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96%が「夫」の姓を選択~夫の死亡で「妻」の「姓」は変更できるのか

竹内豊行政書士
夫が死亡すると妻の「姓」はどうなるのでしょうか。(写真:アフロ)

ご存じの方は多いと思いますが、結婚をすると、夫または妻のどちらかの姓を選択しなければなりません(民法750条)。これを夫婦同氏の原則といいます。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

厚生労働省が発表した平成28年度の人口動態統計特殊報告「婚姻に関する統計」の概要

によると、平成27(2015)年の結婚総数635,156組の内、夫の姓を選択したのは609,756組。一方妻の姓は25,400組で、実に96%が夫の姓を選択し、妻の姓を選択したのはわずか4%という結果が報告されています。

ちなみに、今から46年前の昭和50(1975)年は、結婚総数941,628組の内、夫の姓は930,133組(98.8%)、妻の姓は11,495組(1.2%)です。

このように、ほとんどが夫の姓を選択しているのが実情です。そこで、結婚時に、妻が夫の姓を選択したとして、夫が死亡した後に、妻の姓はどうなるのか考えてみたいと思います。

夫が死亡すると妻は「続称」か「旧姓」を選択できる

夫の死亡によって、婚姻(法律では結婚のことを「婚姻」といいます)が解消された場合、妻(=生存配偶者)は、そのまま婚姻中の氏を称し続けるか(続称)、または「婚姻前の氏」に復するか(復氏)のいずれかを自由に選択することができます(民法751条1項)。

民法751条1項(生存配偶者の復氏等)

夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。

逆に言うと、「夫婦同氏」の効力は、夫婦の一方の死亡解消によって、当然には消滅しないことを意味しています。

期限はない

ご紹介した民法751条1項の復氏手続きには、時的制限はありません。したがって、夫の死亡から相当の年月が経っていても、復氏の手続をすることができます。

夫と「離婚」すると旧姓に戻る

一方、離婚の場合は、妻は当然に結婚前の姓に戻ります(民法767条1項)。ただし、離婚日から3か月以内であれば、届出をすれば前夫の姓を称することができます(同条2項)。このことを婚氏続称といいます。

このように、離婚で婚氏続称を選択する場合は、「離婚日から3か月以内」という届出の時的制限が設けられていることに注意が必要です。

民法767条(離婚による復氏等)

1 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。

2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。

ご覧いただいたとおり、結婚時に夫の姓を選択して姓が変わった妻は、夫の死亡によって届出をすれば旧姓に戻すことができます。

夫である一人としては複雑な心境ですが、なんらかの理由で夫が死亡後に結婚前の姓に戻したいとお考えの方や既に夫が死亡していて旧姓に戻したい方はご紹介した復氏の届出の利用をご検討してみてはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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