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自民党総裁選の争点、「選択的夫婦別姓」とは

竹内豊行政書士
自民党総裁選で「選択的夫婦別姓」が争点の一つとなっています。(写真:アフロ)

自民党総裁選で民法が定める夫婦の姓をめぐる選択的夫婦別姓が争点の一つとなっています。そこで、選択的夫婦別姓について最高裁判決を交えてご紹介します。

夫婦同姓(同氏)の原則

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の姓(氏)を称します(民法750条)。これは、「夫婦同姓(同氏)の原則」と呼ばれています。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

また、現行制度では、夫婦の姓を定めなければ婚姻届が受理されません(戸籍法74条)。この制度に対しては、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」という憲法の原則(憲法24条1項)を制限している」という意見があります。

戸籍法74条(婚姻)

婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

一 夫婦が称する氏

二 その他法務省令で定める事項

憲法24条(家族関係における個人の尊厳と両性の平等)

1.婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

2.配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

96%が夫の姓を選択

前記のとおり、民法では婚姻の際に、「夫又は妻の氏を称する」と姓の選択が可能なことを示しています。しかし、現実はほとんどの夫婦が婚姻の際に夫の姓を選択しています。

厚生労働省の「平成28年度人口動態統計特殊報告『婚姻に関する統計』の概況」(10頁「(4)婚姻後の夫妻の氏別にみた婚姻」)によると、平成27(2015)年度では、96%が夫の姓を選択しています。「夫婦とも初婚」の場合は、さらに高く97.1%が同じく夫の姓を選択しています。

平成27(2015)年最高裁判決~夫婦同姓は合憲

平成27(2015)年、最高裁大法廷は、「氏の変更を強制されない自由」を求めた裁判で、夫婦の姓を規定する民法750条を違憲と判断しませんでした。その主な理由は次のとおりです。

・家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位だから、姓をその個人の属する集団を想起させるものとして1つに定めることにも合理性がある。

・姓が親子関係など一定の身分関係を反映し、婚姻も含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているのだから、婚姻の際に「姓の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。

・民法750条は文言上「夫または妻の氏(姓)を称する」としており、性別に基づく法的な差別的取扱いを定めていない。

・民法750条は婚姻の効力の一つであり、直接、婚姻の自由を制約するものではない。

・嫡出子(妻が婚姻中に妊娠した子および妻が婚姻後に出生した子)であることを示すために子が両親双方と同姓である仕組みを確保することも一定の意義があると考えられ、結婚改姓による不利益は、旧姓の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得る。したがって、夫婦同姓は、直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であると認めることはできない。

5人の裁判官が「違憲」

この判決では、15人の裁判官のうち10人が、夫婦同姓は「合憲」としましたが、一方、女性裁判官3名を含む5名は「違憲」という意見を表明しました。「違憲」とした主な理由は次のとおりです。

・夫婦の約96%が夫の氏を称することは、意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用しているのであり、その点に配慮しないまま夫婦同姓に例外を設けないことは、多くの場合妻となった者のみが個人の尊厳の基礎である個人識別機能を損ねられ、また自己喪失感といった負担を負うことになり、憲法24条2項に立脚した制度とはいえない。

・姓の家族の呼称としての意義を強調することは、全く例外を許さないことの根拠になるものではなく、家族形態の多様化している現在、そうした意義や機能をそれほどまでに重視することはできない。

・通称は便宜的なもので、公的な文書には使用できない場合があり、通称使用は結婚によって変動した姓では当該個人の同一性の識別に支障があることを示す証拠である。

・夫婦同姓に例外を許さないことの合理性が問題であり、同姓の利益は主観的なものであって、例外を許さないことに合理性があるということはできない。

高まる論議~賛成派が過去最高

内閣府が平成29(2017)年に実施した「家族の法制に関する世論調査」の結果では、次のとおり選択的夫婦別姓に賛成する意見が過去最高の42.5%を占めました。

「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり,現在の法律を改める必要はない」・・・29.3%

「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には,夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」・・・42.5%

「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが,婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」・・・24.4%

令和21年度最高裁判決~2度目の合憲判決、国会の議論を促す

夫婦別姓を認めない民法750条の規定について、最高裁判所大法廷は今年6月「6年前(前掲の平成27年最高裁判決)の判決後の社会の変化や国民の意識の変化といった事情を踏まえても、憲法に違反しないという判断を変更すべきとは認められない」と指摘し、夫婦別姓を認めず夫婦は同じ姓にするという民法750条の規定は、6年前の判断と同様、憲法に違反しないとする判断を示しました。また「どのような制度を採るのが妥当かという問題と、憲法違反かどうかを裁判で審査する問題とは次元が異なる。制度の在り方は国会で議論され、判断されるべきだ」とし、国会での議論を促しました。

選択的夫婦別姓の議論は国民の多くが関心が高く、また生活に密着する問題でもあります。今回の自民党総裁選での各候補の活発な議論に注目です。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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