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「キラキラネーム」を付けることができる理由~「命名のルール」と「名の変更」

竹内豊行政書士
”ひろゆき”こと西村博之氏の「キラキラネーム」のつぶやきが議論を呼んでいます。(写真:JIKOMAN/イメージマート)

一般的に、親などが独自の当て字をつけ、初めて見たらまず読めないような個性的な名前を“キラキラネーム”と呼びます。そのキラキラネームをめぐって、2ちゃんねる開設者の“ひろゆき”こと西村博之氏が、元YouTuberのワタナベマホト容疑者逮捕に関する次のようなつぶやきがネットなどで議論されています。

《親の知能は子供に遺伝します。他人が自分の子供を呼ぶために、名前をつけるのですが、一般的に読めない名前をつける親は頭が良くない可能性が高いです。よって、読めない名前の子供は遺伝により頭が悪い可能性が高いです。と言う話をしてたら、また実例が増えました》

引用:ワタナベマホト逮捕、ひろゆき氏発言で吹くキラキラネームへの逆風

そこで、キラキラネームと呼ばれるものにはどのようなものがあるか調べてみました。すると、次のようなお名前を見つけることができました。

男(あだむ)

姫星(きてぃ)

稀星(きらら)

緑夢(ぐりむ)

心桃(こもも)

柊斗(しゅうと)

七音(どれみ)

今鹿(なうしか)

黄熊(ぷう)

萌愛美(もなみ)

本気(りある)

月子(るな)

玲苑(れおん)

このような個性的なお名前を初めて見たら、確かに読むことは困難でしょう。

そこで、今回は名前は自由に付けることができるのか、そして、もし名前を変えたい場合はどうしたらよいのか考えてみたいと思います。

命名~だれが子に名前を付けるのか

名は氏(法律では「姓」のことを「氏」といいます)と結合して個人を識別し、その同一性を示すものです。そして、出生した子の名は命名行為によって決まります。

命名の規定がない

実は、民法には命名行為について規定がありません。そして、戸籍法は、父母その他を出生届出義務者と規定するので、事実上、この義務者が命名したものが、その子の名となっています。

戸籍法52条(出生)

1.嫡出子出生の届出は、父又は母がこれをし、子の出生前に父母が離婚をした場合には、母がこれをしなければならない。

2.嫡出でない子の出生の届出は、母がこれをしなければならない。

3.前2項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、左の者は、その順序に従つて、届出をしなければならない。

第1 同居者

第2 出産に立ち会つた医師、助産師又はその他の者

4.第1項又は第2項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、その者以外の法定代理人も、届出をすることができる。

戸籍法56条(出生)

病院、刑事施設その他の公設所で出生があつた場合に、父母が共に届出をすることができないときは、公設所の長又は管理人が、届出をしなければならない。

名前の文字の基準

戸籍法では、名前の文字は「常用平易な文字」を用いなければならないとしています。

戸籍法50条

1.子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。

2.常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。

したがって、日本語には、ひらがな、カタカナがあり、漢字については常用漢字表と人名用漢字表に記載されている漢字であれば、自由に組み合わせて使うことができます。

「読み方」に制限がない

ただし、読み方には制限がありません。戸籍の名の欄には漢字の読み方が記載されず、出生届に「よみかた」があるだけです。そのため、難解な読み方や、いわゆるキラキラネームを付けることができるのです。

このように、事実上、命名の自由が認められています。

命名権の濫用

しかし、いくら命名の自由が認められるからといっても、命名権の濫用にあたるような場合、たとえば、社会通念上明らかに名として不適切とみられたり、一般の常識から著しく逸脱している場合、または名の持つ本来の機能を著しく損なうような場合には、市町村長は審査権を発動し、名前の受理を拒否することも許されます(東京家庭裁判所八王子支部・審判・平6年1月31日~父親が子に「悪魔」と命名した事例)。

名の変更~名前は変えることができるのか

では、命名された名前を自らの意思で変えることはできるのでしょうか。名の変更については、正当な事由があれば、家庭裁判所の許可を得て変更することができます。

戸籍法107条の2(氏名の変更)

正当な事由によつて名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

正当な事由とは、名が珍名・卑猥・難解である場合、通称名として定着している場合などが挙げられます。個人を識別するのに氏を用いることが慣例化している日本では、名は氏よりも個人の同一性の識別度が低いことから、氏が「やむを得ない事由」がなければ変更の許可が認められないのと比べて比較的穏やかに変更が認められています(戸籍法107条)。

戸籍法107条(氏名の変更)

やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。

このように、名に使用できる漢字は決められていますが、読み方に制限はありません。また、命名権の自由は認められていますが、権利の濫用という歯止めはあります。そして、正当な事由があれば、家庭裁判所の許可を得て名を変更することができます。

名前は原則として一生付き合っていくことになります。命名権を有する方(その多くは親)は、子の将来まで見据えて選定することが必要ではないでしょうか。

また、付けられた名前が生きていくうえで支障になるようであれば、法は変更できる道を用意しています。もし、名前についてお悩みの方は、権利として名前の変更を検討するのもよいと思います。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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