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「福原愛」さん「別の部屋」なら「不倫」にならないか~「不倫」「不倫ではない」の境界線

竹内豊行政書士
福原愛さんは不倫疑惑に「一緒の部屋」ではなかったと不倫を否定しました。(写真:Motoo Naka/アフロ)

週刊誌で不倫疑惑が報道された元卓球日本代表の福原愛さん(32)が、先週4日、一連の報道に関して直筆のコメントを公開しました。その一部をご紹介します。

2021年1月に、これまでの想いを具現化すべく個人事務所を設立させていただいたのですが、社会人経験がない私にとって、すべてが初めての経験であり、自分の無知さを痛感した日々でもありました。そうした中、社会人の先輩として尊敬していた友人にアドバイスをいただく際に気分転換を兼ねて、外出いたしました。一緒の部屋に宿泊した事実はありません。

引用:福原愛さんが直筆謝罪文「真摯に反省」不倫は否定

このように、福原さんは「社会人の先輩として尊敬していた友人」にアドバイスをもらうために気分転換を兼ねて外出しましたが、「同室」に宿泊したことを否定しています。

この「同室」に宿泊した・しないが「不倫」か否かのポイントのようです。そこで、今回は、「不倫」すなわち「不貞行為」になる・ならないの境界線について考えてみたいと思います。

「不貞行為」は離婚原因になる

民法は、「配偶者に不貞な行為があったとき」を離婚原因として規定しています(770条1項1号)。

民法770条(裁判上の離婚)

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

これは、婚姻の効果として夫婦間に貞操義務があることを前提として、その義務違反行為としての不貞行為を離婚原因とする趣旨です。

「不貞行為」とは何か

不貞行為の典型例は「姦通」、つまり、配偶者以外の異性との性交です(注)。もっとも、不貞行為という概念をどのように理解するかは、多分に社会的倫理観によって左右される面があり、必ずしも確定したものではありません。

(注)同性との性的関係は不貞行為に当たらず、5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の理由となり得るにとどまります(名古屋地方裁判所昭和47年2月29日)。

「判例」が示す不貞行為

判例は、不貞行為とは「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」とし、被告である配偶者の自由意志に基づく姦通に限定しています(最高裁判決昭和48年11月15日)。

「一度だけ」ならセーフか

もっとも、不貞行為を姦通に限定するとしても、その回数や期間は問いません。したがつて、ごく短期間の一時的な関係であっても、不貞行為となり得ます。もとより、その場合には、事情によっては、前掲770条2項により離婚請求が棄却される余地が残ります。

一般に、離婚訴訟となる事案では多くの場合継続的な性的関係が存在している場合がほとんどです。

離婚裁判は「証拠」集めがカギ

前述のとおり、判例は、不貞行為を「配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」と解釈することから、被告が「不貞行為をしていない」と争う場合には、原告において不貞行為を立証しなければなりません。しかし、不貞行為は「バレないように」するのが普通なので、このことは通常、簡単ではありません。

そこで、原告としては、間接証明を積み重ねるしかなく、たとえば、不貞を推測させる手紙やメール、ホテルや食事などにかかわる領収書やクレジットカードの明細などを証拠として裁判所に提出することになります。

「性的関係が推測される」として不貞行為を認めた裁判例

性的関係が推測されるとして不貞行為を認めた裁判例をみてみましょう。

1.頻繁な外出・朝帰り

夫が特定の女性と連れ立って頻繁に外出し、帰宅が遅くなることも稀ではなく、翌朝まで帰宅しなかったことなどの事情を認定し、「単なる友人の域を超えて性的関係ありと推認すべき」として不貞行為に該当するとした事例(横浜地方裁判所判決昭和39年9月2日)。

2.二人きりで部屋に閉じこもりドアを直ぐに開けなかった

妻がアパートの一室に鍵をかけて特定の男性と二人きりでおり、ドアをノックしてもすみやかに開けなかったことや、示談交渉の席で不倫関係を明確に否定せず、示談金の提案に対しても「考えてみる」といった態度であったことを総合して、妻について「通常の交際の範囲を超えた深い男女関係にあったと推認」して不貞行為を認めた事例(東京地方裁判所判決昭和47年3月18日)。

実際のところ、離婚原因としての不貞行為を立証することは困難を伴うので、実務上は、1号の「不貞行為」だけではなく、5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(「抽象的離婚原因」といいます)も合わせて主張されることが少なくないようです。

裁判例としては、「情交関係があったとまではいえないが、異性と度を超えた親密は認められる」という事案(東京高等裁判所判決昭和47年11月30日)で、5号により離婚が認められたケースがあります。

今回の行動を、福原さんは冒頭のコメントで、「世界中が困難に直面するなか、皆様に誤解や疑いを持たれる行動をとってしまったこと、大変申し訳ございませんでした。」と記しています。確かに、一連の報道のとおり、夫が知らない状況下で、異性と別室とはいえ同じホテルに宿泊したとすれば、「通常の交際の範囲を超えた深い男女関係」にあったと「誤解や疑いを持たれる行動」と思われても致し方ないかもしれません。

結婚生活を波風立てずに継続することを望むなら、異性との付き合いは「貞操義務」があることを念頭に入れた「友人」としての範囲に止め、「不貞行為」と推認(推測)される行動はしないことがよいようです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『親に気持ちよく遺言書を準備してもらう本』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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