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『情熱大陸』がジャルジャルの実態をつかみ損ねる、「裏側NG」だからこそ見えたコンビの信念とおもしろさ

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

ドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系)の11月20日放送回にお笑いコンビ、ジャルジャルが登場した。

同回では、コントをひたすら生み出し、ライブやYouTubeで披露し続けるジャルジャルの舞台裏に迫ろうとしていた。そして番組側は、ふたりがネタ作りをしている様子を撮りたいと何度か打診。彼らの笑いの裏側をカメラにおさめることができれば、間違いなくそれがハイライトになっただろう。だが、後藤淳平、福徳秀介は「見せられない」と首を縦に振ることは最後までなかった。

後藤淳平「カメラが入ると、そういう設定のコントになる」

『情熱大陸』は、ジャルジャルの実態をつかみ損ねた。

後藤淳平の「(ネタ作りの場にカメラが入ってしまうと)そういう設定のコントになる」というコメントが、自分たちの裏側は見せないという姿勢のあらわれとなっていた。福徳秀介も、コントのネタ収録現場を撮影するスタッフに対して「数々の取材、全部ここ断ってきたんですよ。『情熱大陸』やからOKみたいな」と語っていた。そして、それ以上の番組の追求に関してはやんわりとすりぬけていった。

だが、実態をつかみ損ねたからこそ、ジャルジャルというコンビの信念を感じることができた。コント師としての揺るぎなさや、良い意味での頑なさが伝わってきた。裏側を見せないからこそ、彼らのネタはいつもフラットな目線で楽しめ、予想外の展開に目いっぱい驚かされるのだろう。

野球未経験の後藤淳平がイチローのバッティングフォームを真似する姿

番組内には、「ネタ作りの様子を見せない理由」について考察させる行動や言葉がちりばめられていた。特に目を引いたのが、後藤淳平がついつい、元野球選手のイチローのバッティングフォームを真似してしまうところだ。

NPB、MLBの両方で数々の記録を打ち立てたレジェンドプレイヤーであるイチローは、かつてこのような言葉を口にしていた。「どんな難しいプレーも当然のようにやってのける。これがプロであり、僕はそれにともなう努力を人に見せるつもりはない」。野球未経験なのにイチローのバッティングについて解説する後藤淳平を観て、その名言が頭をよぎった。イチローもまた、裏側をオープンにすることはほとんどなかったのだ。

たとえばジャルジャルが、異国の地であるスコットランドに渡って、普段とは違う言語を使いながら、お客から募ったお題を組み合わせて即興コントに挑んでいた場面。ふたりはそこで、派手な感情を見せることはなかった。お笑い芸人として、どんな場所であっても観客を笑わせるのが当然の仕事だという雰囲気だったのだ。同場面では、ジャルジャルの「プロ」としての態度を目撃できたように思えた。

裏側にスポットライトをあてさせない、ジャルジャルとイチロー。偶然だったかもしれないが、後藤淳平がイチローのバッティングフォームをついつい真似してしまうのもどこか納得できる(もちろんその姿を撮って放送した番組のうまさも光っている)。

福徳秀介「子作りと一緒なんで。見られていたらできないんです」

裏側では、ジャルジャルは血が滲むような稽古をしているのかもしれない。逆に、まったくなにもしていないのかもしれない。

近年『M-1グランプリ』など大きな賞レースが開催された際、出場した芸人の裏側を追った密着ドキュメンタリーもあわせて放送される。知られざる苦労などから、その芸人のネタの味わいがより深まることがある。しかし今回のジャルジャルの「裏側NG」からは、「見せないことで生まれるおもしろさ」があることをあらためて感じさせた。

後藤淳平は「ネタ作ってますってあまり大きな声で言いたくない」「そこはファンタジーでええやんという感覚」、福徳秀介も「子作りと一緒なんで。子作りは見せられないでしょ。見せられないというか、見られていたらできないんです」「冷めるから。もちろん練習してるけど、見せないことがマナー。お客さんに対して。そっちの方がおもろい」とお互いに徹底的な拒否反応を示した。ただ、それもお笑いの「真理」のひとつである気がした。

ビートルズの楽曲「Two of Us」がBGMで流れた意味

「ネタが完成することはない」という考え方を持っているところも、NG理由のひとつではないか。

福徳秀介は「(ネタが)完璧になったことはない」、後藤淳平も「完成はしないです永遠に。(桂)文枝師匠が言っていました。『同じネタを40年やってもまだ改善点が見つかる』って」と、ジャルジャルのネタはこれからもずっと未完成な状態が続くと言い切った。未完成なものの裏側は、余計にのぞかれたくないのだろう。

番組の演出的にとてもおもしろかったのは、常に未完成=途中経過であるジャルジャルの考え方を「あてのなさ」としてとらえて、ビートルズの名曲「Two of Us」(1969年)であらわした部分だ。

スコットランドでのライブに挑んでいる際、同曲がBGMとして流れた。この曲は、歌詞として「あてもなくさまよい歩く」「君と僕とで日曜のドライブ、でも目的地にはたどり着かない」「どこに行き着くこともない」などと綴られている。ビートルズのメンバーであるポール・マッカートニーが、妻・リンダが幼少期に父親から「迷子になろう」と提案されてドライブに出かけ、自分ともそういうドライブをしていたエピソードをモチーフに書いたものだ。そんな内容の楽曲を、「ネタが完成することはない」と語るジャルジャルになぞらえたことは、とても粋な番組演出だった。

ちなみに「Two of Us」のメッセージである「あてのない旅のおもしろさ」は、ジャルジャルが最後に番組側から「『情熱大陸』をお題に即興コントを作って欲しい」というリクエストにこたえて披露したネタにも重なった。情熱大陸を探し続ける福徳秀介。だが、全然違う場所ばかりに行き着いてしまう。結局、最後まで情熱大陸を見つけることはできなかったのだ。

かまいたち・山内「ジャルさんは昔からふたりだけで生きている」

そういったジャルジャルの姿から伝わってきたのは、やはりストイックさだろう。

筆者は2022年6月、かまいたちの山内健司をインタビューした(※参照)。そのとき、ジャルジャルの話題になった。山内は「ジャルさんは昔からふたりだけで生きている。一匹狼的な感じで、誰とも群れずにやってきた。今はより一匹になっているんじゃないですか。しかもテレビとかに頼るのではなく、ネタオンリーでやっているじゃないですか。とても特殊なコンビだと思います」と比類なき存在であることを語っていた。そうやって誰とも群れないところも、実態のつかめなさに結びつくのかもしれない。

『情熱大陸』はこれまで、取材相手に密着してさまざまな素顔を映し出してきた。そこにおもしろさがあった。しかし実態をつかみ損ねたからこそ相手のおもしろさがより一層ふくらむことを、このジャルジャルの出演回は気づかせた。

※参照:かまいたち・山内が語る、芸人仲間に対して抱いていた本音「頼むから『M-1』で優勝せんとってくれ」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tanabeyuki/20220625-00302421

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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