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アパホテルEXCELLENTは<本当にエクセレント>か? しっかりアパとがっかりアパ

瀧澤信秋ホテル評論家
アパホテルといえばお馴染みの豪華ロビーのばずだが・・・

2013年8月の印象的な出来事を時々思い出す。ホテル評論家を名乗る少し前であるが、当時気になる様々なホテルへ宿泊するのが常であった。展開スピードで注目していたアパホテルもよく利用していたブランドで、新築の真新しいホテルが誕生するとよく出かけた。ロビーはゴージャス、客室も大画面テレビにデュベスタイルのベッドメイク、施設によっては大浴場を擁するなど、いまとなっては宿泊特化型ホテルのスタンダードとなったサービスをいち早く採り入れていた。

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そうした意味で個人的に好きなホテルブランドであったが、限定的な客室面積については法令下限の9平方mという施設もあり何ともし難いという思いを抱きつつ受忍していた。ところが2013年8月1日に「新規開業(公式サイト記載の文言)」したという神奈川県の「相模原橋本駅前店」の情報を見ると客室面積「約12平方m」との記載が。40インチの液晶テレビはアパホテルらしいし、客室写真を確認しても清潔感がありフレッシュなイメージであった。大浴場はないもののアパホテルで12平方mの客室面積とは興味津々、早速リサーチへ。

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“新規開業”ということで、これまで知っているピカピカのアパホテルというイメージを抱き出向いたが、ホテルの外観をみて愕然とした。築30年近くは経っているのではないかと思わせる古い建物だったのだ。エントランスやレセプションの雰囲気はスタイリッシュだったが、エレベーターや廊下といったパブリックスペースは経年劣化による暗いイメージが隠せなかった。確認してみるとやはりアパホテルの前は別のホテルだった。建物は1986年竣工。従前ホテルの営業当時の写真を確認すると、客室もロビーもいま見てきた光景と同じだ。

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即ちほぼ看板を掛け替えただけということになるが、チェックアウトの際に工事業者の方がまさにアパホテルと書かれた看板を補修していた光景はある意味の皮肉であった。客室はホームページの写真で見た40インチの液晶テレビやデュベスタイルの清潔感も手伝って一見スタイリッシュという印象ではあったが、実際に入室すると写真ではわからない壁紙の汚れや剥がれがあり、経年感を隠せない(交換していない)ドア周り付近は哀しい雰囲気であった。古い冷蔵庫も折角の雰囲気を台無しにしていた。

このようにホテルの名前が変わることを業界では一般に“リブランド”という。ホテル業界らしいオシャレなネーミングであるが、経営は同一なものの新しいブランドをスタートさせることによりホテル名を変える場合や、譲渡によりホテル名が変わるケースなどリブランドも様々である。ただし、リブランドというワードの持つ明るくポジティブなイメージ(ピカピカの新しさ)のホテルばかりではないのだ。

風呂好きなら大浴場を擁するアパホテルも狙い目だ
風呂好きなら大浴場を擁するアパホテルも狙い目だ

アパホテルといえば、いまや各地で続々新築物件を開業するようなピカピカのホテルをイメージする人も多いことだろう。筆者も時々テレビ番組や雑誌等でアパホテルを紹介することもあるがやはり新築物件を推挙する。一方、特に地方では既存ホテルのリブランドによる“古いビジネスホテルのアパ化”を散見する。冒頭で紹介した橋本のケースのように、あの新しいアパホテルを想像して出向きがっかりしたという声は巨大ブランドだけに多く聞く。他方、リブランドとはいえ元プリンスホテルであった「アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉」のようなシティホテル然としたハードについては高い評価の声もある。

マットレスとシーツは新しいが・・・
マットレスとシーツは新しいが・・・

本稿では日本最大級のホテルブランドということでアパホテルを例に出したが、新しい物件とリブランド物件が混在するブランドは多くあるし、古い物件のリブランドに特化したチェーンもある。アパホテルに限らず相当な築年数を経たホテルでは、リブランドの有無に限らずリニューアルが行われるのを多く見かける。客室の壁紙や絨毯、調度品などをサッと新しくするようなケースもあれば、館内全体にわたり大きく変える大規模なものもある。客室でいえば確かに一見見栄えは良くなるが、全館空調の刷新や水道管のリフレッシュまではなかなか踏み込めないのだろうか、エアコンの作動音や浴室排水の不備などが気になることもある。どことなく漂う陰気臭さも簡単なリニューアルでは消せないものだろう。

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再び個人的な話で恐縮であるが、以前名古屋へ出向いた時のこと。錦に「アパホテルEXCELLENT」なるホテルを発見、同行者のために予約をした。自身はEXCELLENTではない方のアパホテルにした。翌朝、その同行者は「決してエクセレントじゃなかった」とガッカリしている。

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「確かにテレビやベッドはいいのだが、ドア周りや浴室、冷蔵庫、ソファなど全体的にかなり古い感じがした」という。その後の訪問は叶っていないので改善されたか否かはアップデートできていないが、こちらも調べてみるとリブランド物件であった。一方、自身の宿泊したアハホテルはほぼ新築で大浴場もあり大変快適に過ごすことができた。

東横インといえばこの客室(最近ではデュベスタイルへの移行も進んでいる)
東横インといえばこの客室(最近ではデュベスタイルへの移行も進んでいる)

ブランディングという点からいうと感心するのが全国各地に進出している東横インだ。アパホテルに比べるとテレビやマットレス等は質素であるが(概して客室面積は東横インが多少広い)、全国どこへ行っても同じような建物と客室ばかりなのだ。初めて訪れる東横インでも“東横イン=あの部屋”とチェックインする前に東横インリピーターは既にイメージしている。星野リゾートの星野代表とブランディングについて対談した際に「マクドナルドはすごい」という話になった。確かにマクドナルド=あのハンバーガーというイメージが一般に確立しているので、消費者はいちいち調べないとし運営側もこまごまと説明する必要も無い。

筆者お気に入りのアパホテル 巣鴨駅前は人気テレビ番組でも紹介した
筆者お気に入りのアパホテル 巣鴨駅前は人気テレビ番組でも紹介した

同じブランドでも様々な建物があるという話であったが、続々と開業するアパホテルの新築物件供給客室数は圧巻だ。先日開業した「アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉」2311室での開業は大きなニュースになったし、名古屋でもこれまでの栄・錦エリアに加え名駅周辺で複数の新規開業を控えている。ますますアパホテル=新しいホテルというイメージは広がっていくことだろう。ゆえに、新しいアパホテルと思って予約したのに到着したら古いホテルのリブランド物件だったとがっかりすることがないよう、事前確認も含め納得したステイにしたいものだ。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

ホテル評論家の辛口取材裏現場

税込330円/月初月無料投稿頻度:月1回程度(不定期)

忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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