性が高いのだ。

 具体的には、ベトナムでFSC認証を受けている森林から生産される木材は、年間494万4342 トンである。そこから生産される木質ペレットの年間生産可能数量は約30万8414トンと推定されている。もちろん、製材屑の全量がペレットになるわけではないから、実際はこれよりはるかに少ないだろう。

 ところが日本が輸入しているのは、51万1544トン(2018年)だ。ちなみに韓国も輸入しているが、その量たるや120万トン以上だ。日本だけでも生産可能量を越えているが、両国を合わせると6倍近い。とても真っ当な認証を受けている木質ペレットとは思えない。

 同じような疑惑はタイの木質ペレットにあるし、さらにはアメリカやカナダから輸入される木質ペレットにも怪しげな面が多い。森林を破壊して伐りだした木材をペレット化しているという告発が現地で行われている。

 もちろん輸入業者にも認証の正確性を確認すべき義務があるのだが、果たして日本の業者でまともに審査しているところはあるだろうか。

跳ね上がるFITの電力買取価格

 一般木質バイオマスとして証明されていない木質燃料は、本来「廃棄物」に当たる。これはリサイクル木材相当だから、FIT価格は13円だ。それを「一般」に区分すると24円と跳ね上がる。これで大儲けできるのがバイオマス発電業者なのだ。

 もちろん高くなる分は、電気料金に上乗せされるから、我々が支払わされていることになる。

 もともと木質燃料をFIT価格にするのは、木材は植えたら再生し、その際に二酸化炭素を吸収してくれるという理屈があるからだ。持続的な社会を築くためにという名目で、高い電気料金を支払うように設定している。

 しかし、それを海外から輸入すれば輸送に莫大なエネルギーを消費する。船の燃料などは化石燃料を使っているから、二酸化炭素を排出する。全然、再生可能でも持続的でもないわけだ。そこに違法な燃料まで加わっているようでは、何をもって持続的社会なのか。

 私は、FITの枠組から木質バイオマス発電そのものを見直すべきだと思っているが、まずは現行の法律でも違法の恐れのある海外からの燃料輸入をストップすべきだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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