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世界の農地や森林は余っている?

田中淳夫森林ジャーナリスト

世界の人口は爆発的に増えているとされる。とくに発展途上国では出生率が高く、一方で医療の普及で幼児死亡率が下がり気味だから人口増が続いているとか。そして、先進国が途上国の農地を買いあさっている……そんなニュースを新聞や雑誌で見かけるようになった。他国で自国用の食料生産を行うためだそうだ。これをランドラッシュという。

だが、どうも違和感がある。そんなに先進国は、食料不足だろうか。貿易ではなく農地を取得する必要がなるのか? そして人口増はどこまで続くのか?

そんなところに、まったく別の情報を目にした。実は、世界の農地は余っている、というのだ。日本では耕作放棄地の増加が問題になっているが、これは地方の過疎化が原因だ。ところが世界でも同じく休耕地が増えているのだ。今ある農地は約15億ヘクタールだが、そのうち休耕地が3億ヘクタールに達しているらしい。日本の休耕地は約40万ヘクタールだから、その750倍の農地が耕作されずに打ち捨てられている計算になる。

休耕地は先進国だけでなく途上国にも広がっている。農地を捨てて都会に移り住む人々が増えている。あるいは農業より儲かる仕事に転身するという状況が引き起こしているらしい。しかし、飢えているのなら、そんなことはしないだろう。どうも耕作放棄の理屈に合わない。むしろ農産物が余っているからという説があった。だから耕作の不利な農地は捨てられるのである。

なお、穀物生産量は現在約22億トン。ところが、食用は半分にすぎない。つまり残りは飼料用だ。本当に食料危機なら、これらを人間に回せば済む。それどころか耕地の6割で穀物を生産すれば、60億トンは可能とされている。すると人間も家畜も飢えることはない計算になる。

結局、現在の農地の奪い合いは、「条件のよい農地」を奪い合っているだけにすぎないのかもしれない。

食料を投資商品と考えると、コストと引き合う農地を求めることになる。食べるものを得る場として考えると、儲からなくても自分の農地は耕す。そこで幾ばくかの食料を生産すれば飢えることはない。

結局、飢餓は食料不足が引き起こすのではなく、必要な人々の手元に届かない流通の問題だということになる。もちろん食料を輸入できない経済的な理由もあるだろうが、同時に政治的な貿易障害や、いびつな流通で出るロスなども大きいだろう。

それは木材においても同じことがいえる。世界中で森林が減少していると報告されている。その大半は木材を得るために伐採するためと、森林のある土地を別の用途に転換するためだ。

しかし、先進国では森林面積は拡大気味であることに気づいているだろうか。日本はそのモデルの一つであり、近年は中国が森林面積を猛烈に増やしている。またヨーロッパや韓国、台湾も増加傾向だ。経済発展すると、森林保全の意識が高まるとともに森林造成の意欲が進むのである。これを森林資源のU字型仮説といい、必ずしも森林は減り続けるわけではないらしい。

木材も、なぜ足りなくなっているのかよく考えてみる必要がある。

改めて振り返ると、森林のある土地を得るために伐採して打ち捨てられる木材がどれほどあることか。さらに有効に利用されずに捨てられたり無駄な使い方される量も莫大にある。素材として大事に加工して使い、それが古くなったら別のものにリサイクルし、最後に熱エネルギーとして役立てる……というカスケード利用にならず、いきなり燃やして効率の悪い発電に使うケースも増えている。

そして人口も、必ずしも増え続けるというわけではないらしい。

一昨年公表された国連の2100年までの世界全体の人口推計によると、爆発的に増えてきた地球上の人口は、今世紀中にほぼ横ばいになる可能性を記している。それどころか条件によっては2040年ごろから減少に転じるかもしれないというのだ。実際、21世紀中に人口のピークを迎え、その後は下降すると考える学者は多い。

その理由は、乳児死亡率が下がると出生率も下がるからだそうだ。発展途上国でも、経済が好転することで少しずつ少子化は進展していたのである。そして高齢化も起きる。

もちろん、人口や農地、森林面積などの推移は「可能性」であり、仮説が完全に正しいと言い切れるものではない。

また食料危機や森林減少は経済問題だから放っておいても大丈夫だというのでもない。飢餓は今も起きている。木材調達のために森林伐採は続いている。しかし、それらの原因を厳密に捉えて、対処法を考えねばなるまい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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