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<シリア現地報告>トルコ軍によるシリア越境軍事攻撃、住民が砲撃の犠牲に

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
シリア国境のトルコ軍装甲車。(シリア・テルアブヤッド:撮影・玉本英子)

◆「もう悲しみはたくさん。ただ平和を望むだけ」

シリア北部カミシュリに響く爆発音。「ドーン、ドーン」。あわてて建物の陰に入る。国境を接するトルコ側から立て続けに撃ち込まれた砲弾だ。砲撃では住民があいついで犠牲となっている。【シリア北部カミシュリ・玉本英子】

9日、シリア北部カミシュリでのトルコ軍による砲撃。閃光があがり、「ドーン」という音が何度も響きわたった。砲撃は現在も続く。(シリア・カミシュリ:撮影・玉本英子)
9日、シリア北部カミシュリでのトルコ軍による砲撃。閃光があがり、「ドーン」という音が何度も響きわたった。砲撃は現在も続く。(シリア・カミシュリ:撮影・玉本英子)

10月9日、トルコ軍はシリア北部クルド勢力地域への越境軍事攻撃を開始。テルアブヤッドや、ラアス・アル・アインでは空爆など激しい攻撃にさらされ、その他の国境沿いの町でも砲撃が続く。またクルド勢力側もトルコ側に反撃し、戦闘は拡大の一途をたどっている。

カミシュリ市内のビシェリーエ地区は国境から3キロ。キリスト教徒とクルド人が暮らす住宅地だ。9日の夜、トルコ軍の砲弾4発が着弾。一人が死亡、2人が重傷を負った。砲弾が落ちたのはキリスト教徒の民家。ブロック塀と壁が崩れ落ち、焦げた臭いが漂っていた。

「ここは住宅地で軍事拠点などない」「なぜ市民を殺すのか」。近所の住民たちは怒りをあらわにした。

砲弾が着弾したのは住宅地。キリスト教徒住民の民家の壁は崩れ落ち、焦げ臭い臭いがまだ漂っていた。(シリア・カミシュリ:撮影・玉本英子)
砲弾が着弾したのは住宅地。キリスト教徒住民の民家の壁は崩れ落ち、焦げ臭い臭いがまだ漂っていた。(シリア・カミシュリ:撮影・玉本英子)

隣家のアナヒド・ベイドルシアンさん(60)は、「ずっと戦争。もう悲しみはたくさん。ただ平和を望むだけ」と、顔を曇らせた。

別の地区では子どもが犠牲となった。

「もう悲しみはたくさん。ただ平和の望むだけです」と話す隣家の住民。(シリア・カミシュリ:撮影・玉本英子)
「もう悲しみはたくさん。ただ平和の望むだけです」と話す隣家の住民。(シリア・カミシュリ:撮影・玉本英子)
砲弾で重傷を負った女性(35)。回復しても歩行は困難だろうと処置にあたった医師は話した。(シリア・カミシュリ:撮影・玉本英子)
砲弾で重傷を負った女性(35)。回復しても歩行は困難だろうと処置にあたった医師は話した。(シリア・カミシュリ:撮影・玉本英子)

カミシュリ市内の商店街は、ほとんどが店を閉め、人や車もほとんど見られなくなった。国境線付近の住民は脱出を始めるなど、戦火が迫るなか混乱が広がっている。

シャッターが閉まったカミシュリ市内の商店街。人や車もほとんど見られなくなった。国境線付近の住民は脱出を始めている。(撮影・玉本英子)
シャッターが閉まったカミシュリ市内の商店街。人や車もほとんど見られなくなった。国境線付近の住民は脱出を始めている。(撮影・玉本英子)
シリア北東部各地では11日も激しい戦闘が続く。写真はカミシュリ市内に着弾したトルコからの砲弾が煙をあげる様子(撮影・玉本英子)
シリア北東部各地では11日も激しい戦闘が続く。写真はカミシュリ市内に着弾したトルコからの砲弾が煙をあげる様子(撮影・玉本英子)

【シリア北部へのトルコ軍越境攻撃】

トルコ政府はシリアのクルド・人民防衛隊(YPG)主体の勢力を「クルド労働者党(PKK)と一体の「テロ組織」とみなし、脅威に対抗するとして国境地帯での軍部隊を増強してきた。過激派組織イスラム国(IS)の掃討作戦で、アメリカはクルド勢力を支援。国際社会の脅威だったISに対し、多大な犠牲を払って戦ったクルド勢力を、アメリカは「見捨てることはない」と約束し、トルコの軍事行動を抑制してきた。ところがトランプ大統領は、思い付き的な政策転換を繰り返す。今月7日には国境地帯の米軍部隊が監視ポイント2地点から突然撤収。トルコ軍が国境に部隊を展開させ、軍事衝突の懸念が高まっていた。今回のトルコ越境攻撃では欧州各国も懸念を表明している。

アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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