Jリーグアドバイザーにも就任し、サッカー界にも一石投じる夏野氏。スタジアム問題や、テレビ中継のありかた等、日本サッカー界の課題から、プロ選手のキャリアについてまで、真正面から語っていただきました。

夏野氏は多くのテレビ番組にコメンテーターとして登場し、いろいろなメディアを通じて歯に衣着せぬ発言をすることでも若い世代から支持を集めていらっしゃいます。NTTドコモで「iモード」や「おサイフケータイ」の開発に携わったことはあまりに有名ですが、現在では、株式会社ドワンゴの取締役をつとめる以外に、複数の企業から社外取締役として招聘され、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科で特別招聘教授もつとめられています。

日本サッカーのポテンシャルを引き出す

玉乃 はじめまして、夏野さん。よろしくお願いいたします。1年前にJリーグアドバイザーに就任されたニュースを見て以来、すごくお会いしたかったです。

夏野 ありがとうございます。今日はなんでも聞いて下さい。

玉乃 Jリーグアドバイザーという肩書で、具体的にはどんな活動をされているのですか?夏野さんといえば経済界の人であり慶應SFCの教授、サッカーとは完全に畑違いの方、というイメージです。そんな方がなぜJリーグアドバイザーに?という思いでいました。

夏野 今回5人がアドバイザーに指名されました。ホリエモンとか、企業再生のプロの冨山さんとか、統計学のプロとかね。いわゆるサッカー界の外のヒトが選ばれています。これはサッカー自体をもっと広義にビジネスとして捉えたりするためだと思うのです。例えば、日本全体という大きな枠組みや広い視野でJリーグを見たり、どうあるべきかを議論したり。そういうことをしたいっていうのが、村井チェアマンの思惑なんですよね。

僕はね、そのような視点がサッカー界に欠けていたなって思います。やっぱり今までの日本サッカー界っていうのは、サッカーをやってきた人、サッカー経験者のためのコミュニティみたいになっていた。でもサッカー経験者というのは日本の人口からいうと数パーセントにすぎないですよ。その数パーセントで無理矢理サッカーコミュニティを作っていると。

一方で、イングランドとかドイツ、スペイン、イタリアなどヨーロッパの国そして南米の国を見ると、国民の半分ぐらいでこのコミュニティが作られているわけです。コミュニティが小さいということは、選手のその後のキャリアがあまり保証されることもないから選手たち当事者にとっても優しくないし、なによりサッカーそのものの面白さも半減させてしまう。より多くの人と盛り上がれた方がサッカーを見る楽しさも増しますよね。 つまり、サッカーの本来持っている魅力が、小さなコミュニティでは100パーセント出しきれないんです。でも、そんな小さなコミュニティの日本サッカー界も、日本代表に目を向ければどんどん強くなって、ワールドカップに出場するのは当たり前、世界ランキングは50位前後までなりましたし、国民の関心は、一昔前に比べれば非常に大きくなったとは思っています。その日本代表に対する関心の高さをJリーグにもちゃんと反映しなければいけないな、というのが僕の問題意識です。

玉乃 欧州や南米なみにサッカーコミュニティを形成するポテンシャルが日本にもあるということですか?

夏野 そうです、ポテンシャルはあります。いまの日本のサッカーコミュニティは2つに分かれていると思っていて、僕が小さなコミュニティと言ったJリーグを支えるコミュニティと日本代表に関心があるコミュニティです。問題はこの2つがあまり一致していなこと。逆にここをくっつけることができれば、Jリーグに日本国民の半分くらいの関心を向けられることになる。だから、ここをくっつけることが重要なのです。なので、いま言ったように「Jリーグを大きなコミュニティにしていこう」という観点から、僕はリーグに対して様々な提案をしています。

玉乃 どういった内容ですか?

夏野 あまり詳しいことは言えないのですが、ちょろちょろホリエモンが喋っているので言うと、「東京の都心にクラブがないって、どういうこと?」とかです。Jリーグの「地域に深く根差すホームタウン制」という開幕当初からの理念がありますよね。凄く素晴らしい理念だと思います。各地域の人たちがトップレベルのプレーを観ることができて、裾野から日本全体で盛り上げていくというね。実際、開幕から20年以上経て、日本全体で盛り上げる仕掛けはできた。けれど、一方で肝心の観客動員はどうなのだろう?と思うのですね。こんな観点からも大票田の東京23区にスタジアムがない、チームもない、これはものすごくもったいないことです。多くの人が都心に通っているわけだから、勤務帰りに観戦できるチームもスタジアムもないことは、サッカーファンを広げる大きなチャンスを失っている感じがしますね。

玉乃 東京23区をホームタウンにするチームですか。チームと言えば、ヴィッセル神戸の取締役をされていたこともありますよね?やはりチーム側の事情というのもふまえてJリーグへ提案されるのですか?

夏野 チーム側にとってみると、Jリーグは制約条件が極めて多いリーグなので、その中でどう運営していくかを考えます。本来こういったスポーツとかアートの世界って、昔からスポンサーが手弁当で大きな支援をして、たくさん選手を集めるような形だったわけです。日本のサッカーってJリーグ発足前は実業団制でしたし、海外ではロシアの大富豪が乗り込んできてドカンとやっちゃう、みたいな事例も多い。健全経営を志向するJリーグのクラブライセンス制度のもとでは、思い切ったことをやろうとするクラブやオーナーが現れたら、実は対応できないのですよ。このような事例も、もっと柔軟に考えていく必要があるじゃないかという話もしています。

玉乃 外資が入ってきたり、それこそドワンゴさんがサッカーチームを買われたりとかはありえますか?

夏野 今はないですね。外資については事実上大丈夫なのだけど。チームを買うかどうかの視点で見ると、今のJリーグでは、チーム経営をすることにメリットが全く感じられないです。

村井チェアマンには真正面からダイレクトに意見を届けている

玉乃 夏野さんが実際に試合観戦をしてどうですか?面白いと感じますか?

夏野 うーん、どうでしょう。「観る」という意味で1993年の開幕当初と大きく変わったのはワールドクラスの選手がすごく少なくなったこと。ジーニョ、サンパイオ、ジョルジーニョ、レオナルド、ドゥンガなど世界レベルの選手がかつてはいました。そして日本人の良い選手もヨーロッパに移籍しちゃいましたよね。本田圭佑、香川真司、長友佑都、岡崎慎司。日本人選手の海外移籍は日本にとって良いことでもあるけれど、Jリーグのことを考えると難しい側面もある。スター選手がいない場合、お金が回るビジネスモデルがないと、チーム経営はなかなかうまくいかない。さきほどのチームのスポンサーの話と同様にお金が回りやすい仕組みが重要だと考えています。

でも実際、ライブのコンテンツというのは、行ってみると面白い。Jリーグも国内組といわれる日本代表選手が出場していたりすると、コアなサッカーファンじゃなくても結構面白いと感じられるわけです。観ていて自然と盛り上がりますよ。行けば、ね。ただ、みんな「行かない」。

玉乃 行くまでが、かなり高いハードルになっているわけですよね。

夏野 そう、だから行く前の「関心」というレベルでもっと盛り上がる仕掛けをしなきゃいけない。当然メディアの露出も増やさなきゃいけないだろうし。でもまず思うのは、チームが多すぎますね。一般の人たちは覚えられないですよ、選手や監督の目まぐるしい移籍も含めたら。今はチームが多くて力が分散している気がするし、そうなると各チームへの関心も薄まる。力が分散していなければJ2から昇格したチームがいきなりJ1で優勝することもなくなるでしょう。野球の話になってしまうけど、巨人がV9達成してそれを倒すために他のチームがチャレンジして盛り上がったりするわけです。サッカーにもそんな「常連感」みたいのが欲しいかな。ACLでJリーグのチームが勝てないのもJリーグのチームが多すぎて、力が分散されていることが大きな要因だと思います。レベルはアジアナンバーワンなのに勝てないのだから。

玉乃 実際そういう声はチェアマンの耳に届いているものなのですか?

夏野 思いっきり届いていますよ(笑)。目の前で言っていますからね(笑)。

玉乃 具体的にどういった仕掛けが今後なされていくのでしょうか?

後編に続く

夏野剛(なつの たけし)プロフィール

1988年、早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。1993年にペンシルバニア大学経営大学院(ウォートンスクール)へ留学し、1995年同校にてMBA取得。IT系ベンチャー企業の副社長を経て1997年NTTドコモへ。「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。現在は慶應義塾大学、政策・メディア研究科で特別招聘教授をつとめるほか、カドカワ、トランスコスモス、セガサミーホールディングス、ぴあ、グリー、DLE、U-NEXT、日本オラクルなどの取締役を兼任し、経済産業省所轄の未踏IT人材発掘・育成事業の統括プロジェクトマネージャー、一般社団法人未踏の理事などIT系有識者として数々のポストをつとめる。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会参与をもつとめるスポーツ界にも一石投じる超著名ご意見番。2015年にJリーグのアドバイザーに招聘される。