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<シリア>反体制派拠点イドリブ 現地記者語る(2)「仲間の記者がロシアの爆撃で」(最新写真8枚)

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
イドリブ南部でのロシア軍機による爆撃で破壊された民家。(撮影・ジャベール記者)

シリア北西部イドリブ県では反体制諸派が支配、シリア政府軍とロシア軍よる激しい攻撃が続く。イドリブ出身で、現地で取材活動を続けるシリア人記者ジャベール・アル・バクリ氏(30歳)がネット回線を通じて現地の状況を語った。(聞き手:玉本英子・アジアプレス)

シリア北西部イドリブ市内では戦闘は起きていないが、周辺地域では反体制派と政府軍が衝突、住民は戦闘拡大を懸念。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
シリア北西部イドリブ市内では戦闘は起きていないが、周辺地域では反体制派と政府軍が衝突、住民は戦闘拡大を懸念。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)

<シリア>米ミサイル攻撃の根拠となった化学兵器被害の町 現場で何が(図・写真4枚)

◆「逃げたくても逃げられない」

ジャベール・アル・バクリ記者:

7月21日、私の友人で地元記者のアナス(23)が、ハーン・シェイフンで亡くなりました。彼はイドリブの戦闘や苦境にある市民の日常を記録するかたわら、戦火の中に生きる猫にも目を向け、撮り続けていました。また民間レスキューチーム・ホワイトヘルメットの隊員として住民救助にも奔走していました。ロシア軍機の爆撃で建物は破壊され、その下敷きになって命を落としました。彼はエネルギッシュで、優秀な青年でした。悲しくて、つらくて、涙が止まりませんでした。

イドリブでは8月1日、反体制派とシリア政府軍側で、条件付きで「一時停戦」の合意がなされたが、5日には戦闘が再開。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
イドリブでは8月1日、反体制派とシリア政府軍側で、条件付きで「一時停戦」の合意がなされたが、5日には戦闘が再開。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)

<シリア>政府軍によるイドリブ奪還戦迫る 現地記者に聞く(2) 県民のおよそ半分が郊外へ避難か(写真4枚+地図)

ロシア軍は戦闘機のほか爆撃機を投入してイドリブやシリア各地で「テロ組織掃討」の空爆を続けてきた。写真は巡航ミサイルを射出する様子。(2017年・ロシア国防省映像)
ロシア軍は戦闘機のほか爆撃機を投入してイドリブやシリア各地で「テロ組織掃討」の空爆を続けてきた。写真は巡航ミサイルを射出する様子。(2017年・ロシア国防省映像)

地元の住民たちは、イドリブから隣国トルコへ避難したいと思っています。しかし、トルコ国境にはコンクリートの高い壁が設置されていて、乗り越えることはできません。トルコ側にはシリア人の密入国を防ぐための国境警備部隊がいて、国境そばに近づけば射殺されてしまうでしょう。

イドリブ市内。住民生活は困窮し、電気は1日数時間で、生活・医療物資も不足している。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
イドリブ市内。住民生活は困窮し、電気は1日数時間で、生活・医療物資も不足している。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
警備の厳しいトルコへは行けず、親戚が反体制派に関わっていれば協力者とされ、投獄の恐れもあり住民は逃げられないという。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
警備の厳しいトルコへは行けず、親戚が反体制派に関わっていれば協力者とされ、投獄の恐れもあり住民は逃げられないという。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)

<シリア>イドリブ県での化学兵器攻撃~現地病院医師が惨状伝える

私が一番心配なのは、現在妊娠8か月になる妻のことです。家から車で20分の場所に病院はあるのですが、設備が整っていません。病院がターゲットにもなっているので不安です。日々の出費や、空爆の心配…。心が安らぐ時はありません。

イドリブ南部では砲撃が続いています。それが、いつイドリブ市内に迫り、総攻撃が始まるか、逃げることができずに政府軍や民兵に捕まった住民は、報復されるのではないかと、おびえるばかりです。

日本の人たちに知ってもらいたいことは、不正義と独裁政権のもとで、子どもや女性ら住民が殺されている現実です。これまでのように世界の無関心が続けば、さらに多くの血が流れることでしょう。

<シリア>反体制派拠点イドリブ 現地記者語る(1)自国民に爆弾落とす政府 殺戮続く(最新写真6枚+地図)

イドリブは、反体制武装各派の勢力圏となってきた。アサド政権は「テロ組織」として掃討作戦を展開。衝突のはざまで多数の住民が犠牲に。(シャム解放機構・HTS映像)
イドリブは、反体制武装各派の勢力圏となってきた。アサド政権は「テロ組織」として掃討作戦を展開。衝突のはざまで多数の住民が犠牲に。(シャム解放機構・HTS映像)
イドリブ南部ハーン・シェイフンで7月、ロシア軍機が住宅地を爆撃。子ども5人と女性ら計8人が死亡。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
イドリブ南部ハーン・シェイフンで7月、ロシア軍機が住宅地を爆撃。子ども5人と女性ら計8人が死亡。(2019年8月・撮影:ジャベール・アル・バクリ)
アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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