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映画新人賞を多数受賞、奥平大兼の役作りのコツは「親のキャラクターを軸に考える」

田辺ユウキ芸能ライター
写真:筆者撮影

俳優デビューとなった映画『MOTHER マザー』(2020年)で、第44回日本アカデミー賞新人賞など数々の新人賞に輝いた奥平大兼。そんな彼が映画『マイスモールランド』で演じたのが、主人公である日本育ちのクルド人・サーリャ(嵐莉菜)を支える男子高校生・聡太。同作では、サーリャの家族が直面する難民問題について、一緒に苦悩する姿を好演している。今回はそんな奥平に、役へのアプローチなどについて話を訊いた。

「子どもの無力さみたいなものがあって、もどかしい」

(C)2022「マイスモールランド」製作委員会
(C)2022「マイスモールランド」製作委員会

――奥平さんが演じた聡太は、サーリャと一緒に生きたいと願いながら、まだ高校生とあってさまざまな壁に阻まれますね。

この映画に登場する大人たちは、現実をちゃんと見ていて、聡太の考え方が決して簡単なものではないことを教えてくれますよね。たしかにサーリャや聡太って子どもならではの純粋さがあって美しく見えるし、大人の方が冷たく映るかもしれないけど、決してそういうわけじゃない。特に聡太にとっては、お母さん(池脇千鶴)の存在が大きい。自分がもし親の立場であれば、難民問題に直面するサーリャのことばかり考えている聡太を心配するのは当たり前ですよね。

――そう、大人たちの考えることも理解できるんですよね。

すごく理解できる。だからこそ、そこが難しいところでもある。サーリャの家族がかかえる難民問題も、聡太個人でできることは相当少ないですから。なにより、サーリャとの恋愛とふたりの未来についても考えさせられる。結局、そこには子どもの無力さみたいなものがあるので、すごくもどかしいですよね。

――なんとかしたいけど、なにをどうすれば良い方向へ行くのか分からないという。

ただ、どんなことでもまず知ることが大事だと思うんです。僕自身であれば、今回のお芝居や作品を通じていろんな方々に難民問題を知ってもらうきっかけになってほしい。もちろん自分も、初めて知ったことがたくさんありましたから。川和田恵真監督も「まず知ってもらうことが大事。無関心から関心になってもらいたい」とおっしゃっているのですが、まさにその通りだなって。

長澤まさみが母親役をつとめた『MOTHER』で得た気づき

写真:筆者撮影
写真:筆者撮影

――奥平さんは「この女性キャラクターの息子役」と紹介される人物を演じることが多いですよね。今回の池脇千鶴さんや、映画『MOTHER』では長澤まさみさん、ドラマ『恋する母たち』(2020年)では吉田羊さんなど、錚々たる俳優が奥平さんの母親を演じてきたわけですけど。

素晴らしい俳優さんが自分のお母さんを演じてくださって、いつも「すごい」とびっくりしています(笑)。みなさんのお芝居を拝見していて、誰かの親を演じることの難しさを感じています。特に、子どもに対する愛情表現の仕方。自分はまだそういう立場ではないからですが、それでも「こういう台詞は自分には言えない」と思う場面が多々あります。親の役って役者としての経験はもちろんのこと、ご自身の生き方もあらわれる気がするんです。

――たとえば、親の存在がはっきり分かる役と、作品のなかで親が出てこない役ってあるじゃないですか。そういう設定の違いで演技が変わることはありますか。

そうですね。親の存在がはっきりと出てくる話であれば、自分が演じる役もその親を軸にして考えることが多いです。どういう家庭で育ったのかとか。それでアプローチがかなり変わってきます。それを実感したのが『MOTHER』でした。「長澤まさみさん演じる母親がこういう性格だから、じゃあ自分はきっとこんな対応をするだろうな」とか。逆に『恋する母たち』で吉田羊さんが演じたお母さんって、僕が演じたキャラクターにちゃんと対応してくれないから、こちらも接点が持ちづらくなったりして。演じる上ではそうやって身近な人との関係性から役を作っていきます。

――なるほど。

たとえば学園ものであっても、友だちとのやりとり以上に、家族とどのように過ごしているかをイメージして役を考えることが多いです。

絵を描く場面で反映した人物像

写真:筆者撮影
写真:筆者撮影

――その点では、先ほど奥平さんがおっしゃったように今回は池脇さんが演じた母親の存在が大きいですね。

はじめに台本を読んだとき、「こういうお母さんに育てられたら、聡太は自由な性格になるだろうな」と想像できたんです。それをあらわしたのが、聡太が絵を描くシーン。すごく自由な絵を描いているんです。あと、このお母さんに育てられたのなら、聡太はいろんなことについてあまり気にしすぎない性格だろうなとか。そういう意味でも、お母さんはすごく意識しました。

――そんな聡太が、サーリャとの出会いから何を学んでいくかが作品の見どころですね。

この映画は自分なりにいろいろ考えられるし、また理解を深めることもできる。僕自身は「観る人にどんなことが伝えられるだろう」とチャレンジもできました。今までとはまた違ったお芝居になっているのではないでしょうか。シリアスな内容ですが、演じる上ではそういったおもしろさを掴むことができました。これからも、こうやってじっくり考えさせられる作品にもたくさん出たいです。

映画『マイスモールランド』は全国公開中

配給:バンダイナムコアーツ

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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