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「知りません」では済まされない 改正相続法 4月1日 全面解禁!~「遺言作成」この「3つ」に注意!

竹内豊行政書士
改正相続法によって、遺言書が作成しやすくなりました。ただし、注意点があります。(写真:アフロ)

今月4月1日、「改正相続法」が全面解禁になりました。

平成30(2018)年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号、以下「改正相続法」といいます)が成立しました(同年7月13日公布)。

民法のうち相続法の分野については、配偶者の法定相続分の引上げ等を行った昭和55(1980)年以来、実質的に大きな見直しはされてきませんでした。今回の相続法改正は、実に40年ぶりに行われたことになります。

今回の改正は、平成31(2019)年1月13日に施行された「自筆証書遺言の方式を緩和する方策」を皮切りに、原則的に、令和元年(2019)年7月1日に施行されました。そして、今月4月1日に「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」が施行されることで、ここに全面施行となりました。

今回の改正相続法の背景としては、「進む少子高齢化」とそれに伴う「残された配偶者」(おもに夫に先立たれた妻)の生活保護の必要性があります。

また、特徴としては「遺言」の活用を促進する方策が多数含まれている点、「配偶者保護」の方策が複数含まれている点、そして利害関係人の「実質的公平」を図るための見直しがされた点の3つが挙げられます(改正相続法の背景と特徴について詳しくは、「知りません」では済まされない 改正相続法 本日4月1日 全面解禁!~その「背景」と3つの「特徴」をご覧ください)。

そこで、今回は3つの特徴の内、「遺言の活用を促進する方策」についてみてみることにしましょう。

自筆証書遺言の方式が緩和された(民法968条関係)

今回の改正相続法では、遺言を普及させるために、次のように自筆証書遺言の方式を緩和しました。

「財産目録」は自書を要しない

従来は、自筆証書遺言(自分で書いて残す遺言)の成立要件は、遺言者(=遺言を残す人)が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印を押すことが求められていました。今回の改正相続法では、遺言を普及させるために、自筆証書によって遺言をする場合において、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録を添付するときは、その目録については自書することを要しないとして、自筆証書遺言の成立要件を緩和しました。

民法968条(自筆証書遺言)

1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

自書によらない「財産目録」を添付する場合の3つの注意点

自書によらない「財産目録」を添付する場合は、次の3つの点に注意が必要です。

1.財産目録の「全頁(ページ)」に署名押印が必要

自筆証書遺言に自書によらない目録を添付する場合には、遺言者は、目録の各頁に署名押印をしなければなりません。

2.自書によらない記載がその「両面」にある場合

特に自書によらない記載がその両面にある場合には、財産目録の両面に署名押印をしなければなりません。

3.本文とは「別の用紙」に作成する

「貼付する」とは、文字どおり、書類などに他のものを付け加えるという意味です。そのため、自筆証書に添付する財産目録についても、本文の記載がされた用紙とは別の用紙に財産目録を作成する必要があります。したがって、遺言書の本文が記載された自筆証書と同一の用紙の一部に財産目録を印刷して遺言書を作成することはできません。

自書によらない「財産目録」の具体例

財産目録については、各頁に署名押印を要求する以外には、特段の方式を定めていません。したがって、次のようなことも許されます。

・遺言者本人がパソコン等を用いて作成した財産目録を添付する。

・遺言者以外の者が作成した財産目録を添付する。

・不動産の登記事項証明書や預貯金通帳の写し等を財産目録として添付する。

以上ご覧いただいたとおり、「財産目録」を自書によらないで作成できることで、遺言者の作成に要する負担を軽減し、遺言を作成する人が増えることが期待されます。さらに、今年7月10日に、遺言書保管法が施行されることにより、自筆証書遺言が遺言書保管所(法務局)で保管できることになります。

遺言を残すことで、遺言者は自分の思うとおりに財産を残すことが可能となります。また、相続人等は、相続手続をスムーズに進めることができます。

遺言を残そうか迷っている方は、相続法が改正されたことをきっかけに、ぜひ実行してみてはいかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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