『シュート』『エリアの騎士』の生みの親、樹林伸氏。7つの名を持つヒットメーカーが明かした半生(中編)

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「導かるように”物書き”の道へ」

玉乃 樹林さんの作品の中で、趣味が高じて作品になったのは「神の雫」だけですか?

樹林 …ぐらいじゃないかな?

うん、好きなものから始めるのは当然なんだけれどね。サッカーものも当然好きだったから始めたわけで、ミステリーもそう。好きだったから始めた…でも「趣味」っていうには微妙でしょ。いわゆるマニアではなかったしね、ミステリーに関しては。もちろん好きで本を読んではいたけれども、深く掘り下げていくタイプではなかったよね。いまでもそうかな、ミステリーに関しては。ミステリーマニアではない。

玉乃 にもかかわらず、ああいうトリックや完全犯罪をつくってしまうのはなぜでしょうか?生まれつき樹林さんが特殊能力を持つサイコメトラーなのか、あるいは、何か人とは違うある種の「屈折した経験」でもお持ちなのか?

樹林 子どもの頃から、興味の対象がものすごく広かったからかな。例えば、音楽やっていたんだけれど、音楽って自分で手掛けていくと結構掘っていってしまうもので、色んなジャンルを聞いて、色んな楽器をやり始めて、しまいに作曲や作詞まで。最初ギター弾いていたんだけれど、ベースもやって…いろいろと取り入れて広げていっちゃうタイプなの、オレ。広げながら掘っていくという感じかな。だからミステリーも色んなジャンルの情報を新聞やらテレビから取り入れてね、当時から。インターネットなんかない時代だよ。そのときから、それをやっていくなかで、気が付いたらああいう形になっていた…。

玉乃 幼少時代から趣味が広かったのですね。それには何か理由がありますかね?

樹林 親が放任主義だったんだよね。勉強しろなんて全然言わなかった。オレが宿題やっているかどうかなんて全然興味ないみたいな。実際、そんなわけで、勉強はあんまりやらなかったから、家でも外でも自分のやりたいことだけをやっていたんだよ。親父はメーカー系の二代目の経営者で遊び人(笑)。母親は家でテレビばっかり見ているみたいな家庭。でも昔からよく人が家を出入りしていてさ。客人がみえていてもお構いなしで自分の趣味に没頭していたね。漫画読んだり、いきなりヌンチャク作ってみたりとか(笑)。

玉乃 勉強はからっきしダメでも、「好き」が高じてある能力が突出した!みたいな感じですかね? 

樹林 そんなことないよ。勉強はできた。

とにかく本を読むことが好きだったから。テストなんて読んだことをそのまま書けばマルもらえるじゃない。図鑑だって楽しくて、読めば理科はできるじゃない。そんな感じで、勉強している感覚は一切なかったけれど、中学行ってもテストの点数はよくて、「あれ、オレ結構勉強できるんじゃね!?」みたいな…。面白い授業は黙って聞くわけよ。それ以外はやっぱり寝ちゃうけれど(笑)。小学校のときは画家になりたいと思っていて、高校生のときはミュージシャンになりたいと思っていたんだよ。でもミュージシャンって本当に凄い人でも全然食えてないってことを知ってしまって、これはオレでも無理だなと思って…急遽、大学受験。浪人して。

玉乃 好きなことだけやってきた少年が初めて現実に直面したわけですね。天才街道まっしぐらの人生かと思いきや、意外と堅実ですね(笑)。

樹林 いや、てかオレぜんぜん天才じゃないし。ただやりたいことを楽しく一生懸命やってただけで。で、大学卒業して講談社に入社。それから12年勤務。本当は5年くらいで辞めようと思っていたんだけれどね。自分でモノを書く仕事をフリーでやりたいと思っていたから。

大学時代は遊んでばっかりだった。遊びの延長の仕事はないかなと思って、就職活動はマスコミとかミーハーなところばかり受けて…ことごとく落ちた。で、これもう留年するしかないなと思って、面接の帰りに御茶ノ水駅で立ち読みしていたんだよね、「面接クソっ!」とか言いながら。子どもの頃から本屋で立ち読みするのは日常だったけれど、その日も一冊立ち読みした。栗本薫さんの推理小説「僕らの時代」っていう本をね。面白いなって思って読み終わって、本を閉じたら背表紙に「江戸川乱歩賞募集」って書いてあるじゃない。それ見て、「あ、小説書こう!」って思って家路についたのよ。留年するつもりだったし、やることないからね。帰宅すると母親がいてね。「おかえりぃ。」って。「わたくし、正式に留年することにいたしました。」って報告するじゃない。「今日からオレ小説書きます。」って続けたら母親吹き出して…爆笑だよ。「ブ、ファファファ…好きにしなさい。」みたいな(笑)。「人間、なんとか生きていけるものよ。」って。

玉乃 お母さまが放任主義でなかったら、「神の雫」も誕生していなかったのですね。危ねぇ(笑)。

樹林 ははは。で、ゴミみたいな小説を書き始めた。でもね、書き始めると、次第に書くことが面白くなっていって、なんだかんだ手書きで原稿用紙380枚…それくらい書いたかな。もう書き終わる頃には「オレ、絶対モノ書きになる!」と思っていたよ。書いているとわかってくるんだけれどね、自分がたいしたことないのはね。でも、やればできる気もしていた。フリーライターをやっていた姉貴に「なんか『書く』仕事ない?」って聞いたら、「アルバイトあるよ。」って。某出版社で専属のライターを探していた。そこから『物書き』としての人生が始まったんだよね。

玉乃 ある意味、一度は目標であるフリーライターになったわけですよね?そこからあえて講談社に入社されたのですね?

樹林 そう。大きなところで修行した方がよいだろうという思いで。入社前には既に技能みたいなものは当然身についていたけれどね。当時ライターが少なかったから、かなりの仕事量だったんだよ。人づてで、どんどん仕事が入ってきてね。そのままフリーでやってもいいかなという思いもあったけれど、まず大きいところに行こうと最終的には考えた。

玉乃 幼少期から脚本家を目指して着々と準備を進めていたわけではなく、偶然も含めたいろいろな経緯で、この職に導かれたのですね?少し意外でした。

樹林 そうそうそう。凄くいい加減な選び方。で、そこから12年間講談社で働いた。性にあっていたんだろうね。とにかく面白かったよ。

「金田一少年の事件簿やサイコメトラーEIJIの知られざる秘話」

玉乃 「書く」ことに取りつかれているような方だと伺っております。ある種書く「マシーン」のような方だと。

樹林 仕事量は多いよね。1日で原稿用紙100枚書いたこともあるしね。金田一のノベルスを書いているときもね、とにかく書いたなぁ。トランス状態になるんだよね、そういうとき。呼吸を止めながら書いている感じになってくる。締め切り、嘘つかれているんじゃないかなって思うくらい、ぎゅうぎゅうで来るわけよ。「あり得なくない?」みたいな。でも書くしかないからね。あんまり寝ないでさ。

まず取材期間を設けるでしょ。それで頭の中では、ずっと起承転結を作るの。で、ある程度それが固まったら「ウワッと」書き出すんだよ。それが一番効率的。もちろん、いろんな作品があるし、いまは4つの連載を同時にやったり、ドラマの脚本や小説をやったりしているから、少しずつ分けながらローテンションさせて、その作業をやっているんだよね。

玉乃 …どうやって、作品ごとに頭を切り替えているのですか?サッカーの漫画を書いていたと思ったら、次の瞬間には頭の中を殺人事件にしなければならないわけですよね?しかも難解なミステリー…いったい、なんなのでしょう、その思考回路は? 

樹林 「ああ、1つ書いたなぁ」って一息ついたときに、「ふっ」と閃いたりするのよ。世の中で起こることって何かが少しずつ重なりあっているので、なんと言えばよいか言葉見つからないけれど、雰囲気のようなものかな、他のことをやったあとの方が、次がよかったりするんだよね。同じことばかりやっていると絶対煮詰まっちゃう。サッカーやワインのことを書いていると、また今度はミステリーやりたくなったりね。その逆もまた然りでね。幼少期から飽きっぽくて、「読むこと」以外すべて飽きちゃったような性格だからさ、多分それぐらいがちょうどいいんだろうね、オレにとっては。

玉乃 大変お恥ずかしい話なのですが、僕も一時期漫画の原作者を目指して活動していたことがありました。だから漫画の原案を作るのにどれだけ膨大な時間がかかり、膨大な量の取材が必要で、造詣の深さをも求められるのかを知っているつもりです。

樹林 そうなんだってね。以前に漫画の原作者目指したことを聞いてビックリしたよ。「神の雫」は、話した通り、趣味の延長上にある作品だから、いわゆる「日常」の状態で取材の多くが済むから、それにかける時間もあまり仕事だと思ったことがない。他の作品は、たしかに好きなことの延長ではあるけれど、やっぱりそれなりに取材の量は多くなるよね。でもまぁ、それこそ幼稚園に通っていたときから本をひたすら読んでいたからね。ある意味、ずっと取材を続けているようなもので、そう考えると蓄積だよね…積み重ねの延長だよ、なんでも。

玉乃 僕は、今回の取材で一番知りたかったのは、樹林さんがサイコメトラーのように特殊な能力を持った『天才』タイプの脚本家なのか、それとも12年間講談社に勤続されたことから推測できるように、努力を積み重ねる『秀才』タイプの脚本家なのか、というところでした。

樹林 もし「天才」がいるとしたら、ジャンルでいうと音楽と数学の分野にしか、いないんじゃないかなぁ。でもそういう人たちは、得てして何か欠けていたりするよね。モーツアルトなんて、よい例じゃないかな。天才だけれど社会性「ゼロ」みたいな。この(漫画の原作や脚本の)分野で長くやっている人っていうのは、社会性はもちろんあるし、むしろ社会から色々なことを吸収して自分の力に変えていくような力を持っているタイプの方が多いと思うな。

玉乃 そうですよね…幼稚園に通っていたときから、好きで本をひたすら読んでいたのですよね…愚問でした。すみません、勝手にサイコメトラー扱いしてしまって(笑)。

樹林 漫画の原作者もそうだけれど、ライターを「長く」やるのであれば、15~16歳までに数多くの本を読むのが大切なのかもしれないね。

玉乃 ところで、最初に頭の中で起承転結をつくる段階で、どれくらい先のストーリーまでイメージを固めているのでしょうか? 

樹林 たとえば、金田一は、まるまる一話についてエピソードを考えてからスタートしないとならない。トリックがあるからね。それでも書いている途中でだいぶ変わるよ。サイコメトラーEIJIなんて、結構ひどくって、途中で犯人も変わっちゃう(笑)。

玉乃 ええええ。それじゃ僕ら推理しようがないじゃないですか(笑)。

樹林 だから相当ビックリするよね、普通に読んでいる人は。オレも結末知らないんだから(笑)。

玉乃・樹林 はははは。

玉乃 ドラマ「24-TWENTY FOUR」(以下「24」)もモロにそうですもんね。シリーズごとに、つくっている人も違いますからね、わかるわけないですよね、あれ。相当ムカつきましたよ(笑)。

樹林 ははははは。確かに。ニーナ・マイヤーズなんて本人聞かされてなかったらしいよね。犯人役が自分は犯人じゃないと思って演技しているわけだから、そりゃ演技完璧だよね。金田一ではそういうのはなかったけれど、サイコメトラーでは普通にあって、ブラッディ・マンデイでもあったかもしれないね。どうだったかなぁ(笑)。

玉乃 樹林さんが「24」にドはまりされていたとき、ドラマの撮影現場にジャック・バウアーとして登場されたという都市伝説を聞いたことがあるのですが本当ですか?

樹林 樹林 それ半分事実かも(笑) 大好きでね。打ち合わせ中にジャック・バウアーのモノマネやっていたもん。(立ち上がって)「手を頭の上にあげろーー!」なんて言っていたからね。

会場一同 (爆笑)

玉乃 メチャクチャお茶目じゃないですか(笑)。

樹林 楽しくなってきたね。ちょっと呑みながらやろっか!?

玉乃 え?よろしいですか!? ぜひぜひ(笑)。

樹林 これは日本のスパークリングなんだけれど、キザン(機山洋酒工業=山梨県甲州市塩山にある家族経営のワイナリー)のもので、うまいんですよ。どう?甲州のぶどう。うまいでしょ?本当によくできている。色もいいでしょ? 

玉乃 …。

ここ一番でまったくコトバが出てきません。「神の雫」のシーンのように、太陽にかざして色を確かめ、口にした感覚で評すべく、家で練習してきたのですが…。

樹林 ははは。

(後編へ続く)

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樹林伸(きばやし・しん)プロフィール

漫画原作者・脚本家・小説家。早稲田大学政治経済学部卒業後、1987年講談社に入社し、「週刊少年マガジン」編集部で漫画編集に携わる。その後、漫画原作者として数々のヒット作を世に出し、1999年に講談社を退社、独立。現在「7つの名をもつ原作者」として引き続きヒットメーカーとして大活躍中。

この10月(2016年)から、市川海老蔵主演で放送予定の「石川五右衛門」などの脚本も手掛ける。