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花粉症対策の嘘。間伐すればするほど花粉飛散量は増え補助金で潤うカラクリ

田中淳夫森林ジャーナリスト
そろそろスギ花粉の飛散予測が出始めた。(写真:アフロ)

 年が明けて、スギ花粉の飛散予測が出始めている。

 2月に入ったら九州から花粉が飛び始め、3月には本州を覆うはずだから、ちょうど予報時期なのだろう。スギの後にはヒノキ花粉も飛び出す。19年は例年比でみると、東北から近畿、九州は増えるところが多いようだ。なかには花粉飛散量を前年の2倍~5倍を予測する地域もある。

 また花粉に対する怨嗟の声が花粉症患者から上がるに違いない。

 ところで、飛散するスギやヒノキ花粉を少しでも減らそうと実施されているのが、間伐と枝打ちである。

 物理的に花粉をつける雄花を減らすというだけでなく、よく語られるのが「手入れが十分されないスギ林は密生状態になって衰弱する。すると枯れる前に子孫をつくるため花を咲かせ、花粉をたくさん出して飛散させる」という説明である。

 そして間伐が推奨される。木々の間を透かしてスギが元気に育てば花粉も減ると考えるのだろう。林野庁も間伐の推進を花粉症対策になるとしているし、東京都も2006年からは10年間の「花粉発生源対策」と称して、間伐と残した木々の枝打ちを実施した。この計画で1万ヘクタール近くの人工林で間伐と枝打ちを実施したらしい。

「枯れる前に子孫を残そうと」するとか、木の本数や枝を減らせば花粉の飛散する量が減るという発想はわりと納得しやすいというか、心情的に伝わるのかもしれない。しかし、明確な実証データもなく、科学的とはいいがたい。

 むしろ樹木が衰弱したら、雄花は減り花粉生産量も減少すると考えるべきではないか。そして間伐で周囲に空間が広がれば、残した木々の生長がよくなり、枝葉も広げられるから雄花がたくさんつき、花粉は多くつくられることが想像すべきだろう。

 現実に、雄花は日当たりのよい部分に育つから、間伐で本数を減らしたことで日光が当たるようになった木々では花粉を増産する。つまり間伐した年は花粉飛散量は減るかもしれないが、翌年には残した木の枝が大きく育ち、花粉は盛大に飛散するのである。

花粉をいっぱいつくって膨らんだスギの雄花
花粉をいっぱいつくって膨らんだスギの雄花

 実際にそうした研究結果も出ている。

 森林総合研究所関西支所の研究(1998年)によると、

間伐は林分雄花生産を最大2倍強増大させ、間伐で雄花生産を減らすには9割以上木を伐る必要があることが分かった

間伐による雄花生産抑制は間伐年には有効だが2年目以降は逆効果となる可能性がある。

とある。

 また林野庁の調査(1990年)でも、10年以内に間伐した林と間伐をしなかった林を比較して、雄花の数に有意の差は観られなかったという結果を出している。どちらもちょっと古いが、逆に言えば随分昔からわかっていたのだ。それなのに政策は変更することなく、ひたすら間伐を「花粉症対策」という名目の元、推進し続けている。

 枝打ちも同じだ。そもそも枝打ちは、樹木の下の方の日当たりの悪い枝を落とすのが主要作業であり、その枝に雄花(花粉)がつくことはあまり多くない。花粉症対策としての効果は見込めないのである。

 なおスギやヒノキの花粉の特徴は、非常に小さく飛散距離が長いことである。風に乗れば数十キロはゆうに飛ぶ。いくら人家の近くのスギ林を伐採しても遠くから花粉は飛来するだろう。

 そこで気づいた。もしかして、現在の人工林が手入れ不足で荒れているおかげで、花粉飛散量はかなり減っているのかもしれない。そこに間伐と枝打ちを施しせっせと世話をすれば、スギは元気になって雄花はたくさん育ち花粉の飛散量は増大する!?

 結局、この手の花粉症対策は思いつきのレベルにすぎなかった。それでも推進されてきたのは、毎年春になるとある花粉症患者のクレームに対して林野庁などが何か「やってる感」を出さないといけないと考えたのではないか。

 同時に花粉症対策を錦の御旗に掲げたら、間伐などの補助金が増やせると見込んだに違いない。効果は二の次で、予算獲得の手段とされた可能性がある。林業家も名目はなんであれ、補助金で仕事が増えたら文句はない。さらに間伐で花粉飛散量は増大し患者が増えたら、製薬会社も花粉症商戦で儲かるのだろう……。

 ならば、スギを9割伐れ、全部伐れという叫びが上がるかもしれない(笑)。

 これこそ、皆伐を進めたい林野庁にとって望むところ、シメタ!と思うだろう。伐採した年だけは木材生産量を増やして見かけの林業活性化を演出できる。ただし、持続的な経営でなくはげ山を増やすだけで将来は暗い。まるで花粉飛散量と同じ展開である。

※文中の写真は、筆者撮影

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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