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衝撃の相続!~相続するはずの不動産が売却されていた。

竹内豊行政書士
遺言を残しても相続トラブルになってしまうことがあります。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

山本一郎さんは、父太郎さんが亡くなる5年前に「遺言書を残しておいたからな。お前(長男)には(私が住んでいる)土地と建物を残す。そして、二郎(次男)には金融資産の全てを残すように書いておいたから安心してくれ」と告げられました。

不動産は当時時価で5千万円ほどでした。また、金融資産は約3千万円でした。一郎さんは、「親父が亡くなった後に更地にして土地を売却しよう」と考えました。なお、妻の花子さんは既に亡くなっていたので、太郎さんの相続人は子どもの一郎さんと二郎さんの2人でした。

太郎さんは遺言書を残してから5年後に亡くなりました。そして、貸金庫から遺言書を取り出してみると、生前太郎さんから告げられた通り、不動産は一郎さんへ、金融資産は妻と二郎さんの二人で2分の1ずつ相続させるという内容でした。

衝撃の事実

一郎さんは、遺言を執行するために法務局に出向きました。まずは、現状を確認するために登記簿謄本(全部事項証明書)を取得しました。そこで、衝撃の事実が発覚しました。実は、一郎さんに相続させるとされていた不動産が亡くなる2年前に売却されていたのです。どうやら太郎さんは介護施設の入居資金を不動産の売却益で補ったようです。

遺言の後に、遺言者が遺言と抵触(矛盾)する法律行為をした場合

さて、遺言者が遺言を残した後に、遺言者がその遺言の内容と矛盾する法律行為を行った場合には、遺言中の矛盾する部分が撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。

撤回とは、意思表示をなした者が、その意思表示の効果を将来に向かって消滅させることをいいます。

民法1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)

1.前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。

2.前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

したがって、太郎さんは、「自宅の不動産を長男一郎に相続させる」という内容の遺言を残していたにもかかわらず、生前にその不動産を第三者に売却してしまったので、「不動産を長男に相続させる」という内容の遺言は撤回されたものとみなされてしまいます。

これにより、太郎さんが残した遺言によって、金融資産の全ては二郎さんに相続され、残りの遺産は一郎さんと二郎さんの協議で引き継ぐことになります。しかし、金融資産の他にはめぼしい遺産はなく、結局一郎さんにはほとんど遺産が残されないこととなってしまうのです。

遺言を見直すべきだった

おそらく、太郎さんは一郎さんにも遺産を残すつもりだったはずです。もし、そうであったら、たとえば「金融資産を長男一郎と二男二郎で半分ずつ相続させる」といったように不動産を売却した後に遺言書を作成し直すべきでした。

遺言は、遺言者(遺言書を作成した人)の死亡の時からその効力が生じます(民法985条1項)。

民法985条1項(遺言の効力の発生時期)

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

したがって、一般敵に遺言を残してから効力が発生するまである程度の年月を要します。その間、遺言で相続させるとした財産を売却などして処分したり、財産を残そうとした人が自分より先に死亡してしまうなど状況が変わることもよくあります。

そのため、遺言を残した後に、定期的に見直しをして、その時点での自分の考えが反映されている内容であるか確認することをお勧めします。そして、考えと違う場合は、遺言を撤回して新たな遺言を作成するようにしましょう。

※記事は筆者の経験をもとにしたフィクションです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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