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木下百花、25歳を祝う生誕イベントで見せた「ライブの申し子」としての姿

田辺ユウキ芸能ライター
写真:オフィシャル提供

2月6日に誕生日を迎えて25歳となったアーティストの木下百花が同日、大阪・梅田Shangri-Laで生誕ワンマンライブ「生きるとは」を開催した。

筆者は木下をインタビュー(※註1)した関連で、同ライブを鑑賞しに行った。そのライブ内容はあまりに素晴らしいものだった。もともと、このように記事にする予定はなかったのだが、「これは書いておかなければならない」と衝動に駆られたほどだ。

※註1:木下百花、破天荒アイドルからの脱却「人に伝わるものを」(Lmaga.jp)

写真:筆者撮影
写真:筆者撮影

木下百花は優れた演出家である

木下は2017年9月にアイドルグループ・NMB48を卒業し、その後はソロアーティストとして始動。ところが当時は特にやりたいこともなかったことから、「スーパービーイングフリーター」という造語を自称。音楽活動を中心とし、作詞作曲をつとめた数々の楽曲をリリースしている。

木下に対する一般的な印象は、「大胆かつ過激な発言と行動をする人」だろう。喉元に張り付くように刻まれた大きなタトゥーのインパクトから、奇抜な人間性を感じ取る人もいるはず。2021年12月26日にリリースされた楽曲『悪い友達』のミュージックビデオは、木下がディープキスをしている姿などが話題を集め、約140万回再生を記録している。

そういった部分から、木下はトガって見られがちだ。だが実際に取材で話をしてみると、愛嬌にあふれており、笑顔とユーモアを絶やさず、どんなことでも楽しそうにお喋りしてくれる若者だった。

もちろんそこにはソロアーティストとして背負うべき覚悟をきっちり備えている(自身は「責任を負いたくない」と語っていたが)。偏った見られ方をする「木下百花像」についても客観視できている。『悪い友達』のミュージックビデオがバズったのはある意味、狙い通りだったのではないか。刺激的なイメージをうまく生かして数字へと結び付けたのだ。その点では、とても優れた演出家でもある。

そして何より感嘆させられるのが、彼女が生み出す楽曲だ。『悪い友達』では、人間関係の酸いと甘いの両面をブレンドしたような世界観に酔いしれることができる。曲制作にあたり「初めて、たくさんの人に聴いてもらうことを意識した」とのことだが、確かにメロディとワードがキャッチーなので浸透度も高い。

そのほか『えっちなこと』(2021年)や『ダンスナンバー』(2020年)など、ぐいぐいと踊らせる曲が多く、アーバンなセンスも光っている。

全身から音楽を発する「ライブの申し子」

2月6日に開催されたイベント「生きるとは」では、そういった楽曲性を含め、表現者としての偉才ぶりを存分に発揮した。

木下は演奏中のリズムの取り方が格好良い。楽器だけではなく、身体のいたるところから音楽を放っている様子なのだ。また、表情も演奏の一部であるかのように、変幻自在に顔を作っていく。かといって、決しておどけているようには見えない。表情すらも音楽的である。木下のライブを鑑賞していて、「全身音楽家」という言葉が頭に浮かんだ。まさに「ライブの申し子」だ。

MCでは、「アイドルをやっていた10代の頃は思春期真っただ中で、気持ちの面でも反抗的だった」と認め、そのときの自分を「氷河期」と言い表した。前述した過激な木下百花像は、そういった部分も要因としてあるだろう。しかし彼女は、支え続けてくれたファンのおかげで成長できたと感謝する。

象徴的だったのが、観客に向かって「みんな友だちだよ」と言ったところである。インタビュー時「私は友だちが少ない」と語っていた木下だけに、その言葉は決して軽いものではない。心の底からファンを信頼している証しではないか。

2022年ポップミュージックシーンの台風の目

イベントの構成は、木下扮する原始人がギターを手にし、未来へ向かって進化する展開だった。これについて「インタビューで話して、それが載ってしまったから、やるしかなくなっちゃって!」と明かして笑わせた。取材で口にしてしまったことをちゃんと実践する律儀さも、素敵ではないか。

元アイドルのミュージシャンや俳優らは、どれだけ時間が経っても、フィルターをかけて評価されてしまいがちだ。ただ木下のライブを鑑賞すると、そんなバイアスがかかるのはあまりにもったいなく感じる。イベントのラストで披露した後日リリースの新曲『天使になったら』も、『悪い友達』で開花させた打ち込みによる曲調をさらにアッパーに仕上げており、一聴して引き込まれるテクノポップだった。

写真:オフィシャル提供
写真:オフィシャル提供

アンコールを含めて全15曲。ライブは幸福感に満ちあふれ、そのムードの良さからイベント自体の体感速度も非常に速いものがあった。

木下は間違いなく、2022年のポップミュージックシーンの台風の目になるだろう。大規模な音楽フェスで脚光を浴びてもおかしくはない。

生誕祭ワンマンライブ「生きるとは」は2月13日、東京・恵比寿LIQUIDROOMでも実施される。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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