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<シリア内戦>イドリブの若者たち(3)女子大生「戦争でもあきらめない。夢はセラピスト」(写真7枚)

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
アマニさんの夢はセラピスト。自分のアート作品と。(今年2月・イドリブで友人撮影)

◆内戦でも夢と希望を失わず

反体制諸派による「暫定政府」が実効統治するシリア北西部イドリブ。アサド政権・シリア政府軍やロシア軍の攻撃は続く。今回、14人のイドリブ在住の中、高、大学生たちに連絡をとったが、ほとんどが家族や友人の誰かを亡くしていた。連載最終回は、イドリブで心理学を学ぶ女子大生のアマニさん。ネット回線で話を聞いた。(聞き手・構成:玉本英子/アジアプレス、取材協力:ムハンマド・アル・アスマール)

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大学生のアマニさん(21)。アマニさんもシリアの多くの住民と同様、内戦で多くの親族や友人を亡くした。(2020年2月・イドリブ郊外で友人撮影)
大学生のアマニさん(21)。アマニさんもシリアの多くの住民と同様、内戦で多くの親族や友人を亡くした。(2020年2月・イドリブ郊外で友人撮影)

アマニ・ザンギさん(21):イドリブの大学の教育学部心理学科2年生です。私は、母と次男の兄と、兄の家族3人の計6人でイドリブ郊外に暮らしています。弟はトルコで医学を勉強中です。姉は結婚して子供が3人いるのですが、私と同じ大学に通っています。一番上の兄は2年前に、父は7年前に病気で亡くなりました。なので兄と母が一家の大黒柱です。私は家事などの手伝いをしながら、宿題、学習に励んでいます。教育学部の実習で、補助員として幼稚園で働いていたこともあります。

大学では新型コロナ感染対策が呼びかけられ、マスクをつけるなど気をつけていました。今は夏休みということもあり、外で友達と会うことはありません。出かけるとしたらいつも母と一緒です。イドリブの夏は暑く、昼は40度近くなります。時折、雨が降ることもあり、その時はホッとします。

大学に行かない時、一日のほとんどを家で過ごすのですが、心理学を勉強しているので、家では自分の感情や気持ちの揺れなどをノートにつづったりします。絵を描くことにも興味があり、いくつかのアートワークを持っていて、展覧会のための絵を描いたりします。

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◆SNSで互いの無事を確認

あと、イドリブでは全員ではないですが、大学生でスマホを持っている子も結構いて、それぞれ自宅のWIFIルータを使い、ネット回線で会話したりします。SNSでのメッセージのやりとりは互いが無事でいることの安否確認でもあります。

私はスマホでユーチューブの音楽を聴いたりします。お気に入りはピアノ曲のマリアージュダムール。ピンタレスト(写真共有サイト)ではいろんな絵や写真を見つけます。これもスマホでですが、アメリカのテレビ番組「アメリカズ・ゴット・タレント」の才能あふれる人たちのチャレンジを見るのも大好きです。他には、シーシャ(水タバコ)を楽しむこともあります。

戦闘では学校も被害を受けている。写真はイドリブ近郊ネイラブでアサド政権の攻撃で破壊された小学校の校舎。(2020年6月:イドリブ教育局映像より)
戦闘では学校も被害を受けている。写真はイドリブ近郊ネイラブでアサド政権の攻撃で破壊された小学校の校舎。(2020年6月:イドリブ教育局映像より)
損傷を受けながらも授業が再開されたネイラブの小学校。子供たちにとっても戦火と隣り合わせの日々だ。(2020年6月:イドリブ教育局映像より)
損傷を受けながらも授業が再開されたネイラブの小学校。子供たちにとっても戦火と隣り合わせの日々だ。(2020年6月:イドリブ教育局映像より)

◆自宅近くにミサイルが

戦争では、私の親戚の多くが命を落としました。父の実家はアレッポですが、そこでは叔母、彼女の娘、息子、双子の兄弟、夫など多くが爆撃で死にました。私自身も恐ろしい経験をしました。7年前、自宅近くでミサイル弾が炸裂し、その時、私は数メートル先にいました。どれほど怖かったか……。4つの家が破壊され、私の家も損傷しました。母がお腹に大けがをしました。

イドリブへの攻撃はずっと続いていて、怖いです。それと、これはイドリブ全土の話ではないのですが、私が嫌だなと思うのは、「シャリア(イスラム法)による統治」を主張する、化石のような考えを持った司法機関の当局者たちが、路上で取り締まりを始めることです。

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内戦中も試験はある。写真はイドリブ北東カフル・タハリムでの試験の様子。(2020年9月1日:イドリブ教育局写真より)
内戦中も試験はある。写真はイドリブ北東カフル・タハリムでの試験の様子。(2020年9月1日:イドリブ教育局写真より)

セラピストになるのが私の夢です。画家、作家のようなアーティストにもなりたい。困っている人たちの心の支えになれるような人間になりたいとも願っています。今、世界の人たちとの交わりはありませんが、心理的に孤独とは思いません。SNSなどでつながることができるからです。

イドリブは厳しい状況に置かれています。でも、私は絶対に夢をあきらめません。そして希望を捨てません。この同じ世界に生きる、すべての若い人たちに何か言えるとしたら、自分自身はもちろんですが、家族や周りにいる人たちを大切にしてほしいです。そして、持っている夢をあきらめないで、と強く言いたいです。

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イドリブ近郊カフル・タハリムで試験に臨む女子生徒。新型コロナ対策で教職員もマスク着用。(2020年8月末:イドリブ教育局写真より)
イドリブ近郊カフル・タハリムで試験に臨む女子生徒。新型コロナ対策で教職員もマスク着用。(2020年8月末:イドリブ教育局写真より)
アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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