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高値の木を捨てている…。日本の林業現場の実情

田中淳夫森林ジャーナリスト
クロガキの茶托。この木目が高値を呼ぶ。(提供・吉井恒仁)

 クロガキという木を知っているだろうか。

 正確にはそんな名の樹木はなく、いわゆる柿の木(カキノキ科カキ)なのだが、木質部に黒色の縞模様や濃淡が入ることが稀にあり、ときに孔雀の羽の模様に似た孔雀杢が現れる。カキの古木の木質部にタンニン(柿渋成分)が沈着したら黒変するのだが、そんな木をクロガキと呼ぶのだ。その出る確率は1万本に1本ともいわれる代物だ。

 銘木として珍重されており、その価格は仰天するほど高値である。もし木目の模様が美しければ、立米100万円近くすることもある。最高級の和家具のほか和室の床柱や内装の造作材、茶道具など工芸品、今風なものとしては高級ゴルフクラブのヘッドとしても用いられる。

クロガキの茶道具・棗。(提供・吉井恒仁)
クロガキの茶道具・棗。(提供・吉井恒仁)

 そんなクロガキが、チップ工場に並んでいた、という話を聞いた。気付いた人は、あわてて抜き出して買い取り転売したら数十万円の値がついたそうだ。

 この手の特別な銘木でなくても、広葉樹材の中には高く売れるものが少なくない。広葉樹材は家具や内装用(フローリング、壁材)、あるいはウッドデッキなどに人気だからだ。

 人工植栽されたスギやヒノキ林でも、たまに混ざっているケヤキやミズナラ、ヤマザクラ……など広葉樹の木の方が高く売れた、という話も伝わってくる。実際、スギ材が立米1万円そこそこの時でも、広葉樹材は4万円ぐらいした。

 ただ日本で消費される広葉樹材に国産のものはほとんどなく、供給を輸入に頼っているのが現状だ。東南アジアやアフリカの熱帯雨林から伐り出された広葉樹の大木が出回ることも少なくない。

 しかし資源の枯渇が進み、貴重な原生林の破壊につながると、取引が禁止された樹種もある。広葉樹の植林は難しくてほとんど行われていないからだ。とくに近年は違法伐採に対する眼が厳しく、市場に出てこなくなってきた。

 だから国産広葉樹材への期待が高まっている。日本でも少なくなっているが、樹種によってはまだあるし、大木でなく細い木の材でも十分間に合う用途もある。

 それなのに、広葉樹の大径木が捨て値で売られていたり捨てられるケースも少なくないのだ。最近ではバイオマス発電の燃料に回されるケースも多い。もちろん価格は、1本当たり数百円にもならないだろう。

「(製材所の)倉庫の邪魔になるから赤ケヤキを燃やしたとか、クロガキが薪用に割られていたなんて話も聞きます。一枚板や工芸品に仕立てたら、数十万以上の値打ちが出るのに勿体ないですね」と銘木マイスターの吉井恒仁さんは言う。

  

木材市場の片隅に摘まれた広葉樹材(筆者撮影)
木材市場の片隅に摘まれた広葉樹材(筆者撮影)

 なぜ、こんなミスマッチが起きてしまうのか。

 その理由は、まず林業家側が広葉樹材の価値を知らず、十把一絡げに「雑木」扱いするからだ。山で広葉樹を伐っても、出材せずに山に捨てているケースもごく普通にあるだろう。

 さらに木材市場関係者、製材関係者なども広葉樹の価値を見極め仕分ける眼がない。樹の名前を全然知らないから樹種別の仕分けもできず、広葉樹材をすべて「雑」と表示して販売する原木市場もある。通常の木材市場ではスギやヒノキしか扱わないからだ。

 そして、立派な広葉樹の原木でも、それをよい木目が出す木取り(丸太を板や角材に製材する作業)が難しく、乾燥も時間がかかるので敬遠する業者もいる。

 現在、比較的安定的に出せる国産広葉樹材は、東北のクリ材と、せいぜいコナラ材ぐらいだろう。また広葉樹を扱う市場も少ない。出荷先が身近にないと林業家も諦めてしまう。

「ある銘木商は、通常の競りよりも、同業者が廃業した際の整理市の方がまだ期待できると嘆かれてましたよ」(吉井さん)

 家具業界も危機感を持っている。これまでのように外国から広葉樹材が十分に入ってこないからだ。一部は針葉樹材による家具づくりに挑んでいるが、材質が柔らかいため強度を保ちづらくデザインが制約されるうえ、傷がつきやすいからクレームが怖い。

 日本の林業界は、材価の下落に苦しんでいるが、目の前に高く売れる木があっても、それに気付かない、もしくは仕分けなどの手間を面倒がって利益を出すチャンスを失っている。

 広葉樹材だけでなく、スギやヒノキでも出荷先や用途によって価格が大きく変わることもあるのだが、工夫して材価を高める努力が欠かせない。まずは、木の価値に対する意識改革から取り組むべきではなかろうか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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