漫才師たちの頂上決戦『M-1グランプリ2021』の決勝進出9組が12月2日に発表された。

2019年大会は「過去最高」と絶賛され、2020年大会は優勝したマヂカルラブリーのネタが「漫才か否か」で議論が巻き起こるなど、『M-1』の盛り上がりは年々ヒートアップ。今年は準決勝進出を賭けたワイルドカード争いもクローズアップされるなど、事前の注目度は一番だったかもしれない。

2021年大会の決勝進出者はインディアンス、真空ジェシカ、モグライダー、ゆにばーす、ロングコートダディ、オズワルド、錦鯉、もも、ランジャタイ。19日の決勝当日におこなわれる敗者復活戦で勝ち上がった1組を加え、計10組から優勝コンビが決定する。

記者会見では、ロングコートダディ・堂前透から「本当にすごいメンツだと思います。週4くらいでお笑いライブ通ってるファンが高熱のときにみる夢みたいな」という秀逸なコメントが飛び出した。

テレビでオンエアされるような大きい賞レースだけ注目する「お笑いファン」が多いなか、今大会は、地下ライブまでチェックしている「ホンモノ」が好みそうな決勝メンバーであることを、堂前の言葉はあらわしている。審査員・松本人志(ダウンタウン)も「なかなかの波乱」とツイートするほどだ。

真空ジェシカ、アンタッチャブル以来の偉業挑戦

乱戦模様の『M-1』決勝進出。そのなかでも筆者が特に注目してほしいコンビが、プロダクション人力舎所属の真空ジェシカである。そこで今回は「真空ジェシカのおもしろさ」について考察していきたい。

まず簡単に同コンビのプロフィールを紹介する。2011年、別々の大学に通う川北茂澄(ボケ担当)とガク(ツッコミ担当)がコンビを結成。同年『第1回漫才を愛する学生芸人No.1決定戦』決勝進出、『大学生M-1グランプリ』準優勝、『キングオブコント』2回戦進出を果たす。

2013年には川北が、大学生ながら『R-1ぐらんぷり』準決勝に進出。その後『AUN~大喜利コンビ王決定戦』(2020年〜2021年)で3連覇、人力舎所属の精鋭が揃った『大久保佳代子杯!人力舎若手芸人大喜利No.1決定戦』(2021年)で優勝するなど事務所イチオシの有望株に。

『M-1グランプリ2021』で優勝を飾れば、2004年大会のアンタッチャブル以来、2組目の人力舎所属の王者となる。

木野まこと、『進撃の巨人』など文系ネタが続々

真空ジェシカはどんなところがおもしろいのか。そのひとつは、漫才のなかに文系ネタ、カルチャーネタがたくさん織り込まれている部分である。映画、音楽、アニメ、マンガなどが好きな人は真空ジェシカにハマりやすい。

『M-1グランプリ2021』1回戦で披露したネタ「個別指導塾」は、先生の名前が『美少女戦士セーラームーン』の登場人物・木野まことと同姓同名で、さらに授業内容は「『進撃の巨人』のエレンが巨人に食べられるところまで読む」というもの。「映画」というネタには新海誠監督や、北野武監督の『菊次郎の夏』(1999年)の話題が飛び出す。「手毬唄」はサブカル村が舞台で、名投手・江夏豊のジャイロ回転する球筋など野球ネタまで放り込んだ。

ほかにも、川北がつかみで「どうも、『オトナ帝国の逆襲』(2001年)のメガネのやつです」と『映画 クレヨンしんちゃん』のキャラクターを持ち出したり、太宰治の小説『人間失格』をモチーフに「針(恥)の多い生涯を送ってきました」と口にしたり。自分たちが好きなものを躊躇なく持ち出してくるところが好感度大である。

また2000年代に熱狂を巻き起こしたハードコアパンクバンド、ミドリの『ゆきこさん』(2008年)を出囃子に使用。コンビ名の由来は、セクシー女優・希崎ジェシカである(ちなみに希崎は2019年12月15日オンエアのTBSラジオ『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』にゲスト出演)。大人にはおなじみの動画サイト、Xvideosにネタを投稿している点も彼ららしい。

川北「外向きに話が行き過ぎるのもイヤ」

ただ『M-1』の舞台では、かまいたちの『となりのトトロ』(2019年大会)などが過去にあったものの、基本的には文系やカルチャーを押し出すネタで勝ち抜くのは難しい印象だ。

インディーズ系のライブではキラーワードになっていたタイトルや人名も、間口が広がる大きい賞レースでは、知識のない人にとっておもしろさのニュアンスが掴みづらいものになってしまう。そのあたりが審査員らにどのように評価されるのか。

雑誌『芸人ラジオ』(2020年/スコラムック)のインタビューでは、ラジオ番組内でのトークが内輪話になりやすいことへの考えを口にしていた。川北は「外向きに話が行き過ぎるのもイヤなんです」「バランスが大事というか。ムズいっすけど、意識は相当変わってますね」と自分たちのスタイルと向き合う機会が増えてきていることを話している。

『M-1』決勝でもどこに向けた漫才を披露するか、そのネタ選びが鍵になりそうだ。

川北のつかみ「ミズコロヒー」「ぼる予備校」

真空ジェシカは、漫才冒頭の川北の「つかみ」と、それに対するガクの「ツッコミという名の注釈」を見逃してはいけない。

『M-1』1回戦では「どうも、ミズ(水)コロヒーです」と人気芸人・ヒコロヒーの名前をアレンジして自己紹介。ガクが「ヒ(火)コロヒーに弱点をつけるコロヒーじゃないです(=火は水に弱いことを指す)」と補足をいれた。

そのほかにも「どうも、ぼる予備校です」とぼる塾のパロディーを口にしたり、「どうも、千鳥です」と大嘘をついたり。「今日も綺麗なお客さんばかりでやらせていただきますけど…」と、漫才では定番の「べっぴんさん」のつかみをおこなわないなど、必ず何かをやってくる。

近年『M-1』の舞台でも、2019年優勝のミルクボーイは客席から贈りものを受け取るつかみを見せた。マヂカルラブリーは2020年決勝の舞台で、野田クリスタルが「どうしても笑わせたい人がいる男です」と因縁のあった審査員・上沼恵美子のことを指して笑わせた。

『M-1』という最高峰の漫才が続く場では、「笑いのスイッチを切り替える」という意味でもつかみが重要になってくる。自分たちの前に出演したコンビが爆笑を集めた場合、その余韻のなかでネタを始めなければならない。観る者の気持ちを自分たちのステージへ引き込むには、きっちりとつかむ必要があるのだ。毎回、チャレンジングなつかみを投下する真空ジェシカは、『M-1』では何を繰り出すのか。

麒麟・川島「こういうことをやるやつほど不安」

決勝進出の記者会見では、真空ジェシカはキワモノ的な目立ち方をした。川北は頭からイルカをぶら下げ、「もっと猫らしくありたい」という電子文字が流れるマスクを着用して登場。彼らなりの「尖り」を見せたが、司会・川島明(麒麟)からは「こういうことをやるやつほど不安」と難色を示された。

さらに記者会見の締めに、川島が決勝進出者たちに「言い残すことはないですか」と話を振り、全組が静まり返ったときも、ガクが飛び出して「こんなに注目されたら痩せちゃう」とその場を奇妙な空気に変えた。

続けてガクが、川北から何かの切れ端を渡されて「adidasの端っこの部分だけもらいました」と掲げると、川島は「もう決勝は始まっていますよ。真空ジェシカが1ポイント、リードしています」と爪痕を残そうとしたふたりの勇気を称えた。

『M-1』は、ネタ終わりの平場でのトーク内容がTwitterのトレンドに入ったり、そこでの受け答えのおもしろさが以降の仕事につながったりする。記者会見の場でも臆せず仕掛けた真空ジェシカは、本番の平場でもいろいろやらかしそうな気配がする。

『M-1グランプリ2021』決勝は12月19日、18時34分からABCテレビ・テレビ朝日系で生放送される。