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野生動物に気をつけろ! 新型コロナはペストと同じ人獣共通感染症

田中淳夫森林ジャーナリスト
シカ肉をいまだに生食する人がいるが、極めて危険(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 今、世界は新型コロナ肺炎が蔓延している。

 この疫病は「COVID-19」と名付けられたコロナウイルスの新しい型が引き起こす。感染源は確定していないが、コウモリだろうと言われている。

 2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)、さらに中東呼吸器症候群(MERS)もコロナウイルスの仲間が引き起こした。SARSはコウモリの持っていたウイルスがハクビシンを介して人間に感染した。MERSはコウモリからヒトコブラクダを介して人間へうつったようだ。

 鳥インフルエンザも、1997年に人に直接感染することがわかり新型インフルエンザとなった。

 2014年に流行ったエボラ出血熱も、コウモリから人間へエボラウイルスが感染したものだとされている。

 エイズは、サルのウイルスが突然変異によって人への感染性を獲得しヒト免疫不全ウイルス(HIV)になったと考えられている。

 そして世界史上最大の被害を出したといわれるペストも、ネズミ、イヌ、ネコなどが宿主で、ノミが媒介して人に感染するようになった病気である。

近年の感染症の多くがズーノーシス

 これらの共通点は何か。そう、動物が持っていた病原体(ウイルス、細菌、リケッチア……)が人間に感染した結果だ。いわゆる人獣共通感染症。動物由来感染症などともいう。これらを「ズーノーシス」と呼ぶ。

 世界保健機関(WHO)では、ズーノーシスは「脊椎動物と人間の間で通常の状態で伝播しうる疾病」と定義されているが、これまでに確認されているズーノーシスは約150種にも及ぶ。

 たとえば病原体がウイルスであるものには、先に記したもののほか狂犬病、日本脳炎、西ナイル熱などがある。細菌では、結核も野生動物由来だ。なかでもネコひっかき病、野兎病、ライム病、ブルセラ病……これらはペットのイヌやネコも媒介する。さらにリケッチアによるQ熱、日本紅斑熱、つつが虫病なども有名だ。

人に感染してから変異する

 ただ動物の持つ病原菌が「人にも感染した」だけではない。人間の体内で変異を起こすことが問題なのだ。通常の変異はほぼ無害だが、たまに変異で感染力が増したり、人間の免疫系への抵抗力が強まったりする。そして毒性を増すケースもままある。エボラ出血熱の場合は、西アフリカのマコナ地区で1人が感染したあるエボラウイルスが変異して、人間への感染性を4倍も高めたことがわかっている。

 なぜ野生動物の持つ病原体が人間にうつったのか。いうまでもなく、両者が接触したからだ。

 一つは、人間が野生動物に触れる場合だ。野生動物を食べるため、あるいは毛皮や角を採るため。さらに漢方薬の原料、そしてペットとするため。たとえば SARSは、中国の野生動物市場で獲物のハクビシンから人に感染したと言われている。今回の新型コロナも同じと疑われている。

増えた野生動物が人に接触する

 次に動物側から人間社会に近づくことが増えたこと。ネズミなどは都市部を住処として増殖した。さらにペットも大きな機会になるだろう。とくに野外を自由に徘徊するネコは多くの病原体を身につけている。

 そして日本の場合では、野生動物そのものの増加を忘れてはいけない。シカ、イノシシなどは人里にも出てくるようになった。さらにサル、クマも出没するし、近年はアライグマ、ハクビシンなど外来動物が野生化して激増している。

 実際、これらの動物が山のヒルやノミ、ダニなどを人里に運んでいる例は多く報告されている。マダニから感染する重症熱性血小板減少症候群は極めて致死率の高い危険な病気だ。ほかにQ熱、日本紅斑熱、ライム病などの感染源にもなる。またアライグマは、日本ではほとんど消えたはずの狂犬病を媒介する。

ジビエという名の感染源に注意

 最近は、増えたシカやイノシシを減らすためにも、これらの動物の肉を食べようという、いわゆる「ジビエの普及」が進められている。だが、多くの未知の病原体を持つ動物を安全に食べるためには、注意を要する。解体などの処理時はもちろんだが、間違っても生肉を食べてはいけない。

 残念ながらシカ肉は刺身がイチバン、という声がまだあり、平気で販売、さらにレストランでも供されているが、極めて危険だ。すでにシカ肉からE型肝炎ウイルスに感染する例がある。ほかにサルモネラ菌や寄生虫、O157大腸菌もいる。

 これらの病原体が、人体に感染してから体内で変異して感染力と毒性をアップするかもしれない。それが全世界に広がり、新たなパンデミックを引き起こすことだってあるかもしれないのだ。

 今回の新型コロナ肺炎がズーノーシスであることはもっと意識した方がよい。そして野生動物との接触の仕方を誤ると、今後も新たなズーノーシスが登場しかねないことも。

 

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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