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石でつくられた紙はエコか。リサイクルできない紙が増えている!

田中淳夫森林ジャーナリスト
集められた古紙。この中にリサイクルできないのはどれだけあるか?(写真:アフロ)

 最近、海洋プラスチックのゴミ問題が注目され始めたせいか、紙製品が増えている気がする。

 たしかにプラ製のレジ袋やストロー、ペットボトルなどの代わりになるのは、まず紙製だろう。紙袋、紙のストロー、カートカンという紙の缶もある。

 紙は主に木材が原料だから再生可能であり、そもそも自然物なのだから環境負荷も小さい。製造時の二酸化炭素排出量も少ないはずだ。

 とくに日本はリサイクル率が高い。回収率が81・5%(2018年)の優良国(もっともイギリスは90・4%、韓国は84・1%と、上には上がいる)だが、果たして古紙のリサイクルは上手く行っているのだろうか。

 そこで以前より気になっていたリサイクルできない紙について調べてみた。驚くほど種類が多かった。

 たとえば紙おむつ には紙と付いているが、実質合成樹脂の品だし、汚物がついていてはリサイクルできない。同じく食品残渣が付いた紙もダメ。写真などの印画紙、カーボン紙、感熱紙(レシートに多い)、ラミネート紙(酒の紙パックなど)もダメ。マスクや紙お手拭きなど不織布もダメ。意外なところでは紙コップ、紙皿など防水加工しているものや、カバンなどに詰められている緩衝材も使用済転写紙を使っていることが多いのでダメ……。さらに石鹸や柔軟剤の臭いがついている包装紙もリサイクルに向かない。そのほかシールや粘着テープ、壁紙、クッキングシート、段ボールもワックスが塗られているものはダメ。(公益財団法人古紙再生促進センターのHPより)

 ダメダメ尽くしではないか。

 もちろん量的には新聞や雑誌、書籍、広告の紙などリサイクルできるものが圧倒的に多い。しかし問題は、リサイクルできないものが少しでも混入していて分離できないと、全体をリサイクルに回せないことだ。それらは古紙の流通過程や処理工程で取り除かれるが、最初に分別していないと非常に手間とコストを増やしてしまう。とはいえ分別も簡単ではない。いくら細かく分別指針をつくっても、全員が守れるわけではないからだ。

 それに純粋な紙と言っても、すべてが木質パルプでつくられているわけではない。まずにじみを抑えるサイズ剤(松脂や石油系樹脂)が使われているし、そこに紙を不透明にする填料や増強剤、着色剤も添加されている。それらの多くは合成樹脂やタルク(鉱物)、白土、炭酸カルシウムである。書籍用紙やコピー紙などでは、灰分(燃やした後に残るもの)の10~25%がそうだという。それらをリサイクル工程で取り除くには、結構な化学薬品とエネルギーを費やす。

 そこに登場したのが、ストーンペーパーだ。

 木質パルプを使わず、主に石灰岩(炭酸カルシウム)とポリプロピレンなどの合成樹脂を複合して紙そっくりに仕立てたものだ、印刷もできるし、紙の用途と同じように使える。比較的身近なのは、地図用紙だろう。水に濡れても破けないから重宝されるようだ。

 私の手元にも見本となるチラシがあるが、不思議な手触りだ。ツルツルとも言えず、ざらついているとも言えず……。しっとりとしていて、強度はある。ただ一般の紙と区別するのはなかなか難しそうだ。

 このストーンペーパーが、今注目を集めている。それはプラスチック包装の代替品になるからだという。全部プラスチックの包装に比べると合成樹脂の使用量を半分以下に減らせるため環境に優しいというのだ。さらに木質チップを使わないから木を伐らない、製紙過程で水を使わないから水を汚さない、……と宣伝されている。石灰岩自体も豊富な資源なので枯渇の心配はなさそうだ。「森林保護」「減プラ」を掲げられるので企業には有り難い。

 もともと台湾で誕生したのだが、最近は国産品が伸びている。たとえば「LIMEX」(ライメックス)という商品は、石油由来の樹脂約0.2~0.4トンと石灰石約0.6~0.8トンで、合計1トンの「紙」を作るそうだ。

 

見た目はパルプ製の紙と区別がつかないストーンペーパー(筆者撮影)
見た目はパルプ製の紙と区別がつかないストーンペーパー(筆者撮影)

 しかし本当に環境に優しい紙なのだろうか。何よりこの紙はまったくリサイクルできない。そもそもパルプを含んでいないのだから。ストーンペーパーは、紙と似て非なるものなのだ。

 紙の代替として使われると、気がつかずに古紙回収に出されてしまう可能性が高い。それでは製紙会社にとっては再生できない「古紙」を買わされた挙げ句、製紙工程に影響が出るだろう。紙製品に混じると異常が生じ、販売できなくなる恐れがある。古紙リサイクル工程でも、異物がクリーナーなどのスクリーンや配管を詰まらせる。

 それに減量と言いつつ石油からつくられた樹脂を使っているわけだし、石灰石にしろ合成樹脂にしろ焼却したら二酸化炭素が発生する。木材のようにカーボン・ニュートラルではない。もちろん再生可能でもない。燃やしても灰分が非常に多く出て焼却場でもやっかい者となる。これを「環境に優しい」と言われると、抵抗がある。そもそも「木を伐らない」ことを売り物にするのも「伐って森を守る」と唱えている林業の否定になってしまう。

 

 ところで最近は、古紙の買取価格が下落しているそうだ。

 それには中国が絡んでいる。中国が古紙の輸入を規制し始めたからだ。日本の古紙は、すべて国内でリサイクルしているわけではなく、回収されたうちの約2割を海外に輸出している。その7割が中国だ。その中国に「固形廃棄物規制法」ができ、廃プラスチック、雑紙などの廃棄物などの輸入を段階的に停止するとしたもので、そこに日本の(リサイクルに難のある)古紙も含まれる。結果的に回収された古紙は、国内でだぶついて価格を引き下げている。それが古紙回収システムを壊しかねない。

 紙なら何でもリサイクルできて環境によい、と単純に考えるのは危険だろう。紙の世界も注意深く見ておきたい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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