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広がる医療従事者への感謝の声!「ゆっくり休んでもらえたら」宿泊業界で優先的受け入れの動き

瀧澤信秋ホテル評論家
最前線で働く人々への感謝(写真:アフロ)

広がる医療従事者への感謝の声

新型コロナウイルスにホテルといえば、稼働率低調・経営不振・休業といったニュースが世間を賑わしてきた一方で、軽症者の受け入れ施設としてホテルが一躍注目を浴びることにもなった。社会的意義という点はもちろん、自治体による一棟借り上げということで(有償ということであれば)ある意味Win-Winというホテル運営にとっても渡りに船といった“合理的な活用法”として、ホテルの存在が改めて注目されることに。19日には、西村経済再生担当相が「全国で21万室を超えるホテルを確保した」と明らかにし契約手続きを進めているという。

プライベートな話で恐縮であるが、筆者は3月と4月(新型コロナウイルスではないが)親族2名の入退院、転院などが重なり4軒の病院を行き来してきた。中には新型コロナウイルスの検査等に対応する病院もあった。基本的に医師からの呼び出し等を除いて全面的な面会禁止、面会の際にも感染防止のために厳重な予防を施す必要があるなど不自由を強いられたが、複数の医師や看護師との出会いの中で常に疲労困憊といったその様子に、壮絶な現場を目の当たりにしたような気分になり感謝の思いばかりが募った。同時にキチンと帰宅できているのだろうか、休息はとれているのだろうか、家族もさぞかし不安ではなかろうかと日々第一線にいる医療従事者の方々への心配は大きくなるばかりだった。

目下、全国で医療従事者など最前線へ働く人々への感謝の声は大きく広がっている。17日にはジャニーズ事務所が医療従事者へ向けて防護服(隔離服)3万3000枚、医療用マスクと抗菌マスクを合わせて50万枚を順次寄付していくことを発表した。「まずは医療の最前線で懸命に患者様を救おうと力を尽くしてくださっている医療従事者の皆様の支援を」と考えたという。身近なところでは、フェイスブックのプロフィール写真で「最前線で働く人に感謝 ♯COVID-19」というフレームの使用を見かけるようになった。

近くでゆっくり休んでもらえたら

このような第一線で働く人々に対して何かできないかという動きは宿泊業界にも出始めている。軽症者の受け入れ施設として注目されたホテルであるが、今度は一般のホテル利用として特に病院から近いホテルで、医療従事者や家族の方々にゆっくり休んでもらえたらという声だ。宿泊業界へのコンサルティングを業務とする、ホスピタリティマネジメント株式会社代表取締役社長菅野潔氏は「弊社のサポートしているホテルでも受け入れの検討をはじめている」という。

具体的な留意点としては「感染予防、予約方法、受け入れ体制、客室清掃、食事提供等をどうするか、受け入れる際の留意点やガイドラインを作る必要がある」とし、「ホテルスタッフの不安を極力少なくすることが、医療従事者の方々にも安心して過ごしていだたけることに繋がる」と話す。業界団体や自治体レベルで積極的に動いてもらえればともいう。費用については「医療従事者に向けた特別なプランとして1泊3000円程度で連泊を基本とする。自治体が先導してくれることによる予算確保は理想だが、とりあえず寄付などを立ち上げ賛同者を募る方法もある」とする。

宿泊施設の業界団体でも動きが出始めている。JALF一般財団法人 宿泊施設活性化機構は「宿泊業界は今こそ社会の一員として医療関係者へ感謝の行動を~医療関係者ご本人およびそのご家族の優先的受け入れを~」と公告した。勤務が過酷で帰れない、通勤時に感染する可能性の忌避、通勤時間が無駄、ゆっくり眠りたいというような医療関係者へ病院近隣の宿泊施設を利用してもらえればとする。機構では、受け入れ希望の宿泊施設、滞在希望の医療関係者、自宅以外での滞在を希望する医療関係者家族、手配希望の医療施設または地方公共団体等の調整をするとのこと。

既に稼働している軽症者受け入れ施設では、ホテルスタッフではなく派遣された専門スタッフによる対応というが、一方で前述のケースでは医療従事者などの滞在ということで、第一線で新型コロナウイルスと対峙するゲストについて、現場のホテルスタッフをどのようにフォローするのかは課題だ。もちろん利用者は感染していないことが前提となるが、スタッフの心理的な負担などを不安視する声は強い。また、軽症者受け入れについての記事でも触れたが(※)ホテルは所有と経営、運営等分かれているケースは多く、運営側の決断だけではなくオーナーの承諾も必要になるケースはあるだろう。

※新型コロナ軽症者対策、受け入れに「アパホテル」が適する5つの理由

出典:Yahoo!ニュース(個人)

 

行政による先導的支援が必要

休業になった施設も多いが営業している多くのホテルも開業休店状態。「社会的意義の高い需要にホテルが応えられるのであれば、医療従事者に少しでも役にたつのであれば、受け入れたいというホテルは沢山あると思う」と前出の菅野氏は話す。肉体的にも精神的にもギリギリの状態で働いてくれている医療従事者の方々へ、ホテルの客室を解放できないかとの強い思いだ。緊急事態の中でもホテルならではのホスピタリティにはきっと“ヒューマン”があることだろう。

各所への緊急的な手当ては当然として、ホテルに限らずWin-Winになるような相互扶助的動きは物事を持続させるために大切であるし、そうした動きに対する先導的な支援もいま行政に求められている。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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