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国内初めての「内密出産」~「日本国籍」取得は可能なのか

竹内豊行政書士
「内密出産」で生まれた赤ちゃんは日本国籍を取得できるのでしょうか。(写真:アフロ)

病院以外に身元を明かさず出産できる事実上の「内密出産制度」を導入した熊本市の慈恵病院は今月4日、制度利用を望む10代の女性が昨年12月に出産したと記者会見で発表しました。女性は病院の相談室長だけに身元を明かして既に退院。病院は現時点で内密出産に該当するとの認識を示しました。国内初事例に当たるとみられますが、女性が今後翻意する可能性もあるとしています。

内密出産で戸籍登録はできるのか

内密出産は国内では法制化されていませんが、法務省は一般論として「匿名の妊婦が出産した子の戸籍登録は可能」としています。同省関係者は「父母が不明でも、日本で生まれたことが確認できれば日本国籍を取得でき、戸籍が作成される」と指摘しました。

以上、参考・引用:『日本経済新聞』(2022年1月4日号)

このように、法務省は「一般論として」と前置きしていますが、内密出産で生まれた子の日本国籍取得の可能性を示唆しています。そこで今回は、内密出産における国籍取得について深読みしてみたいと思います。

「国籍」とは

現在、各国は、「自国の構成要素をなす人」と、「そうでない人」とを区別し、種々の点で、両者について異なった取り扱いをしています。一つの国家にとって、前者が内国人(内国国民)であり、後者が外国人(外国国民)となります。この区別の基準となるのが国籍です。人は、国籍によって特定の国家に所属し、その国家の構成員となります。したがって、国籍とは、個人が特定の国家の構成員である資格を意味します。

出生によって日本国籍を取得できる場合

では、日本国籍はどのような場合に取得できるのでしょうか。出生によって日本国籍を取得できる場合は、国籍法第2条に次のように規定されています。

国籍法第2条(出生による国籍の取得)

子は、次の場合には、日本国民とする。

一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。

二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。

三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。

国籍法2条は、このように子が日本の国籍を取得する3つの場合を設けています。そして同条3号では、出生地が日本であることと、父母がともに知れないかまたは父母がともに無国籍者であることを条件としています。「内密出産」の場合は、この3号に該当すると考えられます。そこで、3号についてもう少し詳しくみてみましょう。

「日本で生まれた場合」とは

日本で生まれた場合というのは、日本の領土、領海および領空で生まれた場合、公海における日本船舶上および公空における日本航空機上で生まれた場合です。

「父母がともに知れないとき」とは

父母がともに知れないときというのは、父母が誰であるか事実上判明しない場合および父母が事実上判明していても父母と子の間に法律上の親子関係が存在しない場合をいいます。

父母がともに「国籍を有しないとき」とは

父母がともに国籍を有しないときというのは、出生の時父母がともに無国籍者である場合という意味であって、その前後における父母の国籍いかんは問題となりません。

この10代の女性は、「元気に生まれてくれてありがとう。世界で一番幸せでいてほしい」と赤ちゃんへの手紙を病院に託していました。

人が生きていく上で、国籍は重要なものとなります。内密出産について賛否両論あると思いますが、生まれてきた赤ちゃんが健やかに成長することを願ってやみません。

参考:『国籍法』(江川英文他、有斐閣)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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