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ソメイヨシノのサクランボを探してみよう

田中淳夫森林ジャーナリスト
サクラの花も大方散った。この後に何ができるか観察しよう(筆者撮影)

 そろそろ全国的にサクラの花のシーズンは終わりに近づいている。咲き誇ったソメイヨシノの枝も、今や花びらが散った後の花柄ばかりが目立つ。今年は早く咲き出し、あっという間に満開になって、さっと散る……という展開となった。

 なぜソメイヨシノは一斉開花するのか。その点については、私は4年前にこんな記事を記した。

'''ソメイヨシノの一斉開花はなぜ起きる?'''

 この記事でソメイヨシノは、すべて接ぎ木で増やされており、すべて同じ遺伝子を持つクローンであると説明した。またサクラは自家不和合性を持ち、花の雌しべは同じ樹の雄しべの花粉では受粉できないことも触れた。同じ遺伝子の樹では不稔なのだ。言い換えるとクローンのソメイヨシノ同士で受粉して稔ることはないわけだ。だからソメイヨシノの種子はできない。

 だが、散ったソメイヨシノの木を今後も観察してほしい。多分、5月6月になると、実を付ける木も見つかるだろう。サクラの実なのだから、それはサクランボである。

 そう、ソメイヨシノにだって、サクランボが稔ることはあるのだ。

 ただし、大きさは小さめ。私の見たのは、直径がせいぜい数ミリである。色も赤いものもあったが、濃い紫ぽいものが多い。せっかくだから味わってみるといい。しぶくて食べられたもんじゃないから(笑)。

 なぜ、クローンだから受粉しないはずなのにサクランボができるのか。

 答は簡単、ソメイヨシノ以外のサクラの花粉を受粉したからだ。たとえば近くの山にヤマザクラがあれば、その花粉が飛んできて、ソメイヨシノに付いたのだろう。もともとサクラは雑種ができやすい。(そもそもソメイヨシノもオオシマザクラとエドヒガンとヤマザクラなどの雑種とされている。)だからソメイヨシノばかり植えられた名所ではなく、さまざまな品種のサクラを植えているところ、あるいは近くの山に天然のヤマザクラなどが生えていると、ソメイヨシノにもサクランボができる可能性は高くなる。

 おそらくソメイヨシノの花粉も山に飛んでいて、そこに生えているヤマザクラなどを受粉させているだろう。

 そのサクランボ、つまり種子だが、それを採取して育ててもソメイヨシノにはならない。芽が出ないわけではないが、雑種として別の形質を示すはずだ。

 実は、この雑種化が広がるとサクラの遺伝子を攪乱してしまう、という声がある。純粋なサクラの亜種・品種などが消えてしまうのだ。

 ソメイヨシノは接ぎ木でつくるから影響はないが、野生のヤマザクラなどに受粉して雑種をつくり、その種子が落ちて育てば、そこには雑種のサクラが生まれることになる。

 そして、もう一つ。「枝変わり」という現象もある。同じソメイヨシノの樹なのに、枝によって色や形の違う花を咲かせるケースがあるのだ。なぜか枝の成長点で突然変異を起こすらしい。この現象自体はさまざまな植物でも見られるが、ソメイヨシノは比較的多いらしい。植物分類学のビッグネーム・牧野富太郎博士もソメイヨシノの枝変わりを発見して報告している。

 本体とは違った花を咲かせた枝を切り取って挿し木(もしくは接ぎ木)に成功させれば、雑種のサクラが成長していくこともありえるだろう。もしかして、その結果から新たなサクラの品種が誕生するかもしれない。

 クローンだ、同じ遺伝子の樹ばかりだ、とソメイヨシノを嫌う人もいるのだが、意外や新たな進化の可能性があるのだ。そのうち枝変わりから一斉開花しないソメイヨシノ、真っ赤な花のソメイヨシノ、なかなか散らないソメイヨシノ……なんてのが生み出されるかもしれない。あるいは山のヤマザクラの中に年中花を咲かせるサクラを見かけるようになるかもしれない。

 それはそれで面白いが、日本の春の景色が変わってしまうのも困るが。

 それはともかく、ソメイヨシノのサクランボ、あるいは枝変わりを探してみるのもサクラの楽しみ方にしてみよう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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