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スウェーデンもびっくり?「持続可能な森林」に逆行する違法伐採対策法案

田中淳夫森林ジャーナリスト
スウェーデン大使館主催の森林セミナー

3月中旬、スウェーデン大使館主催で「Tresures of the Forest ~森のタカラ、未来のチカラ~」という森林関連イベントが1週間続けて開かれた。

内容は、木造建築からバイオマスエネルギー、セルロースナノファイバー、そしてインテリアデザインに至るまで多岐にわたり、最後には日・スウェーデン両者12人による統括的なハイレベルセミナーも開かれた。そのテーマは「持続可能な森林」である。

私も招待されていたのだが、いろいろ考えさせられること大であった。

が、今回は最終日のセミナーのテーマである「森林の持続可能な利用」について触れたい。

スウェーデンもかつて森林を荒廃させたと語る
スウェーデンもかつて森林を荒廃させたと語る

森を利用した産業が盛んなスウェーデンは、森林を十分に保全しなければ産業が持続しないことも身に沁みている。

スウェーデンでも20世紀初頭までは、過剰伐採が進み森林は荒れていたそうである。しかし、その後多くの手立てで伐採量の制限と伐採後の植林義務化を進めた。またFSC(森林管理協議会)の森林認証制度を非常に重視しているようだった。出席したイケアやテトラパックなどの木材を消費する企業も、いかに森林保全に力を尽くしているかが語られた。

ところが、そのセミナーの最中になんとも情けない情報がもたらされたのである。

日本の違法木材対策に関する法案に関してだ。

世界では年間1300万ヘクタールもの森林が減少していると言われるが、その原因に違法伐採が大きく関わっている。いくら木材生産国が厳しく伐採制限などを法令で定めても、違法伐採が横行して木材が消費される限り、森林保全は進まない。だから森林を持続していくためには、木材生産側の規制だけでなく、木材を消費する国が違法伐採された木材・木材製品等の流通を規制することが重要なのだ。それは消費国にとってもプラスになる。

この件に関して、私は以前に以下のように記した。

日本林業復活の秘策は、違法木材対策にあり!

またブログにもアメリカの違法木材対策の状況を記した。

アメリカでは疑いのある木材を輸入しただけで、その企業は罰則を受ける改正レイシー法が成立した。ここ数年の間に、EUは木材規則を施行、オーストラリアも違法伐採禁止法……というように主要な木材消費国が次々と違法伐採木材の取引を禁じる法制度を導入している。

だが、日本はいまだに法的な規制がなく、輸入する木材の1割以上が違法伐採されたものだと推定されている。

そこで自民党が中心となって違法木材対策の法案づくりが昨年より行われていた。

ところが、土壇場で法案が骨抜きになったというのだ。

まず違法木材を輸入しないという宣言自体を行わないという。

しかも原案にあった罰則規定がなくなり、努力義務になった。

ようするに違法木材を取り締まる気はないということではないか。「骨抜きというより骨なし」(違法伐採対策に関わっているNPO関係者)とうなるのも仕方がない。

違法木材を規制することは、日本の林業界にとっても材価を上げる効果が見込まれプラスのはず。困るのは違法木材を利用している木材業界だろうが、自民党は森を見ずに木材業界に眼を向けているということなのだろう。

それにしてもスウェーデンが高らかに「森林の持続可能な利用」を宣言している最中に、こんな話を聞かされるとは……。

セミナーの最後を締めくくる言葉「林業、木造建築、イノベーションの分野で、日本とスウェーデンの官民にわたる一層の関係強化」とは何なのだろうか。

最後の望みは国会の審議だが、果たして今の野党の力で多少とも修正して押し戻すことができるのかどうか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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