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安倍首相と昭恵夫人が「家庭内別居」状態~夫婦間の「同居」と「別居」

竹内豊行政書士
安倍首相と昭恵夫人が「家庭内別居」だそうです。(写真:つのだよしお/アフロ)

安倍首相と昭恵夫人が「家庭内別居」の状態で夫婦の会話がほとんどないという報道がありました。

安倍家に近い政界関係者が証言する。

「総理の健康悪化の原因は『激務による疲れとストレス』といわれてきましたが、その原因の何割かは家庭内、特に昭恵夫人の行動にあったことは間違いありません」

 そもそも夫婦関係は冷え切っていたという。

「昭恵さんとは“家庭内別居”状態。以前は私邸の3階に総理の母で“政界のゴッドマザー”洋子さん(92才)、2階に夫妻が暮らしていましたが、昭恵さんは1階で過ごすことが増えたようです。夫婦間の会話はほとんどない状況で、一緒に食事をすることすらまれ。たまに会話を交わすのは、地元選挙区対策の話ぐらいのようです」(前出・安倍家に近い政界関係者)

出典:安倍首相「家庭内別居」状態 夫婦間の会話はほとんどなし

そこで今回は、夫婦間の「同居」と「別居」について考えてみたいと思います。

結婚すると「同居」は義務

結婚をすると「同居」義務が発生します(民法752条)。 この「同居義務」は、「協力」「扶助」義務と合わせて、婚姻共同生活を維持する基本的な義務とされています。

民法752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

同居義務は、結婚の成立、つまり役所に婚姻届を届出た時から発生し、結婚の解消まで存続します。

同居義務とは、夫婦として同居する義務のことをいい、単なる場所的な意味ではありません。したがって、同じ屋根の下でも、たとえば障壁を設けて生活を別にするのは民法が想定している夫婦間の同居ではありません。

冒頭の記事が事実だとすると、「夫婦としての同居」とは言い難いので、実際は同居されていますが、同居義務を果たしているかは疑問です。

「別居」をしていても「同居」は成立する

一方、場所的に隔たっていても同居は成立するとされています。単身赴任や入院加療など「正当な理由」による別居は同居義務違反にはならないとされています。

たとえば、先月、篠原涼子さんと市村さんご夫妻の別居が次のように報じられました。

■本誌の取材に所属事務所は「別居は事実です」

「篠原が市村さんと別居をしていることは事実です。しかし、不仲が原因ではなく、ドラマの撮影で大勢の人と接することもあり、家族へ感染させないための一時的な処置です。仕事のない緊急事態宣言中の2カ月間は自宅に戻っていましたし、ドラマの撮影終了後の8月下旬には別居を解消し自宅での生活に戻ると聞いています」

別居は認めたものの、あくまでコロナ禍によるものだというのだ。篠原が別居を決断した背景について前出の知人は言う。

「がんを患っていた人はコロナの重症化リスクが高いこともあり、市村さんの体調を気遣って篠原さんは別居を決断したそうです。また、舞台を中心に活動する市村さんの仕事がコロナで軒並みキャンセルに。時間の空いた市村さんが篠原さんに『俺が子どもを見るからドラマの撮影に集中しなさい』と後押ししたことも大きかったようです」

出典:篠原涼子 市村正親と別居していた!事務所も「事実」と認める

この記事によると、市村さんと篠原さんの別居の理由は、おもに家庭内クラスターの発生防止のようです。したがって、別居をするのに「正当な理由」があり、同居義務違反には当たらないと考えられます。

「同居」を法的義務にすることに疑問の声も

しかし、女性の雇用が進んでいる今日、別居したまま婚姻を継続する夫婦も実際います。そこで、同居を婚姻の典型として法的義務とすることは、婚姻生活の多様化に反するものであり、立法論として、同居を「夫婦の協力義務の一形態」とすべきという意見があります。

そこで、民法752条は、夫婦はその性格上同居することを原則とする。しかし、同居するかどうかは、夫婦間の協議で決めることができる。そして、「お互いに同居する」と合意した場合は、「正当な理由」がない限り同居の義務を負うと柔軟に考えるべきでしょう。

「正当な理由なし」で同居を拒否した場合

正当な理由なくして同居を拒否した場合、他方は別居をした相手に対して家庭裁判所に同居を命ずる審判を求めることができます。

しかし、実際のところ同居という作為義務は直接強制にも間接強制にもなじまないため、これを強制する手立ては実際のところありません。このような場合は、同居義務違反として離婚原因(民法770条1項2号「配偶者からの悪意の遺棄」)となり、離婚慰謝料の理由となる可能性があります。

民法770条(裁判上の離婚)

1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意【注】で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2.裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

【注】悪意の遺棄とは、正当な理由なくして、夫婦の同居協力扶助義務に違反する行為のことをいいます。相手方を捨てて家出をする行為だけではなく、相手方を追い出したり、いたたまれなくなって出ていかざるをえないように仕向ける行為も含まれます。ただし、相手方が同居や扶助を拒むことに正当な理由がある場合には、悪意の遺棄にはなりません(最高裁判決1964年9月17日)。

なお、婚姻生活が破綻したり離婚訴訟が継続中で夫婦の信頼関係が奪われたりして、円満な夫婦生活が期待できないような場合には、一方の同居請求に対して同居を拒むことができます。

このように、結婚をすると夫婦は民法により同居が義務付けられます。ただし、「正当な理由」があれば別居も可能です。そして、民法が意図している同居とは、単に場所的な外形的な意味ではなく、「夫婦として同居する」ということです。外形より中身が大切ということですね。さて、あなたのご家庭はいかがですか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『親に気持ちよく遺言書を準備してもらう本』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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