「イタリア人監督の戦術をも変えるホームタウン」~サガン鳥栖の歩み

(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

過去4年で3回の優勝を誇るJリーグ王者広島を、2ndステージ制覇を狙うプロビンチャ鳥栖がホームにむかえ、チャンピオンシップ出場を争う一戦は、激闘と呼ぶにふさわしい雨中の最高のゲームとなりました。

序盤から広島はいつも通りサイドに中央にと鳥栖DFに的を絞らせない攻撃でチャンスをつくります。鳥栖も広島のサイド攻撃に両サイドバックが対峙し、キレキレの2シャドーを福田、金民友が抑え、縦に速いボールで何度かカウンターをしかけ、前半を終えます。双方プラン通りという意味では互角のゲーム展開です。シュート数は鳥栖8本に対し広島9本、そのうちの歴史に残るような塩谷の1本がスコアの差を生み、0-1で両チームの意図が明確に見える前半が終了します。

早々に決着したかに思われた後半。フィッカデンティ監督退席のキッカケとなった谷口の幻のゴールシーンからほどなく、57分、62分に立て続けに広島が得点し、スコアは0-3。誰もが広島の勝利を確信し、このまま試合が終わるか或いは王者が追加点をあげるかと思わせる展開となったのです。

ただ、鳥栖の選手は誰ひとりとして諦めていませんでした。サイドバックは常に高い位置を保ち、最終ラインは無暗なクリアをさけてボールをつなぎ、なんとか得点し勝利を手繰り寄せようとします。選手の形相、勝利を信じて疑わない眼から心を突き動かす何かが伝わってきます。監督のいなくなったベンチも巧みな選手交代で、ピッチに熱いメッセージを送り続けます。「3点のビハインドを返すぞ」と。セカンドボールを拾い続けて総攻撃するイレブンに、ずぶ濡れのサポーターも呼応します。かかわる誰もがホームチームの勝利を信じ高揚しているのです。

結局2-3のスコアで王者に軍配が上がった決戦ですが、僕は心をうたれました。個々人にフォーカスしても見どころの多い試合でしたが、鳥栖というフロントやサポーターを含めた「チーム」、「マチ」を意識させられた猛追撃だったのです。

退席になったイタリア人監督の戦術論や2ndステージでの躍進がとかく話題になりがちですが、このチームを語るのであれば主役は間違いなくチームやマチです。シーズン当初に「まずは守備を徹底、そして走力」とぶれない信念をもってシーズンに臨み、不調でも泰然自若としていた強化部、ベンチ。執拗にサイド攻撃にこだわっていた1stステージから、縦に速い攻撃をしかけるスタイルに一変させたチームのアイデンティティ。それをともに長い期間かけて確立してきたサポーターやマチの人。そして試合終了後、微妙だった判定について、社長自ら審判団に詰め寄るシーンに象徴される情熱。マチ一体となった情熱に突き動かされるように、それぞれの夢を選手たちがピッチで体現していたのです。この試合、鳥栖はチャンピオンシップ出場権争いから一歩後退という結果を残しましたが、プロビンチャの躍進へ、またひとつ歩みを進めた一戦となりました。