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日本に人工林はどれだけ必要か

田中淳夫森林ジャーナリスト
植林された伐採跡地。伐ったら植えねばならない……が。

近頃、テレビなどで日本の林業がよく取り上げられる。「隠れた日本の宝の山」とか「林業を成長産業に」など期待をこめて語られる。

日本の森林面積は約2500万ヘクタール。しかもその4割の約1000万ヘクタールが人工林なのである。これだけの森林が成熟し、木材資源が豊富になったことが、上記の林業への注目を集める一因だ。

これまで日陰者扱いで、衰退産業という目で見られていた林業に注目が集まるのは嬉しい。しかし、1000万ヘクタールの人工林は、今後どうすべきなのか。単に木が育ったから伐採して使おう、だけではなく、将来の森林の姿を考えながら利用しないと、結果的に国土を荒らしてしまいかねない。

まず、木材需要は年々減少していることは知っているだろうか。

1973年に1億1758万立方メートルを記録した木材需要は、年々減少して2012年は7063万立方メートル。ここには製紙原料が4割以上含んでいるが、製材は2605万、合板が1029万立方メートルだ。

これはある意味当たり前で、日本は人口減社会に入り、高齢化が進んでいる。若年層が減れば、木材需要の中核である住宅建築も減少する。しかもコンクリートや鉄骨、合成樹脂など非木材建材も多く出回っているのだ。おそらく今後も全般的な傾向としては減少し続けるだろう。

一方で国産材の供給については、1967年の5274万立方メートルがピークだったが、2012年は1969万立方メートルだった。この数字は、2002年を底に、多少持ち直したものだ。今後、伐期が来たことで伐採が増えるだろうから、増加していくだろう。

では、現在の人工林で、理論的にどれほどの木材を生産できるだろうか。

森林総合研究所の『森林・林業・木材産業の将来予測』によると、人工林の年間生長量は約7840万立方メートルと計算している。別の調査データに基づくと、年間8661万立方メートル増加しているとする。これは人工林だけだから、天然林の増加はさらに加わる。

もちろん生長量を全部伐採することは不可能だし危険だが、森林の持続性を守っても年間6000万立方メートル程度の生産は可能だとしている。つまり木材自給率を100%に近づけることは不可能ではない。とくに製材や合板用の原材料を全部国産材に切り替えても、日本の森林で成長し続ける分を使い切れないと思われる。

では、逆に必要な木材を生産するのに必要な人工林面積は、どれくらいだろうか。

将来的には製材・合板用なら年間3000万立方メートルあれば余るはずだ。それだけの木材生産に必要な面積を割りだすと、500万ヘクタールで十分なのである。つまり、現在の約半分だ。日本が木材を輸出することを想定しても、現在の1000万ヘクタールは必要ないだろう。

政府は盛んに木材生産を推進しているから、今後、伐採跡地の再造林が課題として上がってくるはずだ。もちろん造林はしなければならない。放置しても森林化が進むとは限らず、さもないと禿山は土砂災害の危険を増す。もちろんCO2の吸収や生物多様性の維持にとっても悪影響があるだろう。

しかし、これまでのスギやヒノキ、マツ……などの木材生産樹種ばかりを再び植樹しても、将来持て余すのは目に見えている。単に苗を植えるだけでは育たない。その後の下刈りも必要だし、最近は獣害がひどくて植えても食われるばかりだ。そもそも造林コストが高すぎて進まないのが現実だ。

かといって広葉樹の植林技術は確立されておらず心もとない。思いつきで広葉樹の苗を植えても、多くは枯死するだけで荒れ果てた山になるだろう。

早急に新たな造林技術の開発を行うとともに、日本の森の新しいグランドデザインを考えねばならないのではないか。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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