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激変!2013年の「割り箸はもったいない?」

田中淳夫森林ジャーナリスト
北海道で作られた割り箸。「森を育む」を全面に出す。

6年前に『割り箸はもったいない?』という本を出版した。割り箸の誕生から現在までを歴史的に追い、感情的な排除論を抑えて、割り箸が森林環境へ与える影響を客観的に検証したものだ。そして割り箸が林業や地域経済に果たす役割を示した。

おかげさまで評判を呼び、多少は割り箸を巡る論争に波紋を投げかけられたかと思う。また拙著を元に割り箸について語る人も増えてきた。実に有り難いことだ。

しかし、出版して6年も経つと、割り箸を巡る事情は大きく変わった。だから、拙著の情報をそのまま引用されると不都合もある。そこで、重要な変化した点をいくつか指摘しておきたい。

まず大きく変わったのは、割り箸の消費量だ。拙著の執筆時(2006年)で得られた2005年の割り箸需要量は、250億~255億膳だった。うち国産は5億膳程度と推計した。

ところが、その後の割り箸需給の統計を見ると、2005年はピークだったことがわかる。最終統計によると、259億5000万膳に達していた。内訳は、輸入量が約254億600億膳。そのうち国産は5億4500万膳。

2006年は250億膳だった。ところが07年は231億7000万膳に激減している。つまり出版した年の割り箸需要は、すでに減少局面に入っていたのである。そして2008年には約227億膳、09年は約193億膳。2010年は約185億膳。11年は少し増えて約195億膳。うち国産は6億膳程度だろう。

それにしても、わずか数年で消費量の5分の1が失われるというのは、驚くべきことだ。

なぜ割り箸需要が減少したのか。

一つは不況で外食が減ったという事情がある。だが大きな要因は、中国が輸出を渋り値上げを求めてきたことだ。それが日本の外食産業に大きな影響を与えた。割り箸の供給が不安定になると、外食店は脅威だ。価格が暴騰しても、経営に響く。

それに対して外食業界の各社が採用した方策は、塗り箸への転換ではなく、プラスチックの箸、通称・樹脂箸の採用だった。言い換えると、割り箸不足をビジネスチャンスと捉えて売り込んだのは、プラスチック業界だった。

塗り箸は、食器洗い機などに弱かった。熱湯や熱風乾燥に弱く、塗りが剥げる可能性があるからだ。その点、樹脂箸なら心配は少ない。また業界が研究熱心で、次々と機能やデザイン面で工夫した新商品を発売してきた。

原料は、SPS(シンジオタクチック)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、そしてPBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂などである。SPSは耐久性が強いとか、PPSやPBTは耐熱性があるなど、それぞれ特性がある。焼き肉などの際に火に触れてもすぐに溶けないとか、麺類用に先の部分を滑りにくいよう加工した品もある。

こうした箸の登場が、外食産業の現場で一斉に割り箸から樹脂箸への転換をうながす。居酒屋や牛丼、ラーメン、ウドンなどの和食系チェーンは、一社で数百店舗を展開し、年間1億膳2億膳以上の割り箸を使っていたところもあった。それらが樹脂箸に切り換えたため、割り箸消費量は急激に落ち込んだのだ。

一方で、中国産割り箸は、輸入量こそ減ったが止まっていない。中国からの割り箸輸入量は、2009年には178億膳と、依然と全体の9割以上を占めている。

中国産以外では、ロシア産とベトナム産が増加中。ロシア産が09年に4億3000万膳、ベトナム産も3億8000万膳に。また、アメリカやカナダでも日本向けに生産を始めたという。

なお中国産割り箸も、材料がすべて中国産というわけではない。むしろロシアやモンゴルの木材を使っているケースが増えている。樹種はシラカバやアスペン、そしてトドマツである。原木だけでなく現地で板状に加工してから中国に送り、最終的な割り箸に加工するのが一般的だ。ロシアからベトナムに送って、そこで完成品にして輸出するというルートもあるそうだ。ベトナムには箸文化があるし、人件費は中国より安いからだろうか。

一方で、竹割り箸も増加している。これまでは中国南部で生産していたが、近年は6割がベトナム製になった。2011年の輸入量は約37億膳と、輸入割り箸の2割を占める。ただし竹製は大量生産に向いていず、人件費の高いところでは難しい。また、すぐにカビが発生するので防カビ剤が使われている。

中国の新たな動向としては、国内の割り箸消費が爆発的に増えたことがある。報道によると、中国の割り箸生産量は年間570億膳の割り箸だが、その約半分が国内用だという。輸出は日本以外に韓国や台湾、そして世界各国の日本料理店などにも出される。つまり輸出より国内消費が主流になってきたのだ。経済発展が続き、富裕層が増えるとともに衛生観念が発達してきて、割り箸を好む市民も増えてきたのだ。

なお輸入割り箸の値段は基本的に上がったが、ダンピング合戦もあるため、小売店の価格は以前と変わっていないという。卸価格で1膳80銭というケースもあるらしい。残念ながら、国産割り箸が太刀打ちできる価格ではない。

国産割り箸の生産は、若干増えている。国産の生産量は、2008年が5億9600万膳、09年が6億1000万膳とわずかながら上向いた。もちろん全体からすると微々たる量だが、長年減少が続いていた中では新たな傾向だ。新規に国産割り箸づくりに参入するケースが出てきたからだろう。

一つは、樹恩ネットワーク。大学生協の経営する食堂に納品する目的で、授産施設を利用して生産している。それが新たな割り箸工場の新設を進めたのだ。徳島と埼玉に続き、広島、群馬、福島、茨城、東京など提携施設が増えた。ただ障害者が作業を行うため、生産量は工場の数ほど増えていない。それに製造した割り箸は、基本的に大学生協に引き取られるので、新規受注に応えづらい。

目立つのは、福島県だ。まず地元の建設会社が奥会津エコリード株式会社を設立して参入した。いわき市にも株式会社磐城高箸も誕生した。そして樹恩ネットワークの製箸所もある。設立はいずれも震災前だが、主に地元産の木材を使って割り箸生産を続けている。

とくに磐城高箸は「三県復興 希望のかけ箸」という名の商品(岩手、宮城、福島のスギ材を使用。売上の一部を被災地に寄付)を開発し、平成23年度の全国間伐・間伐材利用コンクールで間伐推進中央協議会会長賞を受賞した。

そのほか静岡県や香川県、岡山県、岐阜県などでも割り箸生産が再開・新たに始めるなど、各地に動きが相次いでいる。

ところで割り箸生産の最大手は、金沢の中本製箸である。製造法も独自に開発し、年間二億膳以上の生産を誇る。また地元の木材で割り箸を作りたいという希望に対して生産依頼も受け付けている。たとえば山梨県の森林認証FSCを取得した木材による割り箸や、岐阜県郡上市の割り箸プロジェクトの依託も受けて生産している。

一方、国産割り箸の生産ではなく販売に尽力する企業も登場してきた。

株式会社ハートツリーは、ナチュラルローソンで使われる割り箸を国産割り箸に変えさせることに成功する。その量は初年度で700万膳にも達している。

大阪の住宅販売・企画会社ライフワークス株式会社も、アドバシを取り入れて「食卓エンタ事業」を始めた。「割り箸一膳の革命」を謳い、箸袋に広告スペースをデザインして販売するものだ。そしてジャパン・フォーレスト株式会社として独立した。

ワリバシカンパニーという会社も登場した。全国各地で割り箸を生産する計画を進めており、「和Re箸」という言葉を掲げて、岡山県西粟倉村と岐阜県高山市の飛騨製箸に割り箸を生産を依託し始めた。ここでは使用済み割り箸を回収しておが屑にして畜産用敷き藁-堆肥へと循環させる計画も進めている。

ところで、繰り返し使える樹脂箸は、本当に割り箸よりコスト面で有利なのだろうか。

それについては樹脂箸を導入した外食チェーンのデータがある。

初期投資として、樹脂箸や洗浄機器などを購入し、ランニングコストは洗浄にかかる人件費、洗剤代、水道代。そこに包装資材費、その他備品、減価償却費(2年)で計算した。モデル店舗で計算したところ、樹脂箸の原価は2円だが、洗浄等を含めた1膳の単価は3,32円となった。これは、この会社が以前使っていた中国製割り箸の価格を大きく上回る。 

外食業界のなかには、割り箸にもどしたい意向があるそうだ。一度はブームに乗るように割り箸を樹脂箸に入れ換えたが、実際にはさほど経費節減にもならないし、従業員の労働量は洗浄などで増えるからだ。ただ「地球環境のため」を振りかざして樹脂箸を導入した手前、また中国産にもどしにくい。そこで国産割り箸を検討しているという。なかには自前の割り箸工場を建てる構想を持つ外食チェーンもある。

ちなみにプラスチック業界にとって、樹脂箸はさほど魅力的な商品ではなかったようだ。最初の注文を受けると、次は2年以上注文がなくなるからだ。耐久性がありすぎるため、意外と売れないのである。そのため撤退の動きもある。

いずれにしても、割り箸を巡る状況は大きく変化した。単純に割り箸は森を守っているのか破壊しているか、という論争は意味を持たなくなってきた。

それにしても、なぜ私は割り箸にこだわるのか? また世間も、割り箸には森林以上に関心を持つのか。

かつて「森を守れ」という声が盛り上がると、森林が危機→木を伐りすぎ→木材を使いすぎ→身近な木材商品を使わない→割り箸を使わない、という連想が働いたのだろう。

しかし、木を使わなければ森林を守れる、という短絡思考は気持ち悪い。複雑な物事の関わりを考えなくなる。割り箸の材料や作り方、作る人々に思いを馳せず、単純に良いか悪いかだけの二元対立に陥る。

割り箸は、もっとも消費者に近い木材である。町の暮らしは、意外と木材を直に触れる機会が少ない。木造の建物も、表面はクロスに覆われているし、木製家具も塗料や樹脂に覆われている。紙のような原材料が木である品は多いが、直接木肌に触れるものではない。その点、割り箸は間違いなく素の木肌に触れることができる。割り箸は、木を日常的に感じられるアイテムなのだ。それだけに、割り箸が身の回りからなくなったら、本物の木を目にして触れるチャンスはずっと少なくなるだろう。

本物の木を知らない人間は、本物の自然を大切だと心から思えるだろうか。たかが割り箸だが、その1膳は自然と触れ合う一歩かもしれない。だからこそ割り箸には、林業への偏見、ひいては短絡思考を打ち破るアイテムになってほしいと思う。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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