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新型コロナウイルスを「夫婦」で乗り切る!~憲法が唱える「結婚」の本質。

竹内豊行政書士
緊急事態宣言という非常時を、夫婦で乗り切るための憲法をご紹介します。(写真:アフロ)

令和2年5月3日に73回目の憲法記念日を迎えました。憲法記念日は、国民の祝日に関する法律第2条で次のように定められています。

憲法記念日 5月3日 日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する。

現在、新型コロナウイルスが蔓延し、緊急事態宣言が続く中、先行き不透明で社会全体が混乱・沈滞してしまっています。そして、家庭環境が突然変わってしまい「コロナ離婚」という言葉が流行るなど、深刻な状態を抱えてしまっているご家庭も少なくないと思います。

そこで、憲法記念日の今回は、日本国憲法(以下、「憲法」といいます)の中から、婚姻(法律では、「結婚」のことを「婚姻」といいます)について規定している24条をご紹介したいと思います。

憲法が定める婚姻の基本理念

日本国憲法は、24条1項で婚姻の基本理念を次のように規定しています。

日本国憲法第24条1項

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

夫婦が負う3つの義務

このように、憲法は、婚姻について「両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定めました。

ここでは、明治憲法下での「家制度」は廃止され、婚姻は、それ自体が独立した家族関係と位置づけられました。その結果、夫婦は本条によって、それぞれ対等な当事者として相互に次の3つの義務を負います。

1.「両性の合意のみ」に基づいて成立する

第1に、婚姻が両性の合意のみに基づいて成立することを要求しています。婚姻をする者に自由な独立した人格を認め、婚姻はそれを基礎とする一種の契約であるという婚姻観を表明しています。

2.夫と妻が平等の権利を有することを基本とし、相互の協力によって婚姻が維持されなければならない

第2に、夫と妻が平等の権利を有することを基本とし、相互の協力によって婚姻が維持されなければならないとしています。

これにより、性差別は否定され、夫婦の法的地位の平等と同権が保障されました。憲法は、「夫婦間の平等の権利」が前提にあって、初めて、夫婦相互の愛情と協力による家庭生活が維持できると考えているのです。

協力のあり方については、「夫は外で仕事」「妻は家で家庭を守る」とった伝統的な男女の性別役割分業を見直すことが課題とされています。家事・育児などを男女の共同責任とし、社会にも家庭にも男女が積極的に参加できる社会作りが今後一層目指されています。

3.一夫一婦主義

第3に、一夫一婦主義です。これは、先の2つの点と表裏の関係にあり、近代民法の婚姻の本質とされています。パートナー関係の独占排他性である。過去には一夫多妻制や妻妾制度なども存在しました、現在では、民法で重婚が禁止されているとおり、同時に複数の者と婚姻関係を持つことは公認されていません(民法732条)

民法732条(重婚の禁止)

配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

民法の同居・協力・扶助の義務

そして、日本国憲法が定める婚姻の基本理念を実現するために、民法は752条で、夫婦に同居・協力・扶助の3つの義務を明確に規定しました(民法752条)

民法752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

1.同居義務

夫婦として同居する義務です。同居義務違反は離婚原因(民法770条1項2号)となり、離婚慰謝料の理由にもなります。

2.協力義務

婚姻共同生活を営むための義務です。その内容は各夫婦の事情によって当然異なります。日常生活を継続的に維持するため、病気になってしまったときの看護について、子どもの養育についてなど、あらゆるものが含まれます。

3.扶助義務

夫婦相互的な経済援助を意味します。夫婦は同居して共同生活を維持するのですから、もし、相手方が要不要状態に陥ってしまった場合には、相手方の生活を自己の生活と同じように保持する義務があります。

以上ご紹介した民法752条に規定する同居・協力・扶助義務は、婚姻の本質的義務とされており、したがって、本条は強行規定(当事者間の合意に優先して適用される条項のこと。強行法規に抵触する契約条項は無効とされる)と解されています。

貞操義務

なお、民法の条文に規定はありませんが、重婚が禁止され(前掲:民法732条)、同居協力扶助義務が規定され(前掲:民法752条)、不貞行為(夫または妻以外の人と性的関係を持つこと)が離婚原因になることから(民法770条1項1号)、また、一夫一妻制という婚姻の本質から、夫婦は相互に貞操義務を負うとされます。

緊急事態宣言の下、「コロナ離婚」という切ない言葉が流行っています。しかし、このような厳しい状況だからこそ、憲法24条が唱える夫婦の「相互の協力」による「夫婦力」が活きてくるのではないでしょうか。

まずは、ゴールデンウイークに夫婦で衣替えの準備などしてみてはいかがでしょうか。

参考文献『新注釈民法』(二宮周平編集・有斐閣)、『家族法 第5版』(二宮周平・新世社)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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