杉を広葉樹に! 杉が世界を席巻する日

ノルウェーではケボニー化材が波洗う海岸壁にも使われている。(著者撮影)

 昨年「'''針葉樹材が広葉樹材に化ける!これは林業イノベーションだ'''」という記事を公開した。ノルウェーのケボニー社が、針葉樹材(ラジアータパインやオウシュウアカマツ)を、硬くて磨耗や腐朽に強い広葉樹材のようなハードウッドに変える技術を開発したというものだ。(これをケボニー化と呼ぶ。)

 ケボニー化処理とは、天然性物質由来のフルフリルアルコールを木材に含浸させて木質内部でフラン樹脂を生成させるもの。おかげで重く強く硬くなるのだ。すでにケボニー化材は、ヨーロッパでデッキやビルの外装・内装、家具やカトラリーまで広く使われ始めている。

 

 ケボニー化材の日本輸入総代理店のバルセロナトレード(岡山県津山市)は、この技術を日本のスギに応用できないかと考えた。そこで津山市と京都府立大学、奈良県森林技術センターと組んで実験を行ってきた。そして、このほど成果の中間報告が行われたので、その結果を紹介しよう。

 まず見た目は、濃茶色で艶やかになり、チーク材に似た感じになっていた。

 次に寸法安定性は抜群に増した。水分や乾燥に対する収縮率や膨潤率は、無処理杉材のほぼ半分以下である。

 面白いのは、ケボニー化処理をした後も水をよく吸うことだ。にも関わらず寸法はあまり変わらない。おかげで杉の調湿機能は保たれたままだ。プラスチックのように水を弾いて寸法変化をさせないわけではないのだ。表面の手触りも木質そのもの。

 表面硬度は、板目では1~2割増し、柾目では3倍にもなった。曲げ強度や曲げヤング率といった指標も、変化はあまり見られない。若干粘りがなくなる結果も出たが、十分に木材としての特徴を残している。

 

ケボニー化した杉材
ケボニー化した杉材

 耐腐朽性能は、今回は菌類への耐性と鉄腐食性の結果を出せたが、いずれも良好。無処理材がほとんど腐ったり錆でボロボロになる条件下でも、ほぼ無傷であった。釘など金具を使うのに問題はない。

 驚くのは、同じケボニー化処理を施したラジアータパインやオウシュウアカマツよりもよい数値が出ていることだ。

 なおフルフリルアルコールは芯まで含浸していた。浸透しにくいとケボニー化の効果もムラが出やすいのだが、その点心配はなさそうだ。たとえばオウシュウアカマツは表面しか浸透しないので、機能は劣る。

 これは、何を意味しているだろうか。

 実験は継続中とはいうものの、杉材はケボニー化処理に非常に適した木材である可能性が高いのである。

 

 ここから未来図を描くと、世界的に資源枯渇が問題となっているハードウッド(広葉樹材)の代わりとして、ケボニー化杉の需要が期待できるだろう。杉の蓄積は十分にあるから、資源量の心配はない。

 すでにハードウッドの代用品として出回っているWPC(木材プラスチック複合材)の生産量は年間100万立方メートルに達するが、それに取って代われる可能性が見えてくる。

 しかも使用する薬剤は天然物質由来だから環境に優しい。見た目も触感も天然木と遜色なく美しい。

 そしてもう一つ重要なのは、広葉樹材なみ・WPCなみと考えると高価格で取引されるため、原材料である杉の原木も高く買い取れることだ。価格下落で泣かされている日本の林業現場にとって一筋の光明となるだろう。

 もちろん長期的な性能の確認や、杉材に最適なケボニー化処理のノウハウの確立など今後の研究が待たれる面もまだ多いが、日本の林業界を大きく変える力になりうる。価格下落を量でおぎなう発想から材の質を高めて高利益を確保する方向に向うことで、日本の山にも世界の森にも貢献できる可能性に夢を見たい。