高級ホテルの長期滞在プランか続々誕生

「帝国ホテル 東京」(東京都千代田区)のサービスアパートメントが話題になった。30泊36万円(税・サ込み-客室の広さや期間などによって料金は異なる(以下同様))というキャッチーな数字が注目されたが、諸条件をはじめ、立地や帝国ホテルブランドということもあり「これは安い!」という声が続々と上がった。受付開始後4時間で完売したというが、情報拡散の凄まじさも感じるニュースだった。

Yahoo!ニュース(個人)「帝国ホテル「30泊36万円」は高いかお得か?」

追随するかのように他の高級ホテルからも次々と長期滞在プランが売り出されている。「京王プラザホテル」(東京都新宿区)では、本館スタンダード(23.5平方メートル)30連泊で21万円という。

Yahoo!ニュース「京王プラザホテル、30泊21万円の朝食付きプランを販売 2人利用で実質“1泊3500円”」

食事は帝国ホテルでは別途有料で提供(ルームサービス)、京王プラザホテルは朝食のみ付くというが、「ホテルニューオータニ」(東京都千代田区)では、朝・昼・夕の3食付長期滞在プランを販売。ザ・メイン スタンダードルーム30泊31日で75万円だ。

Yahoo!ニュース「ホテルニューオータニ、月75万円の定額プランを発表 朝昼夕3食、掃除・洗濯サービス付き」

こうした長期滞在にフォーカスした新プランを打ち出すホテルは枚挙に暇が無い。

背に腹はかえられない?これは安売りか!?

これら高級ホテルの長期滞在プランが安いか高いかは個々人の感覚に委ねるが、1泊で割った場合、コロナ禍以前の料金設定から見ると相当安価なことがわかる。たとえば、帝国ホテル30泊36万円の場合1泊12000円となりその数字だけに着目すればこれは安い!という印象になるだろうし、36万円という数字からそこはやはり高級ホテルという印象を持つ人もいることだろう。

帝国ホテル
帝国ホテル写真:アフロ

高級に限らずホテルではやみくもな安売りはタブーとされるが、特に高級ホテルとなれば行きたい人はそれなりの料金を支払っても出向くディスティネーション的要素があるし、とある高級ホテル関係者の弁を借りれば「安売りすると相応しくない客層が増える」ともいう。これは昨秋盛り上がりをみせ、非常識な値引きプランも見られた某キャンペーンでも指摘されたことだ。

何よりブランドイメージの毀損という問題もある。時々高級ホテル新規開業で一定期間は稼働率が低くても正規料金で販売というスタイルを見かけるが「正規料金で売り続けることでブランドイメージを定着させる狙いがある」と高級ホテルの担当者は話す。今回の帝国ホテルのサービスアパートメントをはじめ、その他長期滞在プランも割って計算すれば安い金額になることはわかるが、36万円、21万円、75万円・・・ポンと支払える人はそれなりの人ということも想像できる。ブランドイメージからみた場合にもこうしたプランの秀逸な点といえる。

これが安売りかと問われれば、実質的に安売りでもそう見えない上手さを感じる。

高級ホテルならではのジレンマ

帝国ホテルに関する報道によると、2020年4~12月期の連結決算は最終損益が86億円の赤字(前年同期30億円の黒字)、売上高は前年同期比62%減の166億円で、緊急事態宣言も影響し1割前後まで稼働率も落ちこんでいたという。宿泊需要の減少を埋めるため、他に活路を見いだす必要に迫られていたことを考えても、サービスアパートメントの開始には決意めいたものを感じる。

帝国ホテルの長期滞在プランは、高級ホテルばかりではなくビジネスホテルにも波紋を広げており、かなり低額な長期滞在プランが目立つようになった。一方、帝国ホテルをはじめとした高級ホテルはビジネスホテルと異なり、多くの付加価値を提供することが特徴であり、ゆえに高い料金を設定する。ビジネスホテルは客室主体であるが、高級ホテル内には客室以外にも収益を生み出す施設や設備が多く揃っている。それだけに長期滞在プランについてビジネスホテルと高級ホテルを同列に論じることはできない。

ホテルは装置産業と言われるが、どれだけ売り上げる面積があるのかは収益のポイントとされる。帝国ホテルのサービスアパートメントでは、フィットネスルームやプールをはじめ、駐車場などの利用に際して別途料金はかからないとし、他の高級ホテルにおける同様なプランでもこうした付加価値高きバリューも注目され大きな魅力となっている。こうした点も高級ホテルが長期滞在プランを打ち出す理由と指摘できる。

サービスアパートメントはコスト削減?

長期滞在プランが安いと前述したが、安いからには理由がありそうだ。筆者は仕事柄ホテルに長期滞在することも間々あるが、ホテルからよく聞かれるのが、タオル・アメニティ類の交換や清掃が必要かについてだ。最近ホテルでよく見かけるのが、連泊の場合に交換不要とすればミネラルウォーターをプレゼントするというもので、洗濯の機会を減らすことで環境に配慮しているイメージを打ち出すが、同時にホテル側のコスト削減であることは誰にでもわかることだろう。

“清掃不要”は環境面からも推奨される(筆者撮影)
“清掃不要”は環境面からも推奨される(筆者撮影)

たとえば、ビジネスホテルのコストカットであれば、こちらも安く泊まっているからと広き心で感じ取れるが、高いサービスを提供する高級ホテルにおいての表立ったコストカットは、「何だかセコい」「ケチくさい」というイメージを持つ人もいることだろう。こうした点においても、サービスアパートメントならば、アメニティ類の交換や清掃についても数日に一度という設定のイメージもでき、付加価値の提供を是とする高級ホテルにしてコスト削減へのハードルは低い

実質的に安価で提供しつつ収益力を上げるという点からも、ホテル側が長期滞在プランに注目するのは当然だろう。無論、毎日イン/アウトがなければスタッフの手間も省け人件費の削減にもなる。

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そもそもコロナ禍がなかったとしたら、こうしたプランは誕生しなかっただろうから、コロナ禍による宿泊需要の激減が長期滞在プランを生んでいるのは第一の理由として、ブランドイメージや遊休スペース活用、コスト削減等の面からも高級ホテルが長期滞在プランを積極的に打ち出す理由を考察してみた。

長期滞在プランのほかにも、一定時間の利用であればチェックイン/アウト時間に縛られない“フレックスプラン”や“デイユース”“テレワーク”プランなど、激減した宿泊需要を埋めるためにホテルの模索は続く。コロナは宿泊という概念すらも崩壊させつつあるのだろうかとも考えてしまう。

テレワークにワーケーション、ステイケーションなどコロナ禍でホテルにまつわる新たなワードも生まれたが、話題性と共に“実(じつ)を伴う”ことが造語から言葉として認知されるに至る条件だろう。これらワードが果たしてどれだけ残っていくのか。サービスアパートメントも定着するのか。それもまた、話題性と共に実を伴ったサービスの提供とゲストニーズのマッチングにかかっている。

いずれにしても、荒んだ世相、大打撃を受け続ける業界にあって、人々の心を掴みブームにしてしまうホテルの凄さに感動すら覚えるのは筆者だけではないだろう。