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96%が「夫」の姓を選択~「選択的夫婦別姓制度」で知っておきたいこと

竹内豊行政書士
「選択的夫婦別姓制度」の議論が活発になっています。(写真:アフロ)

「選択的夫婦別姓制度」に関する議論が活発になっています。「夫婦の姓」に関しては、多くの方がかかわる問題です。そこで、「選択的夫婦別姓制度」を考えるに当り、「これだけは」知っておきたいことにつてお伝えしたいと思います。

夫婦は「同じ姓」を名乗らなければならない~「夫婦同氏の原則」

現行民法では、男女が結婚するときは、全ての夫婦は必ず同じ姓を名乗らなければならないことになっています。このことを「夫婦同氏の原則」と呼びます(「姓」や「名字」のことを法律上は「氏」と呼びます)。

民法750条(夫婦の氏)

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

したがって、現行制度では、夫婦の姓を夫または妻の姓に定めなければ、婚姻届は受理されません。

戸籍法74条(婚姻)

婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

一 夫婦が称する氏

二 その他法務省令で定める事項

96%が夫の姓を選択

厚生労働省の「平成28年度人口動態統計特殊報告『婚姻に関する統計』の概況」によると、平成27年における「婚姻後の夫妻の氏別にみた婚姻」は、婚姻総数635156組のうち、夫の姓を選択したのは609756組、一方妻の姓を選択したのは25400組であり、実に96%が夫の姓を選択しています。このように、現実には、男性の氏を選び、女性が氏を改める例が圧倒的多数です。

「事実婚」を選択するカップルも

姓は単に個人の呼称というだけではなく、姓は名と結合することで社会的に自己を認識させるものであり、自己の人格と切り離して考えることができないという側面があります。そのため、婚姻届を出さずに夫婦として生活する事実婚を選択するカップルもいます。

「憲法の原則を制限する」という意見も

夫婦の姓を夫または妻の姓に定めなければ、婚姻届が受理されないという制度に対して、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する」という憲法の原則を制限するという意見があります。

憲法24条

1.婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

2.配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

「選択的夫婦別姓制度」とは

選択的夫婦別姓制度とは、このような夫婦は同じ性を名乗るという現在の制度に加えて、希望する夫婦が結婚後にそれぞれの結婚前の姓を名乗ることも認めるというものです。

夫婦が姓を「選択」できる制度

選択的な制度ですから、全ての夫婦が別々の姓を名乗らなければならないわけではありません。現行法のとおり夫婦が同じ姓を名乗りたい場合には同じ姓を名乗ることもできますし、夫婦が別々の姓を名乗ることを希望した場合には別々の姓を名乗ることもできるようにしようという制度です。

選択的夫婦別姓制度の導入は、単に婚姻における「姓」の選択という制度上の問題にとどまらず、婚姻制度や家族の在り方、そして人格権とも関係する重要な問題です。「生きやすい社会」を実現するためにも、今後、より一層議論は活発になる選択的夫婦別姓制度に対して、私たち一人ひとりがこの問題に対して注視していくことが大切ではないでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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