森の妖精ムッレを知っていますか

森のムッレ教室は、5、6歳児のための環境教育

夏。アウトドアをめざす子供たちがどっと増える季節だ。海に山にキャンプにバーベキュー。いくら猛暑、酷暑と言われても、夏はやっぱり野外に出て、自然と触れ合いたい。

だから各地でアウトドアイベントが催されている。子供を対象にした野外活動や自然と触れ合うイベントも多い。また日常的には森林セラピーとか森のようちえんと呼ばれる自然の中で行う活動も広がってきた。

では、5~6歳の子供たちを対象にした「森のムッレ教室」を知っているだろうか。ここ20年ほどで、急速に広がったスウェーデンから来た幼児教育である。

今やスウェーデンでは全国の保育園で実施されているだけでなく、フィンランドやノルウェー、ラトビア、ロシア、ドイツ、イギリス、ヨルダン、そして日本に韓国…と全世界に広がっている。年間何十万人が参加しているのだ。日本では、日本野外生活推進協会(通称・森のムッレ協会)が紹介し、リーダー養成などに熱心に取り組んできた。

そこでひと味ちがう、子ども向け野外活動「森のムッレ教室」を紹介しよう。

まずムッレというのは森の妖精の名前である。もともと土壌を意味するスウェーデン語・ムッレンから作られたそうだが、妖精が、子供たちに自然界の仕組みを教える、という筋立てなのだ。

そう、この教室は、単に自然と触れ合うとか、子供たちを楽しませるだけではなく、自然界の循環する生態系を教える環境教育であり、自然を守る人材育成を目的に行われるものなのである。

重要なのはこの年齢なのだそうだ。5、6歳児というのは、現実とファンタジーが区別なく同居できる世代なのだからだという。おかげで妖精ムッレが現れても、違和感なく受け入れてくれる。ムッレは、衣装を着て変装した大人やパペット人形として登場するが、もっと小さな年代だとムッレを怖がりかねないし、上の年齢になると「妖精なんかいない」「これは大人の変装だ」とネタバラしする子供も現れるから難しくなる。

具体的な教室では、まずリーダーが幼児を連れて野外に出かける。それは雨や雪が降ってもかまわないそうだ。基本は子供たちには自由に振る舞わせるが、時折、草花や昆虫に眼を向けるよう誘導し、自然界の多様性に気づかせる。さらに調べたり、なぜ?なに?を考えるきっかけを与える。そんな中にムッレが現れて、自然界の掟を教えるのである。

もちろん難しいことを話してもダメで、子供たちに理解できるような教え方が必要だ。そのために、すでに長い歴史を持つスウェーデンで開発された教本やエコロジーを学ぶゲームや歌、遊びなどがある。特別リーダーが動植物に詳しい知識を持たねばならないわけでなく、あくまで「気づき」を与えるものなのだ。

こうした内容の説明を聞いて、非常に合点がいったのは「人は自然と触れ合うだけでは自然を理解したとは言えない」ということだ。

自然と触れ合うことは重要だが、それは初期段階。次の段階で、自然界の仕組みとそれぞれの関連性を学ばないと、自然の重要性を認識して、大切にしようと思いにくい。

たとえば、自然いっぱいの田舎で、それこそ日々自然の中で遊んだ子供たちが大きくなると、会社に勤めたり役人になったり、ときには政治家になる。すると、躊躇なく川をコンクリート3面張りにし、山にごみを捨て、森を伐り開いて人工的な空間を作りたがる例が少なくない。子供の頃の体験が、大人になった現在と必ずしもリンクしないのだ。

彼らは、何も自然を憎んでいるわけではなく、自然の岸をコンクリートで固めたら、水は浄化されず魚や昆虫の棲家を奪うことに十分な想像が働かないのだろう。結果的に、人々の生活まで影響すると気づかない。それよりも目先の仕事を遂行することを優先する。

もし子供の頃に自然界の循環について気づておけば、大人になってからの自然との関わり方が変わるかもしれない……。実際に、そうした調査研究の結果を報告している教育学者もいる。

……いかがだろうか。子供たちに「自然と触れ合う」経験をさせるだけでなく、もう一歩進んだ自然との関わり方を身につけられるようにしてみたら。日本にも多くの野外活動はあるが、十分に環境保全について踏み込んだものはまだまだ少ない。

日本の森にも、日本のムッレはいるはずである。