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ストップ!子どもへの「虐待」~「削除」が閣議決定された民法の「懲戒権」とは何なのか

竹内豊行政書士
政府が閣議で削除を決定した民法の「懲戒権」とは何でしょうか。(写真:イメージマート)

政府は昨日14日の閣議で、親が子を戒めることを認める民法の「懲戒権」を削除し、体罰の禁止を明確化する改正案を決定しました。また、「無戸籍者」を生み出す要因と指摘されている「嫡出推定」の見直しも盛り込みました。いずれも今国会での成立を目指します。

今回は、「しつけ」を口実に虐待が正当化される原因となると指摘されている懲戒権について見てみましょう。

「監護教育権」と「懲戒権」

懲戒権を見る前に、まず監護教育権を知る必要があります。

親権者は、子の利益のために子の監護および教育の権利を有し、義務を負います(民法820条)。

民法820条(監護及び教育の権利義務)

親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

これは、子の成長と発達を援助し、育成をする基本的な権利と義務です。そして、この監護教育権を行使するために親権者に与えられたのが懲戒権なのです。

なお、本条の「子の利益のために」との文言は、相次ぐ児童虐待を背景に、平成23(2011)年の法改正で加えられたものです。

民法822条(懲戒)

親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。

「懲戒」とは

では、そもそも懲戒とはどのようなことを指すのでしょうか。

懲戒とは、親権者による子の監護教育からみての子の非行・過誤を強制善導するために、その身体または精神に苦痛を加える制裁であり、一種の私的な懲罰手段です。これは、未成年者の監護教育のためには、単なる口頭による訓戒だけでは足りず、時には「愛の鞭」を必要とすることがあるので、親権者に認められた権限とされています。

子の監護教育目的のために認められた権利

つまり、懲戒権は親権者の権威のためではなく、子の監護教育目的のために認められた権利です。当然、その目的のために必要な範囲内でのみしか行使は認められません。

懲戒権の行使

懲戒の具体的な方法としては、しかるなど、必要に応じて適当な手段を用いることができると考えられています。親権者が行うことが許される懲戒の手段や程度は、当然ですが、社会通念上、監護教育という目的の達成に必要と思われる限度にとどめなければなりません。

親権の濫用~過度な懲戒が行われたとき

しかし、この範囲を逸脱し、過度な懲戒を加える行為、つまり児童虐待は後を絶ちません。過度な懲戒が行われたときは、民法上は、親権の濫用として親権喪失の原因になったり(民法834条)、子に対する不法行為による損害賠償責任の問題が生じ得ます。

民法834条(親権喪失の審判)

父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。

また、刑法上は、次のような刑事責任が追及されることもあります。

・傷害罪(刑法204条)

・暴行罪(刑法208条)

・逮捕監禁罪(刑法220条)

・脅迫罪(刑法222条)等

なお、懲戒の程度・方法が「必要な範囲」を逸脱するか否かは、その時代の一般的社会通念によって定まるとされます。

改正案の内容~「懲戒」を削除し条文を新設

改正案は民法822条(懲戒)を削除し、新たな条文として、親権者について、子の利益のために監護・教育ができることを前提に「子の人格を尊重するとともに、年齢および発達の程度に配慮しなければならない」とし、「体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動」の禁止を明記しています。

以上ご覧いただいたように、監護教育権は、親権者の権威のためではなく、子の監護教育を目的に認められた権利です。今国会では、このことを基軸に活発な議論がなされ、子どもに寄り添った新たな条文が成立することを期待したいと思います。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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