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開校続々! 林業の学校がつくられるわけ

田中淳夫森林ジャーナリスト
大学校で林業機械の操縦を学ぶカリキュラム

小中高等学校の統合、短大や大学の閉校……若年人口の減少が続く日本では、学校も縮小されていくニュースが飛び交う。

しかし、ここ数年開校ラッシュが続く学校があることをご存じだろうか。

それは林業系のスクールだ。全国各地で実践的な林業を教える大学校が相次いで開校しているのだ。今年は徳島県と大分県、来春には兵庫県、和歌山県、岩手県にオープンし、19校(農林大学校なども含む)になる。さらに設立に向けて準備を進めている自治体がいくつかあるから、もっと増えるだろう。

林業の教育機関も、つい最近まで減少が続いていた。かつて全国にあった林業高校はほとんど姿を消し、大学の林学科も森林科学科などに名前を変えて学ぶ内容も林業から遠ざかりつつある。そして林業大学校もどんどん閉鎖されていた。一時期は長野県と岐阜県だけになっていたのである。

ところか2012年に京都府立林業大学校が新たに開校した。

これが火をつけた?のか、4年後に秋田県と高知県でもオープンし、山形県でも農業大学校に林業コースが新設される。名前も林業大学校、農林大学校に限らず、森林文化アカデミー、林業アカデミー、森林大学校、林業スクール……とさまざま。また専修学校の認可を取ったところばかりではなく、自治体の農林部署の管轄や社団法人の運営などさまざまだ。

内容も全日1年制、2年制のほか数カ月の短期コース、また社会人向けに開講したところもある。人数も1コースが10人~20人と少数なのが普通だ。

学ぶのは、伐採や搬出など現場作業はもちろん、森林科学や経営学、木材加工、マーケティング、流通、IT技術、さらに獣害対策まで学校によって幅広い。国内の林業地だけでなく海外まで視察旅行に行くケースもあった。

全国に林業スクールが誕生する背景には、林業界の深刻な人手不足がある。林業従事者は5万人台まで減少し、うち65歳以上が2割を超える。

一方で林業を成長産業に、という国の掛け声は強い。国が国産合板やバイオマス発電を進めたため、どんどん木を伐り出す必要があるようになった。しかも機械化や低コスト化が求められるが、高齢化した人材では十分に対応できない。現場で鍛えるのは時間もかかるし、そもそも十分な教育システムがない。技術の伝承が行われないだけでなく、機械化に対応した安全教育が付いていかない。

国や自治体の行う短期間の研修事業では限界がある。そこでしっかりした教育機関をつくろうという潜在的な要求があったのだ。

もっとも疑問もある。

林業に興味がある若い世代がそんなにいるだろうか。開校ラッシュが、生徒の取り合いになったのでは意味がない。あるいは生徒の頭数だけ揃えても仕方ない。

また林業現場は人手不足ではあるが、十分に利益の出ている事業体は少ない。木材価格の下落が続いているからだ。

それゆえか林業大学校生や卒業生に話を聞くと、実際には待遇が悪すぎて就職に躊躇するという。単に給与が低いだけにとどまらず、日当払いだったり、保険加入が行われない、道具類は自前で揃えることを求められたという話も聞いた。また肝心の先輩・上司が、学校で教わった安全教育をまったく無視することもあるそうだ。雇用形態や雇用者の意識が旧態依然としているのだ。

それに現在の林業大学校が養成しようとしているのは、主に伐採現場のワーカーだ。伐採と搬出技術を身につけさせて即戦力をめざす。しかし、林業とは森づくりが出発点である。木を植えて何十年何百年先の国土をデザインするのだ。そんな森づくりに関わる技術や理論、そしてマネジメントも大切だろう。そのための講師陣とカリキュラムは、十分に配慮されているだろうか。

どうせ林業の学校を設立するのなら、林業界が求める担い手養成だけでなく、林業に夢を感じる人々に応えた学校になってほしい。新卒の若者に限らず、現在すでに林業界に席を置く人々が、新たな林業を学び直す場にもなればと期待する。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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