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サクラの寿命は?サクラ林業のススメ

田中淳夫森林ジャーナリスト
サクラの生長は早く、幹も太くなる。材質も使い勝手がよく人気(ペイレスイメージズ/アフロ)

 私が行きつけにしている山間にあるカフェ&レストランには、多くのサクラ(ソメイヨシノ)が植えられている。春になれば、サクラの花の下で料理や茶をたしなむのが人気だ。(その席は取り合いである。)

 多くのサクラは根元の直径が30センチを超える。だから結構な樹齢を重ねているように思えるが、実はオーナーが引っ越して棚田に家を建てた際に植えたと言うから、たかだか40年生くらいなのだ。

 カフェの一角にはまだ若いサクラも植えられていて、高さ3メートル、直径が15センチくらい。これが仮にスギなら20年生ぐらいだろうか。しかし、ほんの3~4年前に植えたものだ。実は私も立ち会っている。苗はひょろりとした高さ1メートル程度だったから、あっと言う間に太くなったのだ。

 勘違いしている人もいるが、サクラは非常に生長が早い。高木の中では早いとされ里山に多いコナラなどよりも早いように思う。

 サクラの巨樹は、魅力的だ。枝を周囲に広げ、一斉に花を開くと、この世のものと思えないような迫力がある。そして、そんなサクラには「樹齢300年」とか、ときに「1000年」といった数字が語られている。

 なかには樹齢350年を謳い、花の季節には何千人と集客するサクラもあるが、戦国武将にちなんだ名前を付けられている。彼が隠れ住んだ屋敷に植えたとしたら、それこそ樹齢400年近い……。

 ところが、友人の林業家に聞いた話は仰天であった。

 なんと、このサクラを植えた人物を知っているというのだ。ちゃんと会って話したそうである。もちろん、その人が400歳ということではなく、ある場所に生えていた小ぶりのサクラを数十年前に植え替えたそうである。すると場所がよかったのか、すくすく育ち、あっというまに巨樹になったらしい。そこで、その人の名前から連想する戦国武将の名をサクラに付けたら人気を呼んで……。

 これが名所誕生秘話か! もちろん罪はない。あくまで「伝説」として語られるのであれば結構だ。それで名所になったら地域おこしとして成功ではないか。

 ソメイヨシノは、サクラ類の中でも最も早く大きく生長する品種だろう。環境にもよるが、樹齢50年で高さ15メートル、胸高直径80センチ、樹冠直径20メートルを超すまでに生長するとされる。だから植える場所を選ばないとトラブルの元になる。下手に庭や街路樹に植えると管理が大変なのだが、それほど生長がよいのだ。

 ならば、林業用樹種にできないだろうか。サクラの材質は適度に硬くて磨くと艶が出る。幹は高く伸びないので長い直材は取りにくいが、家具用やフローリングなど内装材なら短くても十分使える。材質、加工性は優れており、特に狂いが少ない。またピンク色の材の色も好まれやすい。楽器や彫刻用としても重宝されていて用途は広い。また樹皮の内側の桜皮は煎じて飲むと喉の薬になる生薬だ。さらにサクラのチップは燻製用に人気である。当然、花の季節には観光収入も得られるのではないか。スギの代わりに全山に植えて林業を営めないか……と思いついた。

 最初は春の夢、戯れ言のつもりで考えてみたのだが、よくよく検討したら不可能ではない。スギやヒノキの代わりに植えたら花粉症患者には喜ばれるだろうし、仮に木材の量はあまり採れなくても、さまざまな利用の仕方があり、しかも高付加価値を見込める。さらに花で山村を賑やかにできるではないか。

 ちなみにソメイヨシノの寿命60年説を知っているだろうか。人工的につくられたソメイヨシノは、50~60年すると樹勢が衰え、枯れてしまうというものだ。戦後、多くの土地でサクラの名所づくりでソメイヨシノが植えられたが、そろそろ60年を超すようになってきた。それが壊滅するんじゃないかと心配されている。

 だが、これは管理の問題のようだ。だいたいソメイヨシノの最初の一本とされる樹木が数年前に上野公園で発見されたが、その寿命は130年程度。まだまだ元気だそうである。ほかにも小石川植物園にも約130年、弘前公園や新宿御苑には樹齢100~120年程度のソメイヨシノが数十本ある。

 ただ50年をすぎると幹を上に伸ばさなくなり、枯れ枝が目立つようになるし、てんぐ巣病や材質腐朽病に侵されやすく幹や枝が腐りやすい。しかし不定根を伸ばしやすく、根の周りに新たな芽を出し若木を伸ばす。それを利用すれば母樹を伐採した後の植林の手間が省けるかもしれない。木材を収穫するなら50年で伐採し、新苗に切り換えた方が得策だろう。

 

 すでに木材価格が低迷する中でスギをサクラに植え替えて、観光収入を得ている林業家もいる。最初は山の彩りのつもりだったが、人気が高まり、有料にしたらスギ山時代より収入も増えたという。サクラで林業というのも夢物語ではないかもしれない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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