今回の対談は、株式会社ジェイ・スポーツで、Jリーグ中継を統括するプロデューサー、土屋雅史氏。最近何かとトピックとなる放映権、今後のあり方が色々と議論されるスポーツメディアの世界で、まさにその中心で活躍される土屋氏。氏の言動の原点には、驚くほど純粋なほとばしる情熱がありました。普段、一緒に仕事をさせていただいている身として、照れくさくも感じた今回の対談。僕、サッカー解説者・玉乃淳とのエピソードをも踏まえて、ぜひお楽しみください。

Jリーグ中継・統括プロデューサーとサッカー解説者の稀な対談

玉乃本日は、何卒よろしくお願いいたします。まさか土屋さんとの対談が実現するなんて、夢にも思っていませんでした。

土屋確かに。番組の制作側と出演者の方との対談は珍しいかもしれませんね。

玉乃かなり緊張します。出演者からすると、番組のプロデューサーさんといえば、上司のような存在であり、神のような存在に当たりますから(笑)。

土屋さんは、「ツチペディア」と言われ、サッカーに関するありとあらゆる情報をお持ちで、いつも驚かされます。

土屋とにかくサッカーが好きで昔から見続けていますからね。可能な限り全国を回って、試合や練習を見させていただいております。高校生以上のサッカーに限りますが…それこそ中学生以下や女子サッカーにまで本気で手を伸ばしたら、もう見切れなくて…完全に家庭が崩壊してしまいますから(笑)。

玉乃Jリーグの中継制作プロデューサーとして、毎週末全国を飛び回っている傍ら、時間がある限り、高校サッカーや大学サッカーなど、カテゴリーや世代を超えて様々なサッカーを、睡眠時間を削られ、眼を真っ赤にされながら取材されていますが、そのモチベーションはどこにあるのでしょうか?

土屋たとえば、高校生なんて、サッカーに向き合っている純度が非常に高いので、気付かされることが凄くあるんですよね。事前に何も知らないで見に行くことによって「えっ?」っていうような信じられない出来事とか、信じられない出会いとか、自分の想定を超えるようなものが色んな所に転がっているので、自分を浄化させるという訳ではないのですが、改めて「サッカーってこういうことだな。」って気付ける場所なんです。単に試合や練習の後に選手と話をするだけでも、 今目の前のサッカーに全力に取り組んでいる感じがひしひしと伝わってくるんですよね。

僕も大学を卒業するまでずっとサッカーをやっていたから、「高校時代は自分もこんなに熱かったよな」って思ったりして。あまりメディアに取り上げられることのない高校生にも、伝えたい思いもたくさんあって、一生懸命こちら側に伝えようとしてくれるんです。その中には常に新しい発見があって、彼らから常に勉強させられています。取材を続けてもう6年、7年ぐらいになりますかね。もちろん、実際それはジェイ・スポーツのためにもなっています。現場で出会った指導者の方に番組にご出演いただいたり、解説者としてお越し頂いたり。

玉乃メインの仕事として、日本のトップリーグのJリーグ中継の制作責任者をされていて、それなのに下のカテゴリーの選手やマイナーな高校などにまで取材を続けている姿は、正直僕の眼には異様に映っていました。

土屋サッカーを知りたいというか、常にサッカーを勉強したいと思っているんです。現場に行くと常にサッカーを通じて何かを教わります。それが高校生だろうが、大学生だろうが、Jリーグだろうが、どの現場にも何かが沢山あるんです。とにかくサッカーが大好きなんでしょうね。学生時代もサッカー以外の仕事に就くことは考えていなかったですし。2002年の日韓ワールドカップの年に大学を卒業して、社会人になる予定だったのですが、社会人になってしまうと自由に試合を見られなくなると思ったので、自主留年という形で卒業を一年見送りました。それぐらいサッカーが好き過ぎて…何なんだろうね(笑)。

玉乃土屋さんが、サッカー好きランキングで日本一だということは間違いないと思います。世界一かどうかは知らないのでわかりませんが、サッカー好きの度合いは尋常ではないです(笑)。

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土屋やっぱり尋常じゃないよね?(笑) 本当にうちの奥さんには感謝しきれません。「昆虫とか細菌の学者と結婚したと思っている」と言ってくれているので。昆虫とか細菌が僕の場合はサッカーで…この表現が正しいかどうかわかりませんが。

一同爆笑

土屋ここまでの人生、全てサッカーに生かされてきているんですよね。友達もほとんどサッカーを通じてできた友達ですし、中学から高校に行く時もサッカー推薦でしたし、大学を卒業して会社に入れたのも、サッカーが好きで、その情熱を面接で伝えようとしたことを今の会社が評価してくれてのことですし、ずっとサッカーに導かれて生きてきているんです。僕の人生全てサッカーに構成してもらっているわけなんです。感謝しきれないですよ、ホント。

だから、サッカーを伝えることは、サッカーへの恩返しだと思っています。既にもう一生掛かっても返せないぐらい恩がありますけど。しかもサッカーを伝えることって、尽きないですしね。終わりがないですから。本当にいいものに巡り会えました。

普段明かされることのない中継の裏側

玉乃純粋にストレートに物事を伝えるのって凄く難しいかと思います。特に土屋さんはテレビ業界の中心にいらっしゃるので、スポンサーさんからの見られ方など、全てが土屋さんの意向というわけにはいかないのではないかと想像しております。

土屋こと、僕が担当しているJリーグ中継で、もし仮にスポンサー関係の目を気にしなければならないような状況だったら…あなたのような解説者は…。ね?

玉乃え?

一同爆笑

玉乃土屋さん、ひどいです。

土屋うそうそ(笑)。中継において、とにかくスタッフのメンバーが優秀ですからね。玉乃くんもご存知の通り、一試合の中継を作るのに総勢25人前後のスタッフが関わっているのですが、その中でジェイ・スポーツのメンバーは僕一人で、あとはテレテックという制作会社の方たちで構成されています。カメラマンがいて、中継車の中で指示を出す方、あと、放送席で玉乃くんに「なに言っているんですか?」ってカンペを出す方とか。

玉乃・土屋はははは。

土屋僕も何回か差し紙、出したよね、最初の方。「そういうのいらないから」って。

玉乃本当にその時は凍り付きました。毎回「遂に終わった」と思いました。僕の場合、常に一試合更新の契約ですし…。

土屋でも、本気で怒ったのは1回だけだよね?他の人から見たら、何度も「こいつ何言ってるんだ?」ってシーンがあったと思うけど。

一同(玉乃以外) 爆笑。

玉乃本当にその件は反省しています。若手選手のデビュー試合で、容姿について、不必要に触れてしまった件ですね。いまだに本当に忘れられないです。

土屋後にも先にもその時だけだよね、僕から注文を出させてもらったのは。

玉乃はい。今でもその時のことを反省しています。時に本気で怒ってくれたり、アドバイスをいただいたり…なんというか、選手を引退して、社会人としての初めての先輩が土屋さんだったので…土屋さんには感謝しきれないです。

土屋でも、なんで僕が玉乃くんに仕事をお願いしているか知ってる?

「なんだ、あの解説!」っていう意見もあるのは承知しているんですけど、この対談が決まった時に、「このことを伝えたいな」って思って、今日ここに来たんです。

最初はね…僕は31歳でJリーグ中継のプロデューサーになったんですけど…それまで視聴者側で試合を見ていて、思う所はいくつかあったのですが、いざ自分が制作の責任を負う立場に立った時に思ったんです。「あれ?中継の内容自体に手を加えることは何一つないな。」って。先ほども言いましたけど、制作チームのテレテックさんは既に日本一の制作チームだったんです。とにかくクオリティもモチベーションも高くて100パーセント信頼できる方達だとすぐに分かりました。そこで、「何を加えたらより良い中継になるかな」と考えて、自分が当時若くしてこのポジションに抜擢してもらったということもあり、今度は逆に自分が若い解説者を発掘して、新しいサッカーの見方を世の中に伝えることができたらなって思ったんです。

玉乃…なんかドキドキしてきました。起用する側とされる側の前代未聞の対談となっていることに今更ながら気付きました。なんか怖いです(笑)。

土屋それでね、若くして引退して、いきなりカナダに留学して外国人の友達をたくさん作ってとか、「バイタリティがあるな」とは思って見ていたんです。当然現役時代の玉乃淳も知っていたわけで。高校からスペインに行っていて。26歳という異常な若さではありましたけど、「何か新しいことが生まれるんじゃないかな」って思ったんですね。本当に未知数の塊ではありましたけど。

玉乃お話をいただいた時には本当に驚きました。実績もない、イケメンでもない僕が…嘘でしょって。

土屋未知数過ぎたけど、一つ確信していたのは、玉乃くんが「サッカーが本当に好きであること」だったのね。これは仕事を一緒にさせていただく上で僕の唯一にして最大の条件なんです。だから玉乃くんが「サッカーが大好き」である以上、「どう転んでもいいや」って、思い切って抜擢してみたんです。

玉乃まさか今日こんな話になるとは夢にも思ってもいませんでした。恥ずかしさと怖さが入り乱れています。

土屋まあ、玉乃論を語れる人は僕しかいないんだからいいじゃない。だって他の局のどのプロデューサーもこれまで怖くて誰も使ってこなかったんだから。

一同爆笑

土屋玉乃くんが今のような注目のされ方をするとは思ってもいませんでした。今でこそ、少しずつ評価されてきて、なにか独特の感性だとか、「面白い!」とか世間から思われ始めているようですけど、面白いとかは僕にとってはどうでもいい部分なんです。確かに僕も中継していて、笑っちゃうこともありますよ、「こいつバカだなぁ」って。

一同爆笑

土屋でもね、玉乃くんが「解説者として、この部分は日本で一番かな。」と思う所もあるわけです。

玉乃…。

土屋僕は玉乃くんが日本で一番「中立」な解説者だと思っているんです。

僕が考える「中立」というのは、目の前にあるゲームの熱とか、そのゲームの意味などを見たまま感じて、そして伝えることなので、目の前にあるゲームとどれだけシンクロできるかが重要だと思っていて、そういう意味ではピッチで起こったことに対する反応の速さや熱量が、玉乃くんは凄いんですよ。だから聞く方によっては、片方に肩入れしているように聞こえることもあるし、肩入れされていないと思われる方も当然出てくるとも思うので、厳しいクレームが来ることもあると、覚悟していました。ただ、おそらくスタジアムで実際見ている人は玉乃くんと同じような感覚で見ているはずなんですよ。スタジアムの空気を的確に画面に伝えるという意味では日本一の解説者と言って、間違いないと思います。ちょっぴりおバカだけどね(笑)

玉乃最後(笑)…せっかく嬉しくて泣きそうな話でしたのに。

土屋『マツコ&有吉の怒り新党』で第二の松木安太郎さんって言われていたけど、松木さんと玉乃くんの決定的な差は、松木さんはたぶん凄く頭が良くて、確信犯的な部分もあるはずだけど、玉乃くんは…、ねぇ。

終わりのない夢

玉乃…あのですね、僕の話はもう置いておきませんか?(笑)

僕の話なんかより、来年以降Jリーグの放映権元が変わり、目まぐるしく放送形態が変わりそうですね。土屋さんはどう観察されていますでしょうか?

土屋メディアの人間としては、思ったよりテレビからネットに移行するのが早かったなと思っています。もう少しテレビの時代が続くのかなと思っていましたから。ただ、1人のサッカーファンという視点で見ると、安く試合がいっぱい見られるようになるわけですから、とても良いことだと思います。カメラ台数もこれまでより数台増えるみたいですし、お金もさらに掛けられるようになるわけですから、期待は当然できますよね。ただ、中継の質はカメラの台数で決まるわけではないですからね。中継の質という意味では未知数な所もあるかと思います。作る側がサッカーを好きでないといけないと思うんですね。このゲームにはこういう意味があって、こういう背景があって、だからこのタイミングでこの選手を映す、みたいなものが必要だと思っています。そうでないと普段からサッカーを愛して、お金を払って、いつも見てくださっている方に満足いただけないと思いますから。僕のようなプロデューサー職の人も含めて、制作スタッフ、実況、解説者全員が「サッカーが大好きだ」という前提がなければ、中継の制作費にどれだけお金を掛けたとしても、必ずしも良い中継になるとは限らないと思います。

玉乃土屋さんの人脈とか、サッカーへの造詣の深さを考えると、例えば指導者とか、チームのスカウトとかGM(ゼネラルマネージャー)、この先ありとあらゆる可能性が考えられるかと思うのですが、ご自身では考えられたことはありますでしょうか?

土屋確かに、単にサッカーが好きというだけでは絶対に会えないような人たちに、これまで沢山会えてこられたので、その多くの出会いを活かして、「夢ある子供たちにサッカーを楽しめる機会を作ってみたりできないかな」なんて考えたことはあります。他にも「これができたら面白そうだな」と思ったりすることはありますが、今は現在の仕事に全力で向き合っています。

玉乃サッカーが大好き、サッカーに恩返しがしたい気持ちが溢れ出ていますよね。今現在、恩返し率で言ったらどれくらいなのでしょうか?

土屋さっきも言いましたけど、サッカーのどこがいいかって、絶対終わりがないんです。「サッカー好きを一人でも増やすこと」が僕の夢なんですけど、その目標って達成することは絶対ないので、だから一生サッカーに関わっていくことができるんですよ。終わりのない夢があって本当にラッキーだと思っています。当然玉乃くんを起用させていただいているのもその夢の実現のための手段の1つです。たぶん玉乃くんを通じてサッカーを好きになった人が増えたとも思いますし。

玉乃もしそうでしたら嬉しいです。

土屋しかも表に出る人ってリスクを背負って、僕も含めた会社のために矢面に立ってくれているわけですからね。僕らの仕事は万全の状態で矢面に立っていただける状況を作ることです。当たり前ですけどそこは絶対に手を抜いていないです。僕らのミスで出演していただく方に何らかの影響が出ることは、絶対にあってはならないですから。

玉乃土屋さんのその想いが、今後何十年、何百年、全てのサッカー中継に引き継がれていくことを祈ります。

土屋まあ実際は、想いがなくても仕事はできるんですけどね。時は流れていくので。想いはお金にならないから、時に軽視されがちになりますよね。でも、僕はサッカーへの想いや小さなこだわりを、感謝の気持ちを、自分ができる範囲でどのような形であっても伝え続けられればと思っています。

玉乃今日もラフな格好をされていて、いつも全く飾らない人柄ですが、最後にテレビマンとして、そしてプロデューサーとしての顔を見ることができました。やっぱり土屋さんは半端じゃないです。

土屋プロデューサーって、言われたり思われたりされても全然嬉しくないなぁ。改めて、この対談を通してでも「お!そんな面白いの、Jリーグ?じゃあ、1回見てみようかな!」って思うような人が1人でも多く現れてくれたら、この上ない喜びです。

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サッカーの面白さを伝えたい。その「想い」に圧倒された土屋氏との対談。氏は、対談中にもある通り、僕にとっては「師」ともいえる人物です。テレビのプロデューサーという肩書きは、華やかさや派手さというイメージを伴いがちですが、至ってシンプルに自分の想いを貫き働く姿勢は、そのようなイメージとはかけ離れ、今もなお、僕の人生のお手本になっています。この対談を通じて、現役引退直後、路頭に迷い海外を流浪していた僕にサッカーの面白さを改めて教えてくださったことを思い出しました。あの時、どれだけ救われたことか。

今度のJリーグ2016シーズン最終節、サッカーへの感謝の気持ち、土屋氏への感謝の気持ちを胸に、解説に臨みます。ジェイ・スポーツが誇る最高の中継チームと共に、少しでも多くの方にサッカーというスポーツの持つ魅力が届けばという願いをこめてお送りいたします。

土屋雅史(つちや・まさし) プロフィール

群馬県立高崎高校を卒業し、早稲田大学法学部を経て、2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。「Foot!」のディレクターを務めたのち、プロデューサーとしてJリーグの中継を担当する。国内外カテゴリー問わず、サッカーに関する見識は、業界内有数で、「ツチペディア」などの異名も。多忙な業務をこなす傍らで複数媒体にコラムを寄稿する随一の愛サッカー家。